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PRESS RELEASE (技術)

2015年9月8日
富士通株式会社
株式会社富士通研究所

世界初、毎秒数十ギガビットの高速無線通信に向けた300GHz帯小型受信機を開発

容積を1立方センチメートル以下に抑え、携帯端末で4Kや8K高精細映像の瞬時転送が可能に

富士通株式会社(注1)(以下、富士通)と株式会社富士通研究所(注2)(以下、富士通研究所)は、毎秒数十ギガビットの高速無線通信を実現する300GHz帯小型受信機を世界で初めて開発しました。

周波数が100GHzを超える電波はテラヘルツ帯と呼ばれ、現在の携帯端末で扱う周波数帯の0.8~2.0ギガヘルツ(GHz)に比べて電波を使用できる周波数の幅が100倍以上と広く、これにより通信速度も100倍に高まると言われています。

今回、受信増幅チップとテラヘルツ帯のアンテナを低損失で接続し一体化する技術を開発しました。これにより、従来に比べて受信機の大きさを約10分の1に小型化し、携帯端末への搭載が可能になりました。

本研究の一部は、総務省の「電波資源拡大のための研究開発」の委託研究「超高周波搬送波による数十ギガビット無線伝送技術の研究開発」の一環として実施されました。

本技術の詳細は、9月6日(日曜日)からフランス・パリで開催される国際会議「EuMW 2015 (European Microwave Week 2015)」にて発表します。

開発の背景

スマートフォンやタブレットなど携帯端末では、動画閲覧や音楽配信など大容量のデータ通信が幅広く利用されています。今後は、4Kや8Kといった高精細映像やハイレゾ音源に代表される大容量データ通信へのシフトが予想され、それらを瞬時にダウンロードする需要が伸びると考えられます(図1)。この実現には無線通信機の高速化が必要です。テラヘルツ帯と呼ばれる周波数100GHz以上の電波を利用する無線通信機は、既存の携帯端末が搭載する無線通信機に比べて100倍以上の広い周波数範囲を利用できるため、通信速度も100倍に高めることが可能と言われています。

一方、テラヘルツ帯の電波は空間に伝搬していくと強度が著しく減衰するため、微弱な電波を受信してデータ通信するためには感度の高い受信機が必要です。近年、テラヘルツ帯に対応する高感度受信増幅チップが各社で開発されていますが、受信機にすると受信増幅チップを実装したモジュールと外部アンテナの個別構成となるためサイズが大きく、携帯端末への組込みは困難でした。

図1 テラヘルツ帯高感度受信機の利用シーン
図1 テラヘルツ帯高感度受信機の利用シーン

課題

従来のテラヘルツ帯高感度受信機は、受信増幅モジュールとアンテナを個別に製作し、それらを導波管という特殊な部品で接続するため、サイズが大きくなっていました。小型化の実現には、受信増幅モジュールにアンテナを内蔵し、導波管をなくすことが有効です。アンテナ内蔵モジュールにすることで、導波管が不要となり、内部のプリント基板を介して受信増幅チップとアンテナを接続する構成となります。高周波向けプリント基板としてはセラミック、石英、テフロンが一般的ですが、テラヘルツ帯に適用すると信号減衰が大きく受信感度が悪くなることが課題となっていました。

開発した技術

今回、テラヘルツ帯のアンテナと、開発済みの受信増幅チップを低損失で接続する技術を開発し、容積0.75立方センチメートル(cm3)(出力端子部含まず)と携帯端末への搭載が可能な大きさの、アンテナ内蔵300GHz帯の受信機を世界で初めて開発しました。

開発した技術の特長は以下のとおりです。

  1. プリント基板として微細加工が可能な低損失ポリイミドを採用

    微細加工が可能なポリイミドをプリント基板として採用しました。アンテナで受信した信号は接続配線を経由して受信増幅チップに伝達されます。テラヘルツ信号が接続配線を低損失で安定して伝搬するため、プリント基板の表面と裏面には電圧の基準面(グラウンド)が形成され、表裏のグラウンドを貫通ビアと呼ばれる電気配線で接続します。この際、貫通ビアは信号の波長の10分の1以下、今回の場合、数十ミクロン以下の間隔で配置しないと電波をうまく扱えないという制約があります。ポリイミドは石英より10%ほど損失が大きい材料ですが、4倍以上高い加工精度があるため数十ミクロン以下の間隔で貫通ビアを形成でき、石英基板上の接続配線と比べて損失を半減できます(図2)。

    図2 テラヘルツ帯高感度受信機の内部構造(内蔵アンテナと受信増幅チップの接続部)
    図2 テラヘルツ帯高感度受信機の内部構造(内蔵アンテナと受信増幅チップの接続部)

  2. テラヘルツ帯向け受信増幅チップ実装技術を確立

    受信信号をプリント基板上の接続配線から受信増幅チップに低損失で伝搬させるため、受信増幅チップの回路形成面をプリント基板に対向させて接続する実装技術を開発しました。この実装技術はミリ波帯衝突防止レーダー用チップの実装で使用されていますが、前述したポリイミド基板の低損失伝送技術を利用することで、適用可能な周波数をテラヘルツ帯まで拡張することに初めて成功しました(図3)。

    図3 テラヘルツ帯高感度受信機とその断面構造(受信増幅チップ実装部の断面)
    図3 テラヘルツ帯高感度受信機とその断面構造(受信増幅チップ実装部の断面)

効果

今回開発した技術を用いることで、スマートフォンなどの携帯端末で毎秒数十ギガビットの大容量通信ができることから、小型の端末を用いて4Kや8Kと呼ばれる高精細映像の瞬時伝送が可能となり、毎秒数十ギガビット級のKIOSK端末型のダウンローダなどが実現できます。また、携帯端末間の瞬時データ交換や携帯端末とサーバ間の瞬時バックアップといった応用へも展開できます。

今後

富士通と富士通研究所は、2015年度中に今回開発した小型受信機を使った毎秒数十ギガビットの高速データ転送実験を開始し、本技術の2020年頃の実用化を目指します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 富士通株式会社:
本社 東京都港区、代表取締役社長 田中達也。
注2 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐相秀幸。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
デバイス&マテリアル研究所
電話 046-250-8244(直通)
メール tera@ml.labs.fujitsu.com


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