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PRESS RELEASE (技術)

2016年12月8日
株式会社富士通研究所

圧電デバイスを用いて、応力下の磁気特性を測定する技術を開発

高性能なEVモーターなどの設計を効率化する大規模磁界シミュレーションの高精度化に貢献

株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、電気自動車(EV)モーターなどの大規模磁界シミュレーションの高精度化のために必要となる、力(応力)が加えられた材料の磁気特性を測定する技術を開発しました。

EVに使われるモーターはその回転数などの動作条件が多岐にわたるため、様々な動作条件で試作と実験を繰り返す必要があり、コンピュータシミュレーションによる設計の効率化やモーターの高性能化が期待されています。シミュレーションでは、材料の磁気特性によって生じるエネルギー損失を正確に見積もる必要がありますが、応力が掛かった状態では、材料の磁気特性が大きく変化することが知られており、応力の影響を正確に測定する技術が求められています。

今回、試料の電磁鋼板に圧電デバイスを張り付けることで、様々な応力を加えた状態を作り、モーターの効率を低下させる原因となるベクトル磁気ヒステリシスと呼ばれる磁気特性を応力がかかった状態で測定する技術を世界で初めて開発しました。

本技術を用いることで、富士通株式会社(以下、富士通)が開発中の大規模マルチスケール磁界シミュレーター(注2)の開発に不可欠な、多種多様な実測データの入手が可能になります。本技術により、エネルギー損失の少ない高効率なモーター設計や、コンピュータシミュレーションを活用した材料開発であるマテリアルズ・インフォマティクスの進展が期待されます。

本技術の詳細は、12月5日(月曜日)から長崎で開催された「電気学会 マグネティックス/リニアドライブ合同研究会」にて発表しました。

開発の背景

モーターによる電力消費量は、世界の電力消費量全体の40%から50%を占めると言われています。モーターの動作時には、モーターを構成する材料において、磁気に対して生じる特性によりエネルギーの損失が発生しており、例えば、国内のモーターの効率値を1%改善できれば、火力発電所1基分の効果があると見積もられています。また、環境面からだけでなく、モーターを動力として走行するEVの普及が期待されており、モーターの高効率化を実現する技術が求められています。

課題

EVに使われるモーターはその回転数などの動作条件が多岐にわたるため、様々な動作条件で試作と実験を繰り返す必要があり、コンピュータシミュレーションによる設計の効率化やモーターの高性能化が期待されています。

モーターに使用される材料は、製造時に焼きばめと呼ばれる工程によって熱や力を加えて結合されるため、材料内部に力(応力)が生じた状態が残ります。シミュレーションでは、材料の磁気特性によって生じるエネルギー損失を正確に見積もる必要がありますが、応力が掛かった状態では、材料の磁気特性が大きく変化することが知られており、応力の影響を正確に測定する必要があります。しかし、従来の応力を加えるための測定装置は1m四方程度と大型で測定が大がかりになるため、多種多様なデータを容易に得られる小型で簡便な測定装置が求められていました。

開発した技術

今回、電圧を加えることで変形し、特定の方向に力を発生できる圧電デバイスを用いることで、測定対象である材料に与える応力を柔軟に制御して、ベクトル磁気ヒステリシス特性(注3)と呼ばれる磁気特性を測定する技術を世界で初めて開発しました(図1、図2、図3)。

開発した技術の特長は以下の通りです。

  1. 測定試料に一様な応力を印加する技術

    開発技術では、電圧を加えることによって変形する圧電デバイスを測定試料に貼り付け、圧電デバイスに与える電圧を制御することで、測定対象の試料鋼板にかかる応力を変化させながら磁気特性を測定します。圧電デバイスを測定試料に接着剤を用いて貼り付けることで、測定領域に直接応力を与えることを実現しました。試料鋼板は薄型の板状のため、圧電デバイスをその両面に貼り付けて、両方に同等の応力を与えることで、試料の反りを抑制します。これにより、電圧によって緻密に制御された一様な応力を、測定領域全域に加えることが可能となりました。

