PRESS RELEASE

2024年11月26日
富士通株式会社

社会課題解決に向けて自治体施策の効果を最大化する「Policy Twin」技術を開発

予防医療事業への適用で、医療費節減効果と健康改善効果がともに2倍になる施策候補を導出


当社は、自治体の施策(Policy)をデジタルツイン上で再現することで、施策による社会への影響をシミュレーションし、多様な視点で施策の効果を最大化できる技術「Policy Twin」を開発しました。まずは自治体の予防医療事業での効率的なサービス提供を支援する「Policy Twin」の技術を、2024年12月6日より、当社の先端技術を試せる「Fujitsu Research Portal注1」を通して公開します。

高齢化を背景とする医療費増加や医療人材不足などの社会課題を解決するために、限られた社会資源の中で、どの様な人にどの様なサービスを提供するかを定めた自治体の施策を適切に策定し、施策の効果を最大化する必要があります。しかし、例えば予防医療事業では、専門家でも施策の効果を事前に算出することが難しいため、多くの場合、勘や経験に頼って施策が立案されています。さらに、医療機関や住民、行政などのステークホルダーの意見が異なるため、合意形成に時間がかかっています。

今回開発した「Policy Twin」では、実績のある複数の自治体の過去の施策をデジタルツインに再現した上で、それらの複数の施策を参考に新たな施策候補を再構成し、生成された施策候補の効果を過去の施策の実績データをもとにデジタルツイン上で算出することで、効率的な施策立案を支援します。

実際に予防医療事業で本技術を検証したところ、保健指導の提供リソースの要件を満たしつつ、保健指導による医療費の節減効果と健康指標の改善効果をともに前年度の約2倍に向上させる施策候補を導出できました。このように、経済性や健康改善など複数の目標指標を同時に改善する施策の立案が可能となり、施策立案の時間短縮や合意形成の容易化も期待できます。

当社は今後、「Policy Twin」を活用した「健康医療EBPMサービス」注2の2025年度中の提供を目指します。さらに、「Uvance Wayfinders」のコンサルティングサービスにおいて本技術を活用することで、自治体に限らず様々なステークホルダーが行っている事業をデジタル化し、人材不足へ対応したサービス再編、防災・減災、サプライチェーンのレジリエンスなど社会課題解決に貢献していきます。

「Policy Twin」の概要

当社はこれまで、複雑な社会課題の解決を支援するために、AIを含むICTに最新の行動経済学の知見を取り入れた技術群であるソーシャルデジタルツイン注3の研究開発を行っており、人々の行動をデジタルツイン上に高度に再現し、施策の効果や影響を事前に検証可能とするデジタルリハーサル技術の開発に取り組んできました。

このたび、デジタルリハーサル技術を拡張し、経済的な合理性に基づいて社会資源を適切に分配するための理論である実証経済学に基づいて、デジタルツイン上に再現した自治体の施策を事前検証し、効果の最大化や比較検討を可能とする技術「Policy Twin」を開発しました。

図1:文書化された施策情報を機械可読なフロー形式に変換する例(糖尿病性腎症重症化予防事業の例) 図1:文書化された施策情報を機械可読なフロー形式に変換する例(糖尿病性腎症重症化予防事業の例)

図2:「Policy Twin」によるデジタルリハーサルの概要 図2:「Policy Twin」によるデジタルリハーサルの概要

「Policy Twin」で効果的な施策を探索する流れは以下の通りです。

  1. 施策をフロー形式に変換:
    大規模言語モデル(LLM)などによって、文書として公開されている各自治体の施策情報を、提供サービス(保健指導や受診勧奨など)とサービスを提供する対象者を絞り込むための条件分岐(血糖値や腎障害の条件など)から成る機械可読なフロー形式に変換します(図1)。これにより、地理的な特性や人口構成を考慮し、類似する複数の自治体の施策のフローの違いを比較できます。
  2. 新たなフロー候補の生成:
    図2のように、複数の自治体の中から実績のある施策のフローを参考にして、条件分岐や提供サービスの中から一部を組み合わせて再構成することで新たなフロー候補をいくつか作成します。この際に、実証経済学の資源配分の検討プロセスを参考にして、サービス利用の定員など限られたリソースの配分可能な範囲を制約条件としてフローの組み合わせを選定します。
  3. サービス提供のシミュレーション:
    作成したフロー候補の上で、フローの開始から人々がどの条件分岐を通って、結果としてどの様な提供サービスに至るかを、人の行動選択を考慮した機械学習(独自の行動選択モデル注4)などにより実績データに基づいてシミュレーションします。さらに、健康指標や医療費、リソースなどの自治体が目指す目標指標がどの様に変化するかを算出します。ある自治体における予防医療事業を対象にシミュレーションの正確さを検証したところ、国民健康保険のデータに基づいて「Policy Twin」で算出した保健指導の件数は、実績値と誤差5%以内の範囲で一致することを確認しました。このように、複数のフロー候補でそれぞれ複数の指標をシミュレーションし、それらの指標が最大となるフロー候補を選択します。
  4. 「Policy Twin」の効果

    このように、より効果の高い予防医療事業の施策の策定に「Policy Twin」を活用することで、自治体が目指す住民の健康改善、医療費節減、疾患予防など複数の目標指標を同時に達成し、ウェルビーイング向上への寄与が期待できます。「Policy Twin」は、立案した施策の根拠も示すことができるため、多様なステークホルダー間の合意形成や社会への実装を容易にすることが期待されます。さらに、複数の自治体で本技術を活用することで、施策のベストプラクティスの導出や、自治体間での施策の相互参照、施策の標準化への応用も期待できます。

    商標について

    記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

    注釈

    • 注1
      Fujitsu Research Portal:
      本ポータルサイトは、アカウント登録をすることで当社の先端技術をトライアル利用できるものとして、2023年6月より社外に公開。本ポータルサイトを通じて当社の先端技術を、法人に限らず個人の利用者にも公開する。
    • 注2
      EBPM(Evidence Based Policy Making):
      証拠に基づく政策立案。平成30年度内閣府取組方針では「政策の企画立案をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで政策効果の測定に重要な関連を持つ情報やデータ(エビデンス)に基づくものとすること」と定義されている。
    • 注3
      ソーシャルデジタルツイン:
      実世界のデータをもとに、人や物の状態だけでなく、経済・社会の活動をまるごとデジタルに再現することで、社会の実態や問題発生のメカニズムを把握すると共に、多様で複雑化する課題の解決に向けた施策立案などを支援する技術群。
    • 注4
      行動選択モデル:
      行動経済学の代表的理論の一つであるプロスペクト理論と機械学習を組み合わせた技術で、多くの人に共通する行動特性をもちつつ人による選択の違いを表現できる。

    関連リンク

    当社のSDGsへの貢献について

    2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)は、世界全体が2030年までに達成すべき共通の目標です。当社のパーパス(存在意義)である「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」は、SDGsへの貢献を約束するものです。

    本件が貢献を目指す主なSDGs

    本件に関するお問い合わせ




    プレスリリースに記載された製品の価格、仕様、サービス内容などは発表日現在のものです。その後予告なしに変更されることがあります。あらかじめご了承ください。

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