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PRESS RELEASE (技術)

2009年9月30日
富士通株式会社
株式会社富士通研究所

世界初!ミリ波帯向け窒化ガリウム送受信増幅器チップセットを開発

大容量無線通信装置の高性能化を実現し、デジタルデバイド解消に貢献

富士通株式会社(以下、富士通)と株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、今後の利用拡大が期待される70~100ギガヘルツ(以下、GHz)のミリ波帯の無線通信装置に適した、窒化ガリウム(注2)HEMT(注3)高出力送信用増幅器と高感度受信用増幅器のチップセット開発に世界で初めて成功しました。送信用増幅器としては世界最高レベルの性能となる出力350ミリワット(以下、mW)を、受信用増幅器は窒化ガリウム集積回路としてW帯(注4)で世界最高の信号増幅率310倍、雑音指数(注5)3.8 デシベル(以下、dB)を達成しました。これにより、従来のガリウム砒素を用いた場合に比べ、出力が約4倍に増加、雑音指数を40%減に改善、通信距離が約3倍に伸びることが期待されます。

開発した技術は光ファイバーの代替として、無線通信を利用したデジタルデバイド(注6)解消に向けた基幹回線や超高速固定無線アクセスなどの通信装置の通信品質向上と小型化を可能とし、大容量無線通信の実用化に貢献します。

本技術の詳細は、9月28日~29日、イタリア ローマで開催される国際学会「European Microwave Integrated Circuits Conference (EuMIC)」にて発表しました。なお、本研究の一部は総務省委託研究「電波資源拡大のための研究開発」の一環として実施したものです。


図1 開発した窒化ガリウム高出力送信用増幅器と高感度受信用増幅器のチップセット
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背景

インターネットや携帯電話のネットワークサービスのブロードバンド化などに対応するため、光ファイバーによる大容量基幹回線の整備が全国的に進んでいます。一方、厳しい地形・立地のため光ファイバー敷設が困難な地域では、光ファイバー並みの伝送容量となる毎秒10ギガビット(以下、 Gbps)を持つ無線通信装置により基幹回線を整備し、デジタルデバイドを解消することが検討されています。

10 Gbpsを超える無線通信には、周波数帯域の確保が容易で長距離通信に適した70~100 GHzミリ波帯の利用が有効です。富士通および富士通研究所でもインパルス無線方式(注7)を用いた10 Gbpsのミリ波送信機および受信機の動作実証に成功しております。これを広く応用するためには数kmから数10 kmにおよぶ距離を通信伝送できる必要があり、ミリ波増幅器の高出力化が有効です。しかし、高出力化に伴い、送信機から受信機への電力漏れ込み量の増大により、従来のインジウムリン(InP)やガリウム砒素(GaAs)を用いた受信回路では過入力となるため、破壊に至ります(図2)。そこで大きな入力に対して強く、かつ受信感度の優れた窒化ガリウム(GaN)を用いた受信用増幅器が求められています。


図2 インパルス無線方式ミリ波送信機および受信機の構成
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課題

W帯で上記要求を満たす送受信用増幅器を実現するために、以下の課題がありました。

  1. 窒化ガリウム(GaN)HEMTは従来のガリウム砒素を用いたHEMTに比べ、材料の持つワイドバンドギャップの特性から10倍以上の耐圧が期待できるため、高い入力電力への対応が可能となります。しかし、70 GHzを超える高周波ではトランジスタの寄生容量の悪影響により、微弱な受信信号を識別可能な大きさにする信号増幅率が不足し、受信信号が雑音に埋もれていました。
  2. 70 GHzを超える高周波では、信号波長が回路寸法と同程度となり、信号配線間・回路間の信号干渉が顕在化します。そのため、信号配線間で不要な電力結合を起こすことにより回路が発振などの誤動作が発生し、信号増幅率が大きく低雑音の集積回路を得ることが困難でした。

