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PRESS RELEASE

2010年5月28日
富士通株式会社
学校法人中央大学

スーパーコンピュータによる量子化学の計算で世界初の記録を達成

3分子の挙動解明のための最適化問題を解決し、科学技術の研究に貢献

富士通株式会社(注1)(以下、富士通)が国立大学法人京都大学(注2)(以下、京都大学)学術情報メディアセンターに納入した「T2Kオープンスパコン」を用いて、中央大学(注3)、京都大学、国立大学法人東京工業大学(注4)、独立行政法人理化学研究所(注5)の研究チーム(注6)が、メチルラジカル(CH3)、アンモニア(NH3)、酸素(O2)について、分子の挙動を解明するための最適化問題を精密に計算することに世界で初めて成功しました。

今回の成果は、目で見ることができない複雑な分子の挙動について計算の道を拓く成果であり、水分子の挙動、タンパク質の性質、光合成、超電導のメカニズムの解明によって、新薬や新素材の開発に貢献できます。さらに今後は、物理・化学の分野のみならず、自然科学や、制御設計や信号・画像処理などの工学、社会科学の分野で、幅広い応用が期待されます。

スーパーコンピュータで出来ること

スーパーコンピュータ(以下、スパコン)は、その時代の一般的なコンピュータでは解くことが困難な大規模で高度な計算を高速に処理できるコンピュータであり、地球環境や医療、ものづくりなど人類社会の重要課題を解決するためのツールとして注目されています。

スパコンが必要とされる大きな理由は、コンピュータ・シミュレーションにあります。コンピュータ上でさまざまな現象を計算によって再現するコンピュータ・シミュレーションは、理論、実験に次ぐ第3の科学といわれ、基礎研究からものづくりまであらゆる研究開発において必須のツールとなっています。

富士通が京都大学学術情報メディアセンターに納入した「T2Kオープンスパコン」は、大規模な科学技術計算に対応したものです。

CPU AMD Opteron 8356 2.3GHz かける 4
メモリ 32GByte
NIC GbE かける 2 & Infiniband かける 4

図1 T2Kオープンスパコンとスペック

背景

身の回りのさまざまな物理や化学現象は、シュレーディンガー方程式(図2)とよばれる方程式に支配されています。シュレーディンガー方程式を計算することができれば、原子や分子の状態やエネルギーが分かり、いろいろな現象を理解できます。

例えば、二酸化炭素(CO2)はどうやって酸素(O2)になるのか、2つの物質を混ぜたら何がおこるか、どうやったら効果のある薬を設計できるかを知ることができます。シュレーディンガー方程式を計算することで、このような化学現象の仕組みを、実験をすることなく解明することができます。

しかし、現実には、方程式を厳密に適用すると複雑過ぎて計算できる望みのない大きな計算式になってしまいます。これまでは、比較的簡単に計算できる場合にしか方程式を適用してきませんでした。


図2 シュレーディンガー方程式

従来の課題

2001年に、京都大学の中田真秀(現、理化学研究所研究員)、中辻博教授(現、量子化学研究協会)らは、巨大なシュレーディンガー方程式を解くかわりに、縮約密度行列の直接変分法を最適化問題として解く計算方法を提案しました。

その計算方法は、半正定値計画問題(Semidefinite Programming、以下 SDP)(注7)とよばれる最適化問題の計算を行うものです。しかし、結果は小さな原子・分子に限られ、挙動が複雑なより大きな分子に対して高速に計算をおこなうためには、SDP に対する計算の高速化が鍵になっていました。

今回の成果

今回、中央大学の藤澤克樹准教授らの研究チーム(注6)はSDPの高速な計算方法として、最先端の計算アルゴリズムに基づいたソフトウェアSDPARAの開発を行い、SDPARAをT2Kオープンスパコンで大規模に実行することで、これまで成しえなかったメチルラジカル(CH3)、アンモニア(NH3)、 酸素(O2)に対する SDP の精密な計算に世界で初めて実現しました。

実際の計算においては、最も大きな分子であるアンモニア(NH3)の場合、行列の大きさが19,640 かける 19,640にも達して要素が多すぎるため、一般的な計算機では実用的な時間で処理することが不可能でした(図3)。スパコンを利用することで、図4に示す計算時間で解くことに成功しました。今回、T2Kオープンスパコンの128ノードを使用して計算し、使用したメモリ量は4テラバイト、コア数は2,048コアです。

図3 今回計算に成功した超巨大なSDP

問題名 総計算時間(秒)
H2O 27523.8
CH3 68593.4
NH3 72025.6
O2 5943.1

図4 量子化学分野の超大規模SDPに対する計算時間


本研究の応用

分子の中でも、メチルラジカル(CH3)、アンモニア(NH3)、 酸素(O2)について、その挙動を解明するための最適化問題(SDP)を精密に計算することに世界で初めて成功しました。この方法は複雑な分子の挙動を実験することなく計算することができるため、新薬や新素材の開発、そして、物理や化学、工学などさまざまな分野への応用が可能です。

また、現在いかなるコンピュータをもってしても計算できないとされている超伝導の分野において、スパコンでの計算可能性が開けます。さらに、現在は不可能なエネルギー(電力)の貯蔵や、医療やエレクトロニクスの分野でのイノベーションも期待されます。

今後の取り組み

本研究チームは、これからも高速なスパコンを利用した研究を通して、科学技術の発展に貢献いたします。

謝辞

本研究は京都大学学術情報メディアセンターのスーパーコンピュータ共同研究制度(大規模計算支援枠)の支援を受けてスパコン上での大規模計算を行っております。また、一部に中央大学特定課題研究費の支援を受けてソフトウェアの開発を行っております。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

  注1 富士通株式会社:
執行役員社長 山本 正已、本社 東京都港区。
  注2 国立大学法人京都大学:
総長 松本 紘、本部 京都府京都市。
  注3 中央大学:
総長・学長 永井 和之、本部 東京都八王子市。
  注4 国立大学法人東京工業大学:
学長 伊賀 健一、本部 東京都目黒区。
  注5 独立行政法人理化学研究所:
理事長 野依 良治、本所 埼玉県和光市。
  注6 研究チーム:
中央大学理工学部准教授 藤澤克樹、理化学研究所情報基盤センター研究員 中田真秀、東京工業大学大学院情報理工学研究科助教 山下真、京都大学大学院情報学研究科准教授 木村欣司による研究チーム。
  注7 半正定値計画問題(SDP):
数理的手法の1つである「線形計画問題」から生まれて、現在もなお進歩している分野。世界中で活発なSDPの研究が行われている。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

富士通株式会社
TCソリューション事業本部 計算科学ソリューション統括部
電話: 044-754-8830(直通)
E-mail: t2k-mate@ml.labs.fujitsu.com


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