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PRESS RELEASE (技術)

2008-0202
2008年10月21日
株式会社富士通研究所

世界最高出力! C帯窒化ガリウムHEMT高出力・高効率増幅器を開発

~C帯で世界最高の出力320 W 、効率60 %を達成~

株式会社富士通研究所(注1)は、窒化ガリウム(GaN)(注2)高電子移動度トランジスタ(HEMT)(注3)を用いて、C帯(注4)で300 ワット(以下、W)を超える出力、および効率(注5)60%の高出力・高効率増幅器を開発しました。

窒化ガリウムHEMTにより、従来のガリウム砒素(GaAs)を用いた増幅器に対して6倍強(当社比)となる世界最高出力320 Wを実現しました。これにより、電波の到達距離が従来に比べ2.4倍に伸びることが期待されます。また高出力用途で用いられている進行波管増幅器(注6)の置き換えが進むと期待され、衛星通信や次世代携帯電話基地局、レーダーなどに用いる送信システムの小型・軽量化や省電力化、長寿命化が可能となります。

なお、今回の技術の詳細は、米国 カリフォルニア州 モントレーで10月12日から開催された化合物半導体回路の国際学会「2008 IEEE Compound Semiconductor IC Symposium」にて発表しました。

背景

衛星通信の通信容量やレーダーの探知距離を伸張するためには、マイクロ波帯(注7)送信機の高出力化が求められています。従来、マイクロ波送信機には高出力の進行波管増幅器や固体素子増幅器(注8)が用いられてきました。進行波管増幅器は真空管構造のため固体素子増幅器に比べ寿命が短く、また、高圧電源が必要なため重量やサイズが大きくなるなどの問題がありました。一方、ガリウム砒素トランジスタを用いた高出力の固体素子増幅器は、トランジスタの耐圧が低いため単一素子あたりの出力が小さいという問題があります。十分な送信出力を得るには多くのトランジスタの出力合成が必要となり、合成回路での損失により効率が低下していました。

そこで近年、ガリウム砒素トランジスタよりも高出力で放熱性に優れた窒化ガリウムHEMTを用いた増幅器の開発が行われています。

課題

高出力増幅器用のトランジスタチップは、複数のトランジスタを並列に接続した構造を持ちます。信号の入力および出力箇所が1つの場合、チップの中央を通る信号と端を通る信号間で、配線長の違いにより位相差が生じます。その結果、各々のトランジスタが同位相で動作しなくなり、トランジスタが本来持つ高出力な特性を十分に引き出すことが困難でした。

開発した技術

今回、2つのトランジスタチップにより構成された増幅器において、上記の課題を解決し、高い出力を得ることができる窒化ガリウム増幅器を開発しました(図1)。特長は以下の通りです。

  1. チップ内の各トランジスタ間で入出力信号に位相差が生じないように、多分割の入出力線路を採用しました(図2)。これにより高い出力電力密度を有する窒化ガリウムHEMTが均一に動作し、効率的な出力の合成が可能になります。
  2. 2つのチップが熱干渉し、チップの温度上昇が生じると、トランジスタの出力は低下してしまいます。これを防ぐために2つのトランジスタチップ間の距離を十分確保し、相互の熱干渉を抑制しました。

以上の技術により各トランジスタの均一な動作が可能となり、窒化ガリウムHEMTの本来の高出力な特性を引き出すことができます。


図1 開発したC帯増幅器

図2 増幅器回路構成

効果


図3 C帯高出力増幅器の出力・効率特性比較

今回2種類のC帯の窒化ガリウムHEMT増幅器を開発し、出力320 Wで効率57 %および出力250 Wで効率60 %の良好な特性が得られました。この特性は、これまでに報告されている100 Wを超える高出力増幅器の性能である1パッケージあたり220 Wの出力を大幅に上回る世界最高性能です(図3)。320 Wの出力は従来のガリウム砒素トランジスタ増幅器に対して6倍強(当社比)の出力に相当し、これにより電波の到達距離が2.4倍に伸びることになります。

これまで高出力用途で用いられていた進行波管増幅器の置き換えが進むと期待され、衛星通信や、次世代携帯電話基地局, レーダーなどに用いる送信システムの小型・軽量化や省電力化、長寿命化が可能になります。


今後

今後、本技術は、高出力かつ高効率性能が要求されるワイヤレス通信機器やレーダーなどに、進行波管増幅器を置き換える用途も含め広く適用する予定です。

以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
  注2 窒化ガリウム(GaN):
ワイドバンドギャップ半導体で、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長がある。
  注3 高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor):
バンドギャップの異なる半導体の接合部にある電子が通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されている。
  注4 C帯:
4 GHzから8 GHzの周波数帯の総称。雨や霧による減衰を受けにくい特長を持つ。衛星通信、固定無線、無線アクセス、航空管制レーダー、気象レーダーなどの用途がある。
  注5 効率:
投入直流電力が高周波出力電力に変換される割合を表す指数。
  注6 進行波管増幅器:
マイクロ波を増幅させる真空管の一種。マイクロ波の位相速度とほぼ同じ速度で進行する電子ビームをつくり、その電子ビームに速度変調と密度変調を与え、両者の間で相互作用させることによってマイクロ波を増幅させる。
  注7 マイクロ波帯:
30 MHz以上30 GHz以下の周波数帯。
  注8 固体素子増幅器:
シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)などの半導体を使った能動素子で構成される増幅器。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
基盤技術研究所 先端デバイス研究部
電話: 046-250-8229(直通)
E-mail: gan-hemt-press@ml.labs.fujitsu.com


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