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PRESS RELEASE

2016年5月26日
日本電信電話株式会社
富士通株式会社
国立研究開発法人情報通信研究機構

毎秒数十ギガビットの伝送速度を有する300 GHz 帯を用いたテラヘルツ無線用
小型送受信機を世界で初めて開発し、高速データ伝送実験に成功

DVD1枚分のデータを数秒で転送するサービス実現に道

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:鵜浦博夫、以下NTT)、富士通株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:田中達也、以下 富士通)、国立研究開発法人情報通信研究機構(本部:東京都小金井市、理事長:坂内正夫、以下 NICT)は、共同で、周波数帯域を広く確保できることから高速無線への適用が期待されている、300 GHz 帯を用いたテラヘルツ無線用小型送受信機を世界で初めて開発し、直交偏波を用いた多重伝送により毎秒40ギガビットのデータ伝送ができることを確認しました。

また今回、情報端末からスマートフォン等に動画や音楽などの大容量コンテンツをダウンロードするというユースケースを想定し、開発した送信機を情報端末に組み込み、同じく開発した受信機をスマートフォンサイズの小型端末に実装したコンテンツダウンロード実験を行った結果、毎秒2ギガバイト(DVD1枚分のデータを約3秒でダウンロードする速度に相当)のデータ転送を達成しました。

これらの実験を通じて、300GHz帯のテラヘルツ波(注1)を使った大容量伝送に向けた小型無線機ならびに要素回路技術を確立したことを示しており、今後、300GHz帯を用いるテラヘルツ波の利用技術が大きく進展することが期待されます。

本技術の詳細は、5月22日からアメリカ、サンフランシスコで開催される国際会議IMS2016(2016 IEEE MTT-S International Microwave Symposium)で発表されます。

なお本成果は、平成23~27年度総務省の「電波資源拡大のための研究開発」による委託研究「超高周波搬送波による数十ギガビット無線伝送技術の研究開発」の一環として、NTT、富士通、NICTと共同で実施し得たものです。

背景

ブロードバンドネットワークの普及拡大に伴い、無線通信を利用した高速データ伝送の検討が世界各国で進んでいます。超高精細画像の非圧縮リアルタイム無線伝送や大容量データの瞬時転送を実現するための毎秒数十ギガビット級の伝送速度を実現するために、未利用周波数帯の活用が求められており、特に、高速データ伝送が可能な、かつ、小型の無線装置の開発が求められています。

テラヘルツ無線は、上記ニーズに応えられる技術として有望であり、産業的に未利用である300GHz帯の適用は新たな周波数資源の開拓としても期待されています。

実験の成果

  1. テラヘルツ無線用小型送受信機による高速データ伝送実験

    今回、超高速デバイスとして知られているインジウム燐高電子移動度トランジスタ(InP-HEMT)(注2)を用いて、送受信機向けに高周波回路を設計、および集積回路(IC)化し、300 GHz 帯を用いたテラヘルツ無線用小型送受信機を実現しました。

    送信機は、ICを実装した金属パッケージ間およびアンテナを導波管で接続する一体化構造で実現し、毎秒20ギガビットのデータ送信を可能にします(図1)。一方、受信機は、スマートフォンサイズの端末への組み込みを想定して、アンテナ一体型金属パッケージにICを実装することで1ccサイズを実現(既報(注3、注4))し、無線区間を介して受信した毎秒20ギガビットの無線信号を復調し、データ信号として出力します(図2)。また、300GHz帯の電波伝搬・計測技術について、電波暗室内での実験で検証しました(図3)。

    図1 送信機(NTT)
    図1 送信機(NTT)

    図2 受信機(富士通)
    図2 受信機(富士通)

    図3 電波伝搬・計測実験(NICT)
    図3 電波伝搬・計測実験(NICT)

    図4 システム構成
    図4 システム構成
    拡大イメージ

    実証実験では、図4に示すように、NTTの担当した送信機、前方誤り訂正(FEC)(注5)などの信号処理部、富士通が担当した受信機、NICTが担当した電波伝搬・計測技術を持ち寄り、開発した送信機と受信機を対向させ、毎秒20ギガビットのデータ伝送を実施し、その結果、1mを超える伝送距離において、エラーフリー伝送(注6)が可能となることを確認しました(図5)。

    図5 実証実験系
    図5 実証実験系

    さらに、2組の送受信機を用いて、互いに直交する偏波(注7)を用いた偏波多重伝送実験を行い、毎秒40ギガビットのデータ伝送が可能であることも確認しました。

    これらの実験を通じて、無線機としての十分な特性と本技術の有用性を確認しました。

  2. データダウンロードサービスを模擬した実証実験

    今回開発した送信機を情報端末に組み込み、同じく開発した受信機をスマートフォンサイズの端末に実装し、スマートフォンをタッチすることでデータがダウンロードするサービスを模擬した検証実験を行いました(図6、図7、図8)。

    実験では、コンテンツサーバである送信側PC内に保管した映像ファイルを用いて、その転送速度について評価しました。その結果、毎秒2ギガバイト(DVD1枚分のデータを約3秒で伝送する速度に相当)の高速データダウンロードが実証できました。現在、高速ダウンロードサービス実現に向けては、ミリ波により検討が進んでいますが、更なる高速化に向けて、テラヘルツ無線が有効であることを確認しました。

    図6 情報端末
    図6 情報端末

    図7 受信機を実装したスマートフォンサイズ端末(115×69×20mm)
    図7 受信機を実装したスマートフォンサイズ端末(115×69×20mm)

    図8 情報端末にスマートフォンサイズ端末をタッチさせるところ
    図8 情報端末にスマートフォンサイズ端末をタッチさせるところ

今後の展望

今後、更なる伝送速度の高速化、通信シーケンスの効率化を図るとともに、周波数の利用検討を見越した、コンテンツダウンロードをはじめとするユースケースの検討に取り組んでいきます。

以上

注釈

注1 テラヘルツ波:
103を「キロ(k)」と呼ぶのと同様に、109を「ギガ(G)」、1012を「テラ(T)」と呼ぶ。「ヘルツ(Hz)」は交流電気信号や電磁波が、1秒間に何回極性(プラスとマイナス)を変えるかを示す、周波数と呼ばれる物理量の単位。つまり、1テラヘルツ(1THz=1,000GHz)は、1秒間に1×1012回極性を変える電磁波の周波数である。一般に、テラヘルツ波は、0.1THzから10THzの電磁波を指し示すことが多い。
注2 インジウム燐高電子移動度トランジスタ(InP-HEMT):
化合物半導体インジウム燐(InP)を用いた高電子移動度トランジスタ(HEMT: High Electron Mobility Transistor)。
注3、注4 アンテナ一体型金属パッケージにICを実装することで1ccサイズを実現:
注5 前方誤り訂正(FEC):
データを伝送する際などに発生する誤りを訂正するために、送り手側で符号を付加して、受け手の側で誤りを検出し訂正すること。FEC: Forward Error Correction。
注6 エラーフリー伝送:
信号を誤りなしで受信する伝送。前方誤り訂正により誤りを訂正したり、誤り発生時に信号を再送したりすることにより実現される。
注7 偏波:
電磁波の振動方向が、一定の方向である電磁波。

本件に関するお問い合わせ

日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所 広報担当
電話 046-240-5157
メール a-info@lab.ntt.co.jp

株式会社富士通研究所
デバイス&マテリアル研究所
電話 046-250-8244
メール tera@ml.labs.fujitsu.com

国立研究開発法人情報通信研究機構
未来ICT研究所 フロンティア創造総合研究室
電話 042-327-6824
メール kasa@nict.go.jp


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