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PRESS RELEASE

2015年11月14日
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所
株式会社富士通研究所
国立大学法人 名古屋大学

国立情報学研究所の人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」で
数学の偏差値を大幅に向上!

大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所 (注1) (以下、NII)、株式会社富士通研究所(注2)(以下、富士通研究所)、国立大学法人名古屋大学(注3)(以下、名古屋大学)は、NIIが2011年度に発足した人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」(略称:東ロボ)の数学チームに参画し、数学の模試で偏差値64以上を達成しました。NIIの「東ロボ」には、2012年度より富士通研究所が、2013年度より名古屋大学が参入し、この3団体を中心に2012年度より共同研究を行っています。

今回、「東ロボ」では、これまでの研究成果をもとに、株式会社ベネッセコーポレーション(注4)の“進研模試 総合学力マーク模試”に挑戦し、数学チームは、数IA、数IIBに取り組みました。問題文の言語処理の一部で人による介入を許しましたが、AIプログラムによる自動求解の結果、数IAで偏差値64.0(75点)、数IIBで偏差値65.8(77点)を獲得しました。2014年度と比較すると、 数IAで17.1ポイント、数IIBで13.9ポイント偏差値が向上(注5)しています。

富士通研究所は、今後も「東ロボ」を通じ、NII、および名古屋大学と共同で社会受容性を考慮したヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティを実現する人工知能の技術開発を継続していきます。

[模試挑戦の関連情報] 東ロボプロジェクトホームページ

背景

「東ロボ」はNIIの新井紀子教授を中心に2011年4月にスタートしたもので、2016年度までに大学入試センター試験で高得点をマークし、2021年度に東京大学入試を突破することを目標としています。「東ロボ」では2013年度から毎年模試に挑戦し、一年間の研究成果を評価検証しながら技術課題を抽出しています。数学チームでは毎年、全国センター模試(数IA、数IIB)と東大入試プレ(文系、理系)に挑戦しています。2013年度には学校法人 高宮学園 代々木ゼミナールのご協力で「東大入試プレ」を受験し、文系は4問中2問完答、理系は6問中2問完答で、文系理系共に受験者中、偏差値約60を獲得しました。

課題

AIは、自然言語や数式で表現された数学の問題文を、計算プログラムで実行可能な形式に変換して、数式処理のプログラム(ソルバ)で問題を解きます。昨年度までは、限量記号消去(注6)と呼ばれる数式の変形を繰り返す技術を適用したソルバで問題を解いていました。これは多項式の等式・不等式を扱う問題に対する汎用的な解法で、2次関数、線形代数、代数、幾何など入試問題の広範な単元の問題を解くことができます。2013年度はこの手法により、言語処理の一部で人による介入を許しましたが、東大入試プレに挑戦して偏差値60を達成しました。

しかし数式の変形による手法は、試験時間内に計算が終わらない問題や取り扱うことができない単元(数列、確率・統計、整数問題、三角関数・指数関数など)があり、より高得点を狙うためには新たな対策が必要でした。

開発した技術

今回、数式の変形によるソルバの高速化と、これまで扱えなかったいくつかの単元向けのソルバを新たに開発することで、センター模試において数IAで偏差値64.0(75点)、数IIBで偏差値65.8(77点)を獲得し、偏差値の大幅な向上を達成しました(図1)。この成果は、主に下記の2つの技術開発に基づくものです。

図1 センター模試(数学)の偏差値の推移
図1 センター模試(数学)の偏差値の推移

今年度、「東ロボ」数学チームの研究を進めるにあたり、サイバネットシステム株式会社(注7)とカナダのMaplesoft社(注8)から自動求解における計算プログラムの開発環境である数式処理システム「Maple」を提供していただきました。

  1. 数式の変形によるソルバの高速化

    数学の入試問題では、数式を正確に計算することが必須です。一般に、コンピュータの数値計算は高速処理が可能ですが誤差を含んでしまうため、数学の入試問題を解くことには向いていません。一方、誤差なく数式の計算を行う数式処理技術は、計算途中で大きな数式が現れ計算時間が増大します。この大きな数式には冗長な式が含まれていることが多いものの、従来、効率よく取り除くことは困難でした。

    今回、数値計算の結果を併用し、回答に影響しない部分を見極めて、ソルバの扱う式のうち冗長な式を取り除く手法を開発し、ソルバの高速化を実現しました。これにより、今年度のセンター模試ではソルバで扱った問題では、試験時間内に解けないものはありませんでした。

  2. 数列・統計向けソルバの開発

    数式の変形によるソルバでは扱えない単元である数列や統計の問題の一部について、人と同じように公式を当てはめて解を導く自動解法ライブラリを開発しました。さらに、従来のソルバで対応可能な2次関数や幾何だけでなく、数列や統計などの多種の数学問題に対応した言語解析基盤も開発しました。これにより、数列や統計の問題が新たに対応可能となりました。

    数列・統計の自動求解に向けた研究開発は、学校法人東京理科大学(注9)(以下、東京理科大学)と国立大学法人筑波大学(注10)(以下、筑波大学)の協力のもとに行われたものです。

図2 数学問題を解く手順
図2 数学問題を解く手順

今後の取組み

「東ロボ」の数学チームでは、言語処理段階における問題文の表現の仕方や、数式処理段階での手順の工夫など高度化のための研究開発をすすめ、自動求解にかかる時間の低減や現在対応していない単元への自動求解も順次進めて行きます。また、問題文を形式変換する言語処理の一部で人により補助している部分の自動化も目指し技術開発を継続していきます。

今回数学チームでは、産学連携での研究推進の下、名古屋大学、東京理科大学、筑波大学からの学生も多数参加し、自然言語処理や数学などの異なる専門分野の研究者による共同研究が進められました。「東ロボ」は、このような学際的研究を通して、高度な専門性、横断的な知識や研究推進力などを有するπ型人材・問題解決型高度人材育成にも貢献していきます。

富士通研究所では、「東ロボ」を通して、深い言語処理の技術や高度な数理技術の開発を推進し、社会受容性を考慮したヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティに必要な人工知能の技術開発を継続していきます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所:
所在地 東京都千代田区、所長 喜連川優。
注2 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐相秀幸。
注3 国立大学法人 名古屋大学:
所在地 名古屋市千種区不老町、総長 松尾清一。
注4 株式会社ベネッセコーポレーション:
本社 岡山県岡山市、代表取締役社長 原田泳幸。
注5 偏差値が向上:
2014年度の偏差値は、数IAが46.9(40点)、数IIBが51.9(55点)。
注6 限量記号消去:
QE(Quantifier Elimination)と呼ばれ、等価な数式に変形しながら解を導く数式処理技術。
注7 サイバネットシステム株式会社:
本社 東京都千代田区、代表取締役 田中邦明。
注8 Maplesoft社:
President & CEO Jim Cooper, HQ Waterloo, Ontario, Canada
注9 学校法人東京理科大学:
本部所在地 東京都葛飾区、学長 藤嶋昭。
注10 国立大学法人筑波大学:
所在地 茨城県つくば市、学長 永田恭介。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

国立情報学研究所
総務部企画課 広報チーム(担当:美土路)
電話 03-4212-2164
メール kouhou@nii.ac.jp

株式会社富士通研究所
知識情報処理研究所
電話 044-754-2328(直通)
メール trobo@ml.labs.fujitsu.com

国立大学法人 名古屋大学
大学院工学研究科 電子情報システム専攻
准教授 松崎拓也
メール matuzaki@nuee.nagoya-u.ac.jp


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