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PRESS RELEASE (技術)

2009年2月12日
株式会社富士通研究所

世界初!CMOS技術を適用した77GHz車載レーダー用RF送受信ICを開発

株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、90ナノメートル(以下、nm)世代のCMOS技術(注2)を適用した、77ギガヘルツ(以下、GHz)の高周波信号を処理する車載レーダー用のRF送受信IC(注3)を世界で初めて開発しました。

このRF送受信ICは、今回新たに開発した磁界を利用した信号分配回路やインダクタ素子(注4)を活用した回路設計などの小型化技術を適用し、送受信機能の1チップ化を実現したものです。チップサイズも1.2mm X 2.4mmと、従来、学会などで報告されているCMOS技術を適用したミリ波帯(30 GHz~300 GHz)用途のRF送信ICやRF受信ICのなかでも、世界最小サイズを実現しています。

この技術により、RF送受信ICやベースバンドIC(注5)などの複数のチップで構成されている車載レーダーの信号処理回路を、1チップのICに集積し小型化することが可能となり、車載レーダーの大幅な低価格化と普及が期待できます。

本技術の詳細は、米国 サンフランシスコで2月8日から開催されている国際固体素子回路会議ISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)にて発表しました。(発表番号18.3)


背景

ミリ波と呼ばれる高周波電波は、波長が短く2点間の距離の高精度な測定が可能となるため、高精度レーダーシステムなどに利用されています。中でも、民生用に割り当てられている77 GHzの周波数を利用した車載レーダーは、車両の衝突緩和レーダーとしてすでに実用化されており、さらなる普及を目指して、小型化・低価格化に向けた開発が進められています。

この車載レーダーにおいて、77GHzの高周波信号を直接処理するRF送受信ICには、現在、高周波特性に優れた化合物半導体(注6)が適用されています。その一方で、低周波に変換した信号を演算するベースバンドICには、高集積・低消費電力性能に優れ低価格なCMOS回路が用いられています。化合物半導体素子を適用したRF送受信ICとCMOS技術を適用したベースバンドICは、適用技術が異なり1チップに集積することができないため、複数のチップを用いて車載レーダーを構成する必要があり、小型化が難しく、チップ単価、実装・試験コストが増大していました。

一方、CMOS回路は、近年の微細加工技術の進展により動作速度および動作周波数が化合物半導体並みに向上してきています。そのため、RF送受信ICを化合物半導体から低価格なCMOS回路に置き換えるための研究が加速しています。77GHz車載レーダーのRF送受信ICもベースバンドICとの1チップ化による小型化・低価格化が期待され、その研究が進められています。富士通研究所は昨年、ミリ波帯用途向けにCMOS回路技術を開発し、77 GHzで動作するRF送受信IC用の高出力増幅回路を実現していますが、さらに低価格な車載レーダーを実現するためには、機能の集積化とチップの小型化技術などが必要となります。


課題

CMOS技術による、77GHz 動作の小型なRF送受信ICの実現には、それぞれの回路において、以下のような課題がありました。

  1. 信号分配回路と変換回路:

    RF送受信ICでは送信回路部と受信回路部のそれぞれに77GHzの基準信号を供給します。そのため、2系統に基準信号を分配するための信号分配回路が必要になります。さらに、雑音を低減するために、それぞれの基準信号を差動(2本の信号線を用い逆位相で対となる信号で伝送する)信号に変換する変換回路が必要です(図 1(a))。これらの回路はサイズが大きく、レイアウト配置の最適化や回路全体の小型化が困難でした。

  2. 整合回路:

    従来、77 GHzもの高周波信号を効率よく伝達するための整合回路には、設計精度を確保しやすい伝送線路(注7)素子が用いられています。伝送線路素子は、信号線とグラウンドを対としたレイアウト構造が必要なため、素子サイズが大きくなり、チップの面積が大きくなっていました。


技術の概要

今回、RF送受信ICを小型化する以下の2つの新しい設計技術を確立することにより、90nm世代のCMOS技術を適用した77GHzで動作可能なRF送受信ICを、世界で初めて実現しました。

  1. 磁界を利用した信号分配回路:

    磁界の変化で電流を生成する電磁誘導の原理を用いたトランスフォーマー(変圧器)を用いることにより基準信号を2系統の差動信号に分配する回路を開発しました (図1(b)) 。これにより縦横80マイクロメートル(以下、µm)と、従来の分配回路に比べ、100分の1以下の面積を実現しました。

  2. 設計精度と小型化を両立する整合回路の設計技術:

    設計精度よりも面積低減が重要な回路部位にはCMOS技術の特徴である多層配線構造を利用した小面積のインダクタ素子を伝送線路素子の替わりに適用し、設計精度が必要な回路部位には伝送線路素子を適用する設計技術を確立し、77GHzでの正確な動作と回路面積の小型化の両立に成功しました。


図1 信号分配回路

効果

上記の2つの技術の組み合わせにより、世界で初めて、CMOS技術による77GHz 動作が可能なRF送受信ICを実現しました(図2)。チップサイズも1.2mm X 2.4mmと、従来、学会などで報告されているCMOS技術を適用したミリ波帯用途のRF送信ICやRF受信ICのなかでも、世界最小サイズを実現しています(図3)。

本技術は、77 GHzの高周波信号を処理するRF送受信ICを、低周波演算処理を行うベースバンドICと同じCMOS技術で実現するもので、制御回路を含めた車載レーダーの信号処理回路を1チップ化し、小型化することが可能になります。1チップ化が実現すれば、従来、化合物半導体を適用していたためRF送受信ICに内蔵できなかった試験機能や環境温度による特性変動の自己調整機能なども、チップ内に搭載できるため、ICチップの実装・試験コストを大幅に削減し、車載レーダーの大幅な低価格化と普及が期待できます。



図2 RF送受信IC回路ブロック図


図3 77GHz動作 RF送受信ICチップ ( 1.2 mm X 2.4 mm )

今後

今回開発したRF送受信ICに、環境温度による特性変動を自己調整する機能やベースバンド回路を内蔵する技術の開発を進め、より高機能・高性能な車載レーダー用ICチップを実現していきます。

以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
  注2 CMOS技術:
シリコン基板上に作成された、N型とP型のMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタを相補的に接続して構成されている半導体技術。消費電力が小さく、現在の集積回路の主流となっている。
  注3 RF送受信IC:
無線システムなどにおいて、アンテナを通じて送受信されるRF(Radio Frequency)と呼ばれる高周波信号を、低周波の信号に変換処理する回路チップ。RFフロントエンドICとも呼ぶ。
  注4 インダクタ素子:
電磁気回路において、電流の変化による電圧が誘導される性質を利用したコイル素子。
  注5 ベースバンドIC:
無線システムなどにおいて、高周波信号に変復調する前のデータ信号を処理する回路チップ。
  注6 化合物半導体:
2種類以上の元素からなる半導体で、GaAs(ガリウムヒ素)、InP(インジウムリン)などがある。シリコンに比べて電子の移動度が高いため、高速動作が可能。
  注7 伝送線路:
電子機器や電子回路において、高周波信号を伝送するための接続配線のこと。導波管や同軸線路、マイクロストリップ線路などがある。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
基盤技術研究所 先端デバイス研究部
電話: 046-250-8244(直通)
E-mail: amr@ml.labs.fujitsu.com


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