
2025年3月21日
富士通株式会社
ワイヤレス通信やレーダーの省電力化を実現する世界最高効率のマイクロ波パワーアンプ技術を開発
当社はこのたび、窒化ガリウム(GaN)(注1)高電子移動度トランジスタ(HEMT)(注2)(以下、GaN-HEMT)を用いたパワーアンプで、産業や科学、医療分野で広く使用されている周波数2.45ギガヘルツ(以下 GHz)において世界最高の電力変換効率85.2%(注3)を達成する技術(以下、本技術)を開発しました。本技術は、電波を遠くへ飛ばすために必要なパワーアンプの電力損失を低減するもので、無線通信やレーダーに加え、無線電力伝送などへの活用も期待されています。これにより、ワイヤレス機器の消費電力を低減しCO2排出量を削減することで、持続可能な社会の実現に貢献します。
なお、本成果の詳細は、応用物理に関する先進的な成果を掲載する学術論文誌「Applied Physics Express」に、2025年3月19日付で掲載(注4)されました。
背景
スマートフォンやWi-Fiに代表される無線通信、気象や防衛向けレーダー、電子レンジなどの家電製品など、豊かで便利かつ安心安全な現代社会に不可欠な機器は、ギガヘルツオーダーの極めて高い周波数の電波が支えています。それらの電波を発生させるためには多くの電力を消失しており、特に、電波を空間に放出させるために用いるパワーアンプは消費電力が大きいため、地球環境に配慮するためにその高効率化が重要になっています。
GaN-HEMTは、シリコンを用いたトランジスタよりも出力や効率における性能が優れているため、2000年代半ばに移動通信の基地局向けパワーアンプとして初めて実用化されて以降広く普及しています。しかし、GaN-HEMTは、形状を保つ支持基板と、その上に成長させたGaN結晶を基に製造されますが、当初は異なる材料から成る基板に成長させたGaN結晶を用いていたため、結晶の乱れが生じてしまい欠陥による特性劣化が避けられませんでした。近年では、同一材料のGaNから成る基板が入手できるようになり、GaN結晶の高品質化による特性の更なる向上が期待されており、当社は2021年に、GaN基板に成長させたGaN結晶を用いて従来のSiC基板を凌駕する世界トップの電力変換効率82.8%を達成しています(注5)。
今回開発した高品質GaN-HEMTによるパワーアンプ高効率化技術
当社は、GaN-HEMTによるパワーアンプのさらなる高効率化を行うため、電流を多く流したいチャネルと呼ばれる層の高品質化と、電流を流したくないバッファと呼ばれる層の高抵抗化を行いました(図1)。チャネルの高品質化については結晶成長条件を見直し、電子トラップ(注6)の原因となる結晶中の残留炭素原子を低減しました。バッファの高抵抗化については、電子を放出して抵抗を下げてしまうシリコン原子不純物を無効化するために鉄原子を添加することで、200Vの高電圧条件下においても漏れ電流を抑制し、高い抵抗を維持しました。これらの技術により、ISMバンド(Industrial Scientific and Medical Band)である2.45GHzにおいて85.2%の電力付加効率(注7)および89.0%のドレイン効率(注8)を達成しました。いずれも2025年3月19日現在、世界最高効率の値です(図2)。


今後の展開
当社は今後、本技術の実用化を目指し、実装技術の開発と信頼性の評価を進めていきます。また、ミリ波やサブテラヘルツ波などの高周波デバイスにも同技術を適用することで、広い周波数範囲でワイヤレス機器の省電力化を行い、当社のマテリアリティ(必要不可欠な貢献分野)の一つである地球環境問題の解決に貢献していきます。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
注釈
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注1窒化ガリウム(GaN):
ワイドバンドギャップ半導体で、シリコン(Si)やガリウムひ素(GaAs)などの従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長がある。 -
注2高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor):
バンドギャップの異なる半導体の接合部にある電子が、通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通株式会社が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話基地局、GPSを利用したナビゲーションシステムなど、ICT社会を支える基盤技術として広く使用されている。 -
注3世界最高の電力変換効率85.2%:
当社調査に基づく。 -
注4学術論文誌「Applied Physics Express」に、2025年3月19日付で掲載:
論文タイトル “AlGaN/GaN HEMT on free-standing GaN substrate with record 85.2% power-added efficiency at 2.45 GHz”(2025年3月19日公開)
https://doi.org/10.35848/1882-0786/adbc79 -
注5技術トピックス:
世界最高効率の省電力マイクロ波パワーアンプを開発(2021年3月2日) -
注6電子トラップ:
半導体結晶中の不完全な部位であり、電子が捕獲および放出されることで不安定な動作や劣化の原因となる。 -
注7電力付加効率:
電力変換効率を表す指標の一つ。与えたDC(直流)電力がどれだけ信号の増幅に寄与したかを示す。 -
注8ドレイン効率:
電力変換効率を表す指標の一つ。与えたDC電力がどれだけ出力電力に寄与したかを示す。
関連リンク
- 高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor)がIEEEマイルストーンに認定 (2019年12月18日 プレスリリース)
- 世界最高効率の省電力マイクロ波パワーアンプを開発 (2021年3月2日 技術トピックス)
- 世界初!新材料窒化アルミニウムを用いた高出力パワーアンプの開発に成功(2022年1月25日 技術トピックス)
- 6G高速通信に向けた世界最高効率のJ帯パワーアンプを開発 (2023年2月27日 技術トピックス)
- 無線通信やレーダーの長距離化に向けた世界最高出力のX帯パワーアンプを開発 (2024年3月25日 技術トピックス)
本件に関するお問い合わせ
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0120-933-200(通話無料)受付時間: 9時~12時および13時~17時30分(土曜日・日曜日・祝日・富士通指定の休業日を除く)
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