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PRESS RELEASE (技術)

2009年6月12日
株式会社富士通研究所

世界初! X帯で効率50%を超える100W級 高出力増幅器を開発

~ C帯においても世界最高出力343Wを実現 ~

株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、窒化ガリウム(GaN)(注2)高電子移動度トランジスタ(HEMT)(注3)を用い、X帯(注4)において世界最高の効率(注5)53%と出力101ワット(以下、W)を実現した増幅器を開発しました。これにより、従来のガリウムヒ素(GaAs)HEMTを用いたX帯向け増幅器に比べ、省電力化および電波の到達距離が2倍に伸びることが期待されます。

また、今回開発した技術をC帯(注6)向け増幅器に適用することで世界最高出力343Wを実現しました。これは、昨年、富士通研究所が実現した世界最高出力320Wを更新するもので、従来のガリウムヒ素HEMTを用いた増幅器に比べ、電波の到達距離が2.6倍に伸びることが期待されます。

本技術を用いることにより高出力用途で用いられている進行波管増幅器(注7)の置き換えがいっそう進むと期待され、レーダー、衛星通信や次世代携帯電話基地局のワイヤレス通信機器などに用いる送信システムの小型・軽量化や高機能化、また省電力化、長寿命化が可能となります。

なお、本技術の詳細は、6月7日~12日、米国ボストンで開催されているマイクロ波の国際学会「2009 IEEE MTT-S International Microwave Symposium(IMS2009)」にて発表しました。

背景

マイクロ波帯は、30MHz以上30GHz以下の周波数帯で、衛星通信や気象レーダーなどに適用されています。マイクロ波帯の送信機には、従来、高出力の進行波管増幅器やガリウムヒ素HEMT固体素子増幅器(注8)が用いられてきました。しかし、進行波管増幅器は固体素子増幅器に比べ寿命が短く、高圧電源が必要なため重量やサイズが大きくなってしまう問題があり、一方、ガリウムヒ素HEMTを用いた固体素子増幅器はトランジスタの単一素子あたりの出力が小さいという問題がありました。

昨年、富士通研究所では、ガリウムヒ素トランジスタよりも出力電力密度が高く、放熱性に優れた窒化ガリウムHEMTを用い、C帯で出力300Wを超える世界最高性能の高出力・高効率増幅器を開発しました。

C帯は主に固定無線や無線アクセスなどに適用されています。一方、気象観測や航空管制などの用途には、高解像度のX帯レーダーが用いられていますが、X帯は降雨により信号が減衰しやすい特性であるため、増幅器のさらなる高出力・高効率化が求められています。

課題

これまで報告されている窒化ガリウムHEMTを用いたX帯高出力増幅器は、効率が低いという問題があり、実用化には、以下のような課題の解決が必要です。

  1. 効率は、電力利得(注9)を持つ増幅器により投入直流電力が高周波電力に変換される際の増加量の割合を表すものです。そのため、高い効率を実現するためには高い電力利得、つまり、トランジスタチップの性能の向上が必要です。
  2. 高出力増幅器用のトランジスタチップは、複数のトランジスタを並列に接続した構造を持つため、信号の入力および出力箇所が1つの場合、チップの中央を通る信号と端を通る信号間で、配線長の違いにより位相差が生じます。その結果、特に高周波の場合、各々のトランジスタが同位相で動作しなくなり、各トランジスタの性能を活かせなくなります。そのため、高い効率を実現するためには位相差の解消が必要となります。

開発した技術

今回、上記の課題を解決し、2つのトランジスタチップにより構成された、高効率・高出力のX帯およびC帯の窒化ガリウムHEMT増幅器を開発しました。これにより、高い周波数においても窒化ガリウムHEMTの本来の高出力な特性を引き出しつつ、高い効率を実現することが可能となります。開発した技術の特長は以下の通りです。

