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PRESS RELEASE (技術)

2011年9月26日
富士通株式会社
株式会社富士通研究所
富士通研究開発中心有限公司

超大容量の光ファイバー伝送システムを小型・低消費電力化する高性能歪み補償回路を開発

回路規模と消費電力を約85%削減し、毎秒100ギガビットの超高速通信の高度化に大きく前進

富士通株式会社、株式会社富士通研究所(注1)と富士通研究開発中心有限公司(注2)は、数100km以上の長距離伝送システムにおいて、光ファイバーで伝送する信号の波形歪みを補正するデジタル信号処理アルゴリズムを開発し、回路規模と消費電力を一般的な従来技術と比較すると約85%、当社で開発した技術と比較すると約50%削減することを可能にしました。

これにより、通信キャリアの基幹伝送ネットワークや大規模データセンター間を結ぶネットワークに対して、1波長あたり毎秒100ギガビットを超える超高速の長距離伝送システムを、従来よりも小型かつ低消費電力で提供できるようになります。

その結果、現在1波長あたり毎秒10ギガビットが主流であるネットワーク容量が10倍以上になることで、超高速かつ大容量データの活用が可能となり、次世代スマートフォンや次世代クラウドサービスの進展を支えるネットワークを実現します。

本研究の一部は独立行政法人情報通信研究機構(理事長 宮原 秀夫、本部 東京都小金井市)からの委託研究「ユニバーサルリンク技術の研究開発」として実施したものです。本技術の詳細は、9月18日(日曜日)からスイスのジュネーブで開催された光通信に関する国際会議「ECOC2011 (37th European Conference and Exhibition on Optical Communication)」において発表いたしました。

開発の背景

スマートフォンの普及やクラウドサービスの進展に伴うインターネットでの通信量の増大により、通信キャリアの基幹伝送ネットワークや大規模なデータセンター間のネットワークでは、より大容量の信号を低消費電力・低コストで伝送することが重要になっています。2012年には、現在の10倍以上となる1波長あたり毎秒100ギガビットを波長多重して伝送するシステムの本格商用化が開始される見込であり、その後も継続的に大容量化するための研究開発が進められています。

課題

毎秒100ギガビットを超える超高速信号は、数100km以上の長距離を光ファイバーで伝送されるにつれて、非線形光学効果(注3)によって波形に歪みが発生し、信号を正しく受信することが困難になります。このため、信号の歪みを受信器で補正してきれいな波形に復元する非線形補償技術(注4)の研究が行われてきました。

しかし、従来の技術では非線形補償技術を実装するために、半導体集積回路として1億ゲートを超える膨大な回路規模が必要となるため、2020年頃までの半導体技術では実用化が困難であり、回路規模の削減が課題となっていました。これに対して、当社は昨年9月に、従来よりも大幅な回路削減のための独自技術を開発し、2015年ごろの実用化可能性の見込みを得ました。しかし、ネットワークでの大量のデータ通信により、さらなる低消費電力化・小型化が望まれています。


図1. 基幹伝送ネットワークとデジタル信号処理を用いた超高速光送受信器

開発した技術

今回、歪み補償の性能はそのままに、処理に必要な回路段数(注5)を一般的な従来技術と比較して約7分の1(当社技術比は約2分の1)に削減できる、新しい信号処理アルゴリズムを開発しました。開発した技術は以下のとおりです。

  1. 高精度な歪み補償のための数式の改善

    信号の歪みを数式モデルで表現して近似的に分析した結果、従来の技術では見逃していた歪みの成分を数式で表現することに成功しました。この歪みの成分を補正することにより、少ない段数で精度のよい歪み補償が可能になります。

  2. 効率のよい歪み補償回路形式の開発

    上記で導き出した数式をさらに整理することで、高精度な補償を小規模な回路で実現できる、効率のよい構成を開発しました。昨年9月に当社が開発した技術に対して、今回の補償回路を追加することで、歪み補償の飛躍的な高精度化を実現し、全体として大幅な回路段数・規模の削減を可能にします。


図2. 従来技術(a)と開発技術(b)による補償回路の構成

効果

本技術を、毎秒112ギガビットの1,500km伝送実験に適用して、従来技術では20段の回路を用いて得られる信号品質が、開発技術ではわずか3段の回路(所用回路段数:約85%削減)で得られることを確認しました(図3)。回路規模が小型化されることにより、大幅な低消費電力化が可能となります。また、従来技術と同等の回路段数を適用した場合には、より高い信号品質を得ることで、伝送距離を長距離化する効果も期待できます。

本技術により、光ファイバーによる超高速ネットワークを、低消費電力かつ低コストで構築できるようになります。これにより、これまで以上に大容量データのやりとりを必要とする、次世代スマートフォンや次世代クラウドコンピューティングの新しいサービスを提供することができるようになります。


図3. 従来技術(△),昨年9月の技術 (■),今回の開発技術(▲)の回路段数と信号品質の関係

今後

今回開発した技術を毎秒100ギガビットを超える次世代長距離光通信システムに搭載し、2015年頃までに実用化を進める予定です。また、データセンター内やアクセス網などに向けた大容量の短距離伝送など、幅広い応用分野への展開も検討していきます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田 達夫、本社 神奈川県川崎市。
注2 富士通研究開発中心有限公司:
董事長 佐々木繁、本社 中国北京市。
注3 非線形光学効果:
非常に強い光が光ファイバーなどの物質を通過する際に発生する、特別な相互作用。今回問題としているのは、その一種である自己位相変調と呼ばれる、光の瞬時的な強さに応じて光の波の位相が変化する現象。
注4 非線形補償技術:
長距離光ファイバーの各点で生じる非線形効果が、累積することによって発生した複雑な波形歪みを逆算して打ち消す技術。
注5 回路段数:
非線形補償技術では、長距離伝送で生じる線形歪みと非線形歪みを交互に少しずつ補償するために、同じ回路を多段に直列接続した構成が必要。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
ネットワークシステム研究所 フォトニクス研究部
電話 044-754-2641 (直通)
メール nlc@ml.labs.fujitsu.com


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