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PRESS RELEASE (技術)

2015年11月5日
株式会社富士通研究所

シンガポールで人・交通の混雑を緩和する実証実験を開始

AI技術「Zinrai」を人の行動特性に適用

株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、シンガポールのイベント施設、スポーツ施設、商業施設において人・交通の混雑を緩和する実証実験を11月1日より開始しました。

本実証実験では、イベントなどに参加した後、帰宅まで混雑が予想される状況で、自分にあった最適な行動や過ごし方をスマートフォンのアプリケーションを通じて提案し、その効果を検証します。行動の提案は富士通株式会社(以下、富士通)のAI技術「Human Centric AI Zinrai(ジンライ)(以下、Zinrai)」を活用して生成し、提案内容を適切に調整することによって、混雑時間帯のシフトや交通手段の分散などによる混雑緩和を実現します。

背景

富士通研究所は、ソーシャルイノベーションの領域において、様々な社会課題を解決する研究を行っています。富士通は、富士通研究所の研究開発力を駆使して、シンガポール科学技術庁(Agency for Science, Technology and Research、所在地:シンガポール、長官:リム・チャン・ポウ)、Singapore Management University (所在地:シンガポール、学長:Arnoud De Meyer)とともに、2014年10月にシンガポールで先端研究組織(CoE:Center of Excellence)を設立(注2)し、複数のテーマのうちの一つとして大都市などにおける混雑の緩和や歩行者の動線改善などを目的とした研究開発を進めています。

一般に、混雑は特定の交通手段や特定の時刻に人々の移動が集中し、許容量を超えたときに発生します。混雑解消のため国や自治体により道路建設や鉄道増便などインフラ拡張の対策が行われていますが、拡張には大掛かりな工事や大規模なコストを要することが課題となっています。そこで富士通研究所は人に着目し、交通割引や周辺飲食店でのインセンティブを提供して行動を誘導し、出発や帰宅時刻をシフトさせることや、交通手段を変えてもらうことなどを提案する試みを検討しています。

課題

出発時刻や交通手段を変更しても良いと考える人に対して、変更しなかった人に対する不公平感を感じさせないことが重要です。さらに、喜んで行動を変えてもらえるような具体的な提案内容や提案のための指標は、これまで明らかになっていませんでした。

実証実験の概要

・目的  :  人々の行動誘導による混雑緩和効果の検証
・実施期間  :  2015年11月1日~2017年12月31日(予定)
・実施場所  :  シンガポール国内のイベント施設、スポーツ施設、商業施設
・対象人数  :  数万人

開発した技術

今回、行動提案の受け入れやすさを定式化した行動誘導モデルを開発しました(図1)。

本技術は、開発済みの人の移動ニーズと事業者利益を両立させる技術(注3)を基礎として、富士通のAI技術「Zinrai」の機械学習や予測・最適化などを用いたものです。

<モデルの概要>

人にインセンティブを織り交ぜた行動を提案した際の受入れ易さを、満足度と行動誘導項から算出します。

(ア) 満足度:人々がもつ静的な行動特性で、せっかち、のんびりなどの性格を表し、急激に変わらないものです。
次の3項目から算出します。
(1) 交通利用時にどれだけの混雑を我慢できるか
(2) 混雑回避にどれくらいまで出発を遅らせることができるか(あるいは早めることができるか)
(3) 料金はどれくらいまで許容できるか
図1の(ア)は出発までの待ち時間を例に満足度を示しています。待ち時間が長くなるほど満足度が下がる曲線として表すことができます。満足度は数式で表現され、アンケートなどを実施することにより数式の変数を調整します。
(イ) 行動誘導項:交通手段の料金割引や、クーポンなどのインセンティブを受領した際の満足度の変化を表します。(ア)の満足度と同様に数式で表されます。行動誘導項は気分によって変わる可能性が高いため、クーポンを使ったかどうかなど行動提案後の実際の行動をフィードバックして学習を繰り返します。
(ウ) 行動提案の受入れ易さ:満足度と行動誘導項を合算し、満足度がインセンティブを与えることによってどう変化するのかを算出します。図1の(ウ)のグラフは、クーポンの提供により許容できる待ち時間が長くなることを示しています。

図1 行動誘導モデル
図1 行動誘導モデル

行動誘導モデルを活用し、受け入れやすい行動を複数抽出します。その中で、混雑の分散への貢献度が高いものを抽出することで、人々が受け入れ可能かつ混雑緩和に結びつく行動を発見できます。発見した行動をスマートフォンに表示することで、最適な行動を提案します(図2)。

図2 混雑緩和に結びつく行動を提案
図2 混雑緩和に結びつく行動を提案

今回、受け入れやすい行動の事前検証として、シンガポールのスポーツ複合施設内におけるスポーツイベントにて500人を対象にアンケート実施し、以下の結果を得ることができました。

  • 混雑状況の推移予測を正確に通知すると、51%の人々がすぐに帰宅するよりも商業施設で時間を費やす
  • さらに、400円相当のクーポンを提供すると、73%の人々が商業施設への立ち寄りを選択する
  • さらに、900円相当のクーポンを提供すると、91%の人々が商業施設への立ち寄りを選択する

アンケート結果に基づいて、実際の施設、周辺交通を想定し、シミュレーションを行いました。施設を利用する1万人のうち約40%(注4)がクーポンを提供することで行動を変えると仮定すると混雑を30%解消でき、さらに商業施設に40%の人々が誘導されることも分かりました。

今後

富士通研究所は、シンガポールの複数の施設において、効果検証と性能向上を目的に2017年12月31日まで実証実験を行う予定です。実験結果の活用と変更した本技術の研究開発も進め、2016年3月までに富士通の位置情報活用クラウドサービス「SPATIOWL」への搭載を想定した実用化を目指します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
本社:神奈川県川崎市、代表取締役社長:佐相秀幸。
注2 先端研究組織を設立:
持続可能な社会の共創に向け、先端研究組織を設立」(2014年10月15日 プレスリリース)
注3 人の移動ニーズと事業者利益を両立させる技術:
住民の移動ニーズへの対応と事業者利益の向上を両立するオンデマンド交通運行技術を開発」(2014年5月8日 プレスリリース)
注4 施設を利用する1万人のうち約40%:
アプリ使用者が60%、行動を変える人が70%の場合。60%×70%で試算。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
応用研究センター ソーシャルイノベーション研究所
電話 044-754-2652(直通)
メール fj-congestion@ml.labs.fujitsu.com


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