    図1 圧電デバイスを用いて試料鋼板に応力を与える仕組み
    図1 圧電デバイスを用いて試料鋼板に応力を与える仕組み

  2. 応力のかかった材料の磁気特性を測定する小型装置を開発

    誘導モーターと呼ばれる一般的なモーターは、その内部に磁界を発生させることができます。今回、小型で一般的な誘導モーターを利用して、構造が簡易で小型(30 cm四方)のRRSST(Round Rotational Single Sheet Tester)型と呼ばれるベクトル磁気ヒステリシス特性測定装置を開発しました。本測定装置に、測定試料に応力を加えることができる仕組みを組み込んで、多様な応力下でのベクトル磁気ヒステリシス特性を容易に測定可能な装置を実現しました。圧電デバイスによって応力を加えた状態でのベクトル磁気ヒステリシス測定を可能にしたのは世界で初めてとなります。

    本装置の開発は、国立大学法人京都大学(注4)の松尾哲司教授の協力を得て行われました。

    図2 応力のかかった材料の磁気特性を測定する小型測定装置の(左)模式図と(右)写真
    図2 応力のかかった材料の磁気特性を測定する小型測定装置の(左)模式図と(右)写真

    図3 開発した装置により測定した圧縮応力下におけるベクトル磁気ヒステリシス特性
    図3 開発した装置により測定した圧縮応力下におけるベクトル磁気ヒステリシス特性

効果

今回開発した技術を用いることで、応力が掛かった材料の高精度な磁界シミュレーターの実現に必要な、多種多様な実測データの入手が可能になります。高精度な磁界シミュレーターが実現すれば、EVモーターなどの開発において、例えば、1回あたり多くの費用や工数のかかる試作が、現在5回程度行なっているところ1から2回ですむようになるなど、開発期間の大幅な短縮が期待されます。

今後

富士通は、大規模な並列計算に対応した磁界シミュレーションパッケージソフトウェア「FUJITSU Manufacturing Industry Solution EXAMAG LLGシミュレータ(フジツウ マニュファクチュアリング インダストリー ソリューション エクサマグ エルエルジー シミュレータ)(以下、EXAMAG LLGシミュレータ)」 (注5)を発展させて、磁心材料のベクトル磁気ヒステリシス特性を再現可能とする次世代の磁界シミュレーターを開発中です。

富士通研究所では、ベクトル磁気ヒステリシス特性測定能力のさらなる向上を図り、多様な実測データの取得を進めることにより、本技術により得られたデータを、富士通が2018年に販売予定の、次世代の「EXAMAG LLGシミュレータ」の開発に適用する予定です。また、本技術により、コンピュータシミュレーションを活用した材料開発であるマテリアルズ・インフォマティクスの進展や、高効率なモーターなどが社会に広まり無駄なエネルギー消費が削減されることによる環境への貢献も期待されます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐々木繁。
注2 大規模マルチスケール磁界シミュレーター:
富士通と富士通研究所が長年培ってきた大規模な並列計算の技術を適用するとともに、磁性材料の内部の微細な磁化状態を解析するマイクロマグネティックスの手法と、数値解析手法の一つである有限要素法を組み合わせて、ミクロからマクロの幅広いスケールで複雑な形状の磁界解析を可能とするシミュレーター。
注3 ベクトル磁気ヒステリシス特性:
磁性材料における、回転する磁界ベクトルと磁束密度ベクトルの関係を表す性質。現在の磁界の強さだけでなく、過去の履歴に影響を受ける、磁気ヒステリシスと呼ばれる性質を示す。
注4 国立大学法人京都大学:
所在地 京都府京都市、総長 山極 壽一。
注5 「FUJITSU Manufacturing Industry Solution EXAMAG LLGシミュレータ」:
「磁界シミュレータ「EXAMAG LLGシミュレータ」の新バージョンを販売開始」(2015年3月24日 プレスリリース)

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
ものづくり技術研究所
電話 046-250-8226(直通)
メール vec-hys@ml.labs.fujitsu.com


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