2024年6月3日
富士通株式会社

犯罪心理学と生成AIの融合によるカスタマーハラスメント体験AIツールを開発

従業員の心理的負担を軽減しカスタマーハラスメント応対スキルを高めるため、1人1人の特性に合わせた働きかけを実現


当社は、学校法人東洋大学注1(以下、東洋大学)と共同で、カスタマーハラスメント疑似体験機能とナラティブ注2フィードバック機能を備えたカスタマーハラスメント体験AIツールを開発しました。カスタマーハラスメント疑似体験機能では、犯罪心理学の知見を活用し、カスタマーハラスメントに共通する会話のパターンを学習しそれを再現するAIトレーナーと臨場感のある会話をすることで、様々な業種でのカスタマーハラスメントの疑似体験を可能にしました。ナラティブフィードバック機能では、体験談や専門家からのアドバイスなどの物語形式の文章(以下、ナラティブ)とその内容を語りかけるアバター映像を、ナラティブフィードバックAIにより、個人の特性に合わせて自動で生成することを可能にしました。

本体験AIツールによって、カスタマーハラスメントに伴う生産性の低下や心理的負担を軽減することに貢献していきます。

背景

東洋大学 社会学部 桐生正幸教授が実施した調査によると、販売・レジ業務・クレーム対応などのスタッフの約75%の人がカスタマーハラスメントの被害に遭った経験を持つことがわかっています注3。このようにカスタマーハラスメントの被害を避けることは難しく、生産性の低下や心理的負担を軽減するための施策が様々な業種において求められています。その対策の一つとして、生成AIを活用した会話体験型のトレーニングがあり、会話をもとに導いたフィードバックにおいて、個人の特性ごとに内容をイメージしやすく理解が容易なナラティブな働きかけをすることでより効果を発揮することが期待されています。

開発したカスタマーハラスメント体験AIツール

当社は、東洋大学と共同で、従業員が応対スキルを身に付け、カスタマーハラスメント応対の負担を軽減することを目指して、体験結果から推定した個人の特性に合わせたナラティブを自動で生成し、応対スキルを向上させるカスタマーハラスメント体験AIツールを開発しました。

本体験AIツールは、カスタマーハラスメント疑似体験機能とナラティブフィードバック機能の2つの機能で構成されています(図1) 。

図1. カスタマーハラスメント体験AIツール図1. カスタマーハラスメント体験AIツール

カスタマーハラスメント疑似体験機能

カスタマーハラスメント疑似体験機能は、特殊詐欺訓練AIツールのAIトレーナー技術を応用し開発しました。本機能では、犯罪心理学の知見を活用してカスタマーハラスメントの共通する会話のパターンを学習し、それを再現するAIトレーナーと臨場感のある会話をすることで、様々な業種でのカスタマーハラスメントへの応対の疑似体験を可能にしました。

ナラティブフィードバック機能

ナラティブフィードバック機能では、適切な応対スキルを身に付けるよう促すナラティブとその内容を語りかけるアバター映像をナラティブフィードバックAIによって自動生成します。フィードバックされる文章や映像などを生成するためのプロンプト注4を、独自に開発したナラティブフィードバックAIで心理学的知見にもとづき個人ごとに最適化することで、個人の特性に合わせたナラティブの自動生成を可能にしました(図2)。個人の特性に沿ったナラティブとアバターを自動で生成し、従業員の納得感を高め、適切な応対スキルを身に付けるよう促すことができます。ナラティブフィードバック機能は、以下の3つの技術からなります。

  • 特性理解技術:東洋大学と富士通が2022年9月に共同開発した、バイタルデータから心理特性を推定するAIを応用した本技術では、個人の特性に合わせたナラティブを生成するために、事前のアンケートや、体験中にセンシングした従業員のバイタルデータ、応対データを分析し、カスタマーハラスメントに影響する個人の特性をAIで推定します。犯罪心理学の知見を基に、「不安になりやすい」などのカスタマーハラスメント応対において重要となる心理特性を、推定対象として事前定義しています。
  • 行動選択技術: 個人の特性と推奨行動の対応関係を学習したAIが、特性理解技術により推定した個人の特性に合わせて、犯罪心理学の知見をもとに複数の推奨行動候補から従業員に促す推奨行動を選択します。例えば、カスタマーハラスメントの応対では対象の顧客に共感を示すことが重要であり、顧客の不満を復唱することが推奨されています。こうした行動を推奨行動候補として定義しています。
  • ナラティブ・アバター生成技術:特性理解技術で推定した個人の特性と行動選択技術で選択された推奨行動をもとに、個人に適したナラティブとその内容を語りかけるアバター映像を作成するプロンプトを自動生成します。例えば、ナラティブの長さ、物語が語られる視点、アバターの種類(職業、年代など)、声のトーン、言葉遣いなどを、個人の特性に合わせたプロンプトにより自動生成し、ナラティブとその内容を語りかけるアバター映像を生成します。
図2. ナラティブフィードバック機能詳細図2. ナラティブフィードバック機能詳細

今後について

当社は東洋大学とともに、今後コールセンター職員などを対象に、本体験AIツールの効果を検証していきます。また開発したナラティブフィードバックAIは、営業や人事のコミュニケーションスキル向上に対する働きかけなど、カスタマーハラスメント応対以外にも行動変容を必要とする様々な領域に展開できるもので、今後こうした企業の人材育成の領域においても本技術の有効性を幅広く検証していきます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

注釈

  • 注1
    学校法人東洋大学:
    所在地 東京都文京区、理事長 安齋 隆
  • 注2
    ナラティブ:
    当事者の体験談や専門家からのメッセージなどの「語り」。行動変容の分野では、ナラティブは数値や事実の提示に比べて高い納得感を与え、行動変容を促すことが確認されている。
  • 注3
    出典:
    桐生正幸.悪質クレーム対策(迷惑行為)アンケート調査 -分析結果迷惑行為被害によるストレス対処及び悪質クレーム行為の明確化について-. 2020. https://uazensen.jp/wp-content/uploads/2021/06/2ac702ad21dcbbc237388a89dadb2a50.pdf
  • 注4
    プロンプト:
    生成AIの振る舞いを規定する背景情報や具体的な要求、制約などの指示。

関連リンク

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