開発した技術

今回、上記の課題を解決するために、以下の技術を開発しました。

  1. 高耐圧ミリ波窒化ガリウムHEMT集積回路技術

    富士通および富士通研究所は、ゲート長を0.12マイクロメートル(以下、μm)に微細化した窒化ガリウムHEMT構造により、耐圧と高周波特性を両立した独自の高性能トランジスタを2006年に開発しています。この構造のゲート形状と保護膜の厚みを工夫することで、寄生容量を低減し、信号増幅率を高め、雑音特性をさらに向上させました(図3)。

  2. ミリ波回路安定化技術

    窒化ガリウムHEMTは出力が大きいために従来素子に比べ、信号配線からの不要な信号放射による信号配線間・回路間の信号干渉がより顕著になります。今回、信号配線の周りに接地導体を配置するとともに、電磁波の3次元解析によりチップ表面と裏面を繋ぐ貫通配線(ビア)を信号配線・回路間の適切な位置に配置し、不要な信号放射をシールドする設計技術を開発、窒化ガリウムHEMT回路に初めて適用することで、これを抑制しました。この技術により、大きな出力および信号増幅率を有する回路が発振などの誤動作を起こすことなく安定に動作させることが可能になりました(図4)。


図3 開発した高耐圧ミリ波窒化ガリウムHEMT集積回路断面模式図
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図4 開発したミリ波回路安定化技術
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効果

上記の技術を用い、ミリ波無線通信装置向け送受信用増幅器のチップセットを開発しました(図1)。開発した受信用増幅器はW帯で信号増幅率25 dB(信号を310倍に増幅)、雑音指数3.8 dBと、いずれも窒化ガリウム集積回路として世界最高性能を達成しました(図5)。増幅器単体の受信性能はガリウム砒素を使用した増幅器と同等ですが、保護回路が不要となるため送受信機全体としての性能向上が期待できます(図6)。また送信用増幅器においても送信出力350 mWの世界トップレベルの性能を実現しました。

今回開発した技術により、従来のガリウム砒素を用いた場合に比べ、出力が約4倍増、雑音指数を40%減に改善し、従来のガリウム砒素を用いて送受信機を構成した場合に比べて、通信距離が約3倍に伸びることが期待されます。無線通信装置の通信品質向上と小型化が可能となります。


図5 ミリ波受信用増幅器の性能比較(窒化ガリウムの報告は世界初)
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図6 インパルス無線方式高性能ミリ波送受信機の構成
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今後

富士通および富士通研究所は今回開発した高耐圧窒化ガリウム集積回路のさらなる性能向上と周波数帯域拡大を行い、光ファイバー通信網の代替としてデジタルデバイド解消に向けた基幹回線や、超高速固定無線アクセスなどの通信機器に広く適用していく予定です。

以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
  注2 窒化ガリウム(GaN):
高温でも安定して動作可能なワイドバンドギャップ半導体で、シリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長がある。
  注3 HEMT(高電子移動度トランジスタ、High Electron Mobility Transistor):
バンドギャップの異なる半導体の接合部にある電子が、通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通が世界に先駆けて開発。現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されている。
  注4 W帯:
75 GHzから110 GHzの周波数帯の総称。高速無線通信、自動車レーダ、イメージセンサーなどの用途がある。
  注5 雑音指数:
Noise Figure(NF)とも言い、増幅器の使用可能な最低入力レベルを決める値。この値が小さく信号増幅率の大きな増幅器を前段に用いることで、前段以降の回路の雑音指数の影響が少なくなり、受信感度が良い受信機を構成することができる。
  注6 デジタルデバイド:
情報格差ともいう。情報通信技術(特にインターネット)の恩恵を受けることのできる人(地域)とできない人(地域)の間に生じる経済格差を指す。
  注7 インパルス無線方式:
極めて短い時間に変化する広帯域パルス信号を発生させ、フィルターを用いて使用周波数成分のみを抽出して送信する伝送技術。

関連リンク

技術に関するお問い合わせ先

株式会社富士通研究所
基盤技術研究所 先端デバイス研究部
電話: 046-250-8229(直通)
E-mail: gan-hemt-press@ml.labs.fujitsu.com


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