このページの本文へ移動
  1. ホーム >
  2. プレスリリース >
  3. CPU間の大容量データ伝送に向けて4波長シリコン集積レーザーを開発

PRESS RELEASE (技術)

2013年3月21日
株式会社富士通研究所

CPU間の大容量データ伝送に向けて4波長シリコン集積レーザーを開発

株式会社富士通研究所(注1)は、CPU間の大容量データ伝送を実現するために必要となる光送受信器(注2)用のシリコンフォトニクス(注3)技術を用いた4波長集積レーザーを開発しました。

データ伝送の大容量化には、1本の光ファイバーに複数の異なる波長の信号をより多く束ねること(多重化)が有効です。従来、シリコンフォトニクスでは各波長の光信号をサイズの異なるリング共振器(注4)を用いて生成していましたが、製造ばらつきや温度変動のため各波長の間隔を精度よく均一に保つことが難しいという問題がありました。また、各信号を合成、分離する際の損失を補償するために高出力化が必要でした。今回、リング共振器が持つ周期的な透過特性を利用して、波長間隔が広くかつ均一なレーザー光を生成することに成功しました。また、シリコン基板上の複数の光配線と光増幅素子を高精度に接続する実装技術により接続時の損失を低減し、高出力化にも成功しました。これらにより、12±0.5ナノメートル(以下、nm)の広くかつ均一な波長間隔の4波長で発振し、+5ディービーエム(以下、dBm)の高出力なシリコン集積レーザーを実証しました。

今回開発した技術により、CPU間の大容量伝送が可能となり、将来のエクサフロップス級スパコン(注5)やハイエンドサーバなどへの適用により、超高速コンピュータの実現が期待されます。

本技術の詳細は、3月17日(日曜日)から21日(木曜日)まで米国・アナハイムで開催される国際会議「The Optical Fiber Communication Conference and Exposition and the National Fiber Optic Engineers Conference(OFC/NFOEC 2013)」にて発表します。

開発の背景

近年、スパコンやハイエンドサーバの演算処理速度は1年半で約2倍のペースで高速化しており、2018年ころには毎秒数テラビットに及ぶデータを入出力するための大容量データ伝送技術が必要です。このため、CPU間を光で接続する光インターコネクト技術の適用が検討されています(図1)。特に最近、小型で大規模集積化に適した、電気と光の融合が可能となるシリコンフォトニクス技術を用いた光送受信器の開発が注目を集めています。

図1 シリコン集積光送受信器による大容量データ伝送技術
図1 シリコン集積光送受信器による大容量データ伝送技術

課題

CPU間で大容量データの伝送を行うためには、1本の光ファイバーに複数の異なる波長の信号をより多く束ねること(多重化)が有効です。そのため、シリコンフォトニクス技術においても波長多重化技術が開発されています。従来、サイズの異なるリング共振器を用いて、各波長(ch1~ch4)を生成していましたが(図2)、各波長を決めるリング共振器の周回長が製造ばらつきのために設計値からずれやすく、また、各波長の間隔が狭いため環境温度変動によって波長の変化が生じた場合に、各波長の識別ができなくなるという問題がありました。さらに環境温度が変化することに伴って生じる波長変化を補正するため、波長ごとに温度調整回路が必要になるなど装置が複雑化していました。また、このように精度よく各波長を生成することに加えて、各信号を合成、分離する際の損失を補うために信号を高出力化することが求められていました。

図2 従来のシリコンフォトニクスにおける波長多重化技術の課題
図2 従来のシリコンフォトニクスにおける波長多重化技術の課題

開発した技術

今回、リング共振器が持つ周期的な透過特性を利用して各波長を広い間隔で均一に生成することに成功しました。また、シリコン基板上の複数の光配線と光増幅素子を高精度に接続する実装技術により接続時の損失を低減しました。これらにより、12±0.5nmの広くかつ均一な波長間隔の4波長で発振し、+5dBmの高出力なシリコン集積レーザーを実証しました。開発した技術の特徴は以下の通りです。