  1. 高い周波数に対応するために、トランジスタのゲート長を0.25マイクロメートル(以下、μm)に微細化、かつゲート・ドレイン間隔の最適化を行い、高周波特性と耐圧を両立した高出力トランジスタ開発しました(図1)。これによりX帯で約10倍の電力利得を得るとともに、抵抗成分を減らし、効率を向上させることに成功しました。
  2. 昨年、富士通研究所で開発したC帯の窒化ガリウムHEMT増幅機の入力信号の位相差を発生させない多分割の入出力線路構造において、さらに配線構成の最適化を行い、X帯に適用しました(図2)。これにより、X帯においてもチップ内の各トランジスタ間における入出力信号の位相差が解消され、高い出力電力密度を有する窒化ガリウムHEMTが均一に動作し、効率的な出力の合成が可能になりました。また、2つのチップの間の熱干渉を抑制することにより、チップ温度上昇による出力の低下も抑制しました。
    さらに、本技術をC帯の増幅器にも適用することにより、増幅器性能の向上を図りました。

図1 開発したX帯用HEMT

図2 増幅器回路構成

効果

今回開発した技術により、X帯およびC帯向けの2種類の窒化ガリウムHEMT増幅器を開発しました。

X帯においては、世界最高の効率53%および出力101Wと良好な特性が得られました(図3)。効率は送信器においては消費電力低減のため非常に重要です。10GHz帯において同等出力で従来の報告例より20%程度も高く、省電力化に大きく貢献します。また101Wの出力は従来のガリウムヒ素HEMT増幅器に対して約4倍(当社比)の出力に相当し、これにより電波の到達距離が2倍に伸びることが期待されます。

さらに、本技術をC帯にも適用し、昨年発表した効率を維持したまま出力を向上させ、出力343Wの出力を達成しました。この特性は、当社が昨年発表した320Wの最高出力を大幅に上回る世界最高性能です。343Wの出力は従来のガリウムヒ素HEMT増幅器に対して約7倍(当社比)の出力に相当し、これにより電波の到達距離が2.6倍に伸びることが期待されます。

従来高出力用途で用いられていた進行波管増幅器の置き換えが進むと期待され、レーダー、衛星通信や次世代携帯電話基地局のワイヤレス通信機器などに用いる送信システムの小型・軽量化や省電力化、長寿命化が可能になります。


図3 X帯高出力増幅器の性能比較(10GHz帯)

今後

今後、本技術は、高出力かつ高効率性能が要求される気象観測や航空管制などに用いられるレーダー、衛星通信や次世代携帯電話基地局のワイヤレス通信機器などに、進行波管増幅器を置き換える用途も含め広く適用する予定です。

以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
  注2 窒化ガリウム(GaN):
ワイドバンドギャップ半導体で、シリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長がある。
  注3 高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor):
バンドギャップの異なる半導体の接合部にある電子が通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されている。
  注4 X帯:
8GHzから12GHzの周波数帯の電波の総称。混信、干渉が少なく、妨害を受けにくい特長を持つ。衛星通信、航空誘導レーダー、気象レーダーなどの用途がある。
  注5 効率:
投入直流電力が、高周波出力電力と高周波入力電力の差すなわち増幅された電力に変換される割合を表す指数。増幅器に供給された直流電力が、出力信号として高周波電力に変換される割合を表す指標。
  注6 C帯:
4GHzから8GHzの周波数帯の電波の総称。雨や霧による減衰を受けにくい特長を持つ。衛星通信、固定無線、無線アクセス、航空管制レーダー、気象レーダーなどの用途がある。
  注7 進行波管増幅器:
マイクロ波を増幅させる真空管の一種。マイクロ波の位相速度とほぼ同じ速度で進行する電子ビームをつくり、その電子ビームに速度変調と密度変調を与え、両者の間で相互作用させることによってマイクロ波を増幅させる。
  注8 固体素子増幅器:
シリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)などの半導体を使った能動素子で構成される増幅器。
  注9 電力利得:
出力電力を入力電力で割った指数。入力信号が増幅された割合を示す。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
基盤技術研究所 先端デバイス研究部
電話: 046-250-8229(直通)
E-mail: gan-hemt-press@ml.labs.fujitsu.com


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