PRESS RELEASE (技術)
2010年9月21日
富士通株式会社
株式会社富士通研究所
富士通研究開発中心有限公司
毎秒100ギガビットを超える光ファイバー伝送のための歪み補償回路を7割小型化!
次世代の大規模データ通信が5年以内に実用化可能に
富士通株式会社、株式会社富士通研究所(注1)、富士通研究開発中心有限公司(注2)は、数100km以上の長距離伝送システムにおいて、光ファイバーで伝送する信号の波形歪みを補正するデジタル信号処理アルゴリズムを開発し、回路の規模を従来より約7割削減することで小型化を実現しました。
これにより、通信キャリアの基幹伝送ネットワークや大規模データセンター間を結ぶネットワークに対して、1波長あたり毎秒100ギガビットを超える超高速の長距離伝送システムが、従来は10年以内では困難と考えられていた実用化について5年以内に可能となるほか、従来よりも低コストで提供できるようになります。
その結果、現在毎秒10ギガビットが主流であるネットワークが10倍以上になるため、超高速かつ大容量データの活用が可能となり、ネットワーク社会に大きな変革をもたらします。
本研究の一部は独立行政法人情報通信研究機構(注3)からの委託研究「ユニバーサルリンク技術の研究開発」の一環として実施したものです。なお、本技術の詳細は、9月19日(日曜日)からイタリアのトリノで開催される光通信に関する国際会議「ECOC2010 (36th European Conference and Exhibition on Optical Communication)」において発表いたしました。
開発の背景
インターネットでの通信量の増大により、通信キャリアの基幹伝送ネットワークや大規模なデータセンター間のネットワークでは、光ファイバーで、より大容量の信号を伝送することが重要になっています。2012年頃には、1波長あたり毎秒100ギガビットを波長多重して伝送するシステムの本格商用化が予想されています。
課題
毎秒100ギガビットを超える超高速信号は、数100km以上の長距離にわたって光ファイバーで伝送されるにつれて、非線形光学効果(注4)によって波形に歪みが発生し、信号を正しく受信することが困難になります。このため、信号の歪みを、受信器で補正してきれいな波形に復元する「非線形補償技術(注5)」の研究が行われてきました。しかし、従来の技術では「非線形補償技術」を実装するためには半導体集積回路として1億ゲートを超える膨大な回路規模が必要となるため、2020年頃までの半導体技術では実用化が困難であり、回路規模の削減が課題となっていました。
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開発した技術
今回、歪み補償の性能はそのままに、処理に必要な回路段数(注6)を約4分の1に削減できる、新しい信号処理アルゴリズムを開発しました。開発した技術は以下のとおりです。
- 重み付け平均化処理の追加
従来の技術では、ある瞬間の信号の歪みを補正するための補正量を、その瞬間の信号だけを使って算出していました。これに対して、今回の開発では、その瞬間の前後の時間の信号もあわせて活用すると、少ない段数でも精度のよい補償を行うことが可能になることを見出し、これを実現するために重み付け平均化処理を追加しました。
- 重み付け平均化の「重み」の決定アルゴリズム
少ない段数で精度よく信号の補償を行うためには、前後の時間の信号をどの程度加味するかを決める「重み」の量を、伝送距離などの条件に応じて適切に設定する必要があります。今回、受信した波の特徴から、受信器が自動的に最適な重みを決定する方法を開発しました。
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効果
本技術を、毎秒112ギガビットの1200km伝送実験に適用して、従来技術では20段の回路を用いて得られる信号品質が、開発技術ではわずか5段の回路で得られることを確認しました。回路規模が小型化されることにより、従来技術では10年以内の実用化は困難であると考えられていたものが、2013年ごろに本格導入される28nm CMOS半導体技術で早期に実用化が可能となります。
本技術により、光ファイバーによる超高速ネットワークを低コストかつ低消費電力で構築できるようになります。これにより、世界のどことでも高画質な3D動画を瞬時にやりとりしたり、どこにいても最先端の教育や医療を遠隔で受けられるようになります。
今後
今回開発した技術を毎秒100ギガビットを超える次世代長距離光通信システムに搭載し、2015年頃までに実用化を進める予定です。また、データセンター内やアクセス網などに向けた大容量の短距離伝送など、幅広い応用分野への展開も検討していきます。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 代表取締役社長 富田 達夫、本社 神奈川県川崎市。
- 注2 富士通研究開発中心有限公司:
- 董事長 佐々木繁、本社 中国北京市。
- 注3 独立行政法人情報通信研究機構:
- 理事長 宮原 秀夫、本部 東京都小金井市。
- 注4 非線形光学効果:
- 非常に強い光が光ファイバーなどの物質を通過する際に発生する、特別な相互作用。今回問題としているのは、その一種である自己位相変調と呼ばれる、光の瞬時的な強さに応じて光の波の位相が変化する現象。
- 注5 非線形補償技術:
- 長距離光ファイバーの各点で生じる非線形効果が、累積することによって発生した複雑な波形歪みを逆算して打ち消す技術。
- 注6 回路段数:
- 非線形補償技術では、長距離伝送で生じる線形歪みと非線形歪みを交互に少しずつ補償するために、同じ回路を多段に直列接続した構成が必要となります。
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ネットワークシステム研究所 フォトニクス研究部
電話: 044-754-2641 (直通)
E-mail: nlc@ml.labs.fujitsu.com
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