  1. レーザー発振波長制御技術

    複数の異なる波長の信号を広い間隔で均一に生成する技術です。各レーザーは、4つの同じサイズのリング共振器で構成され(図3)、これらのリング共振器は周期的な透過特性を持つ波長フィルターとして動作します。また、各リング共振器には周期的な波長の中から一つを選択するよう波長選択機構(DBRミラー(注6))が設けられており、それぞれが異なる波長を選択することで4波長を生成します。

    本構成では、各リング共振器は同じサイズで構成されており周期特性が同一のため、各波長の間隔は従来のようにリング共振器の周回長の差分ではなくリング共振器が持っている周期特性で決まり、各レーザーの動作波長を等間隔で精度よく生成することができます。また、本構成と同じサイズのリング共振器を用いた変調器と組み合わせることで、温度変化による波長の変動をキャンセルすることが可能なため、CPUパッケージのような環境温度が変化する時にも、消費電力が大きい温度制御回路を必要とせずに光送信器を構成できます。

    図3 今回開発した4波長シリコン集積レーザーの概念図
    図3 今回開発した4波長シリコン集積レーザーの概念図

  2. 低損失光増幅器結合技術

    光増幅素子をシリコン上に高精度に搭載する技術です。4チャンネルの光増幅素子をシリコン上の光導波路に誤差±0.5マイクロメートル以内で高精度に直接貼り合わせて搭載することで(図4)、光増幅素子とシリコン共振器の接続時の損失を低減し、4波長シリコン集積レーザーで、波長多重光通信に十分な+5dBm以上の光出力が得られました(図5)。

    図4 試作した4波長シリコン集積レーザー
    図4 試作した4波長シリコン集積レーザー

    図5 試作した4波長シリコン集積レーザーの特性
    図5 試作した4波長シリコン集積レーザーの特性

効果

本技術を用いた光送信器を1チップに多数集積することにより、CPUモジュールに搭載可能なサイズで、毎秒数テラビット級の大容量光データ伝送を実現することが可能になります。将来のエクサフロップス級スパコンやハイエンドサーバに必要なCPU間の大容量データ伝送を実現することが可能となり、超高速コンピュータの実現が期待されます。

今後

今後は、シリコンフォトニクス技術を用いた波長多重に対応した光受信器を開発し、今回開発の光送信器と集積することで小型の光送受信器を実現していきます。さらに、大規模集積化や実装技術を開発し、CPUパッケージに搭載する毎秒数テラビット級の大容量、小型の集積光インターコネクトの開発を進めていきます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
注2 光送受信器:
電気信号を光信号に変換して送信する光送信器と、受信した光信号を電気信号に変換する光受信器の両者を備えた部品。
注3 シリコンフォトニクス:
シリコン基板上に光素子を形成する技術。シリコンを用いることにより光回路を小型化でき、大規模集積が可能になる。また、光回路と電子回路を一体形成や製造コストの低減が可能になるなどの特長を持つ。
注4 リング共振器:
リング型光導波路で構成される光共振器。シリコンフォトニクスの場合、半径数マイクロメートルのサイズまで小型化することが可能。共振効果により光変調器の効率を高めることができる。
注5 エクサフロップス級スパコン:
浮動小数点演算を1秒間に100京回行うことができるスーパーコンピュータ。
注6 DBRミラー:
Distributed Bragg Reflector(分布帰還型反射鏡)。光導波路上に周期的な構造を形成することで、その周期に対応する光の波長成分だけを反射し、ほかの波長は反射されずに通過する、波長選択可能な反射鏡を作ることができる。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
次世代ものづくり技術研究センター
電話 046-250-8251(直通)
メール si-photonics-3@ml.labs.fujitsu.com


プレスリリースに記載された製品の価格、仕様、サービス内容、お問い合わせ先などは、発表日現在のものです。その後予告なしに変更されることがあります。あらかじめご了承ください。