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PRESS RELEASE (技術)

2012年8月31日
株式会社富士通研究所

CPU間の大容量データ伝送に向けてシリコン集積光送信器を開発

温度制御を不要とする構造を採用した光源と光変調器を同一シリコン上に集積し、高速動作を実証

株式会社富士通研究所(注1)は、CPU間での大容量データ伝送を実現するために必要となる、光送受信器(注2)用のシリコン集積光送信器を開発しました。

CPU近傍に設置される光送信器に搭載される光源と、光源から発せられた光に情報を乗せる光変調器(注3)はCPUからの発熱により温度変化の影響を大きく受けるため、それぞれの動作波長を常に一致させるための温度制御が不可欠でした。そこで、温度制御を不要とする構造を考案し、光源と光変調器のそれぞれに本構造を採用することで、温度特性が一致することをこれまで実証してきました。今回、本構造を採用した光源と変調器を同一シリコン上に集積した光送信器を試作し、25℃から60℃の範囲で毎秒10ギガビットの光変調信号が得られることを実証しました。また、光送信器全体の消費電力を従来に比べ約50%削減しました。

今回開発した技術により、低消費電力な光送受信器をCPUパッケージに搭載することが可能になります。大容量データ伝送が必要とされる将来のエクサフロップス級スパコン(注4)やハイエンドサーバなどへの適用により、超高速コンピュータの実現が期待されます。

本技術の詳細は、8月29日(水曜日)から31日(金曜日)まで米国・サンディエゴで開催された国際会議「9th Group IV Photonics (GFP 2012)」にて発表します。

開発の背景

近年、スパコンの演算処理速度は1年半で約2倍のペースで高速化しており、2020年頃をターゲットに、エクサフロップス級のスパコンの開発が進められています。エクサフロップス級の処理性能を実現するには、CPUから毎秒10テラビットに及ぶデータを入出力するための大容量データ伝送技術が必要です。しかし、従来の銅線を用いた電気インタコネクト技術では、データ容量の増大に伴い回路面積、伝送線数、消費電力が著しく増大するため、エクサフロップス級スパコンのデータ伝送を実現するのは困難と言われています。このため、図1に示すようにCPU間を光で接続する光インタコネクト技術の適用が検討されています。特に最近、小型で大規模集積化に適した、電気と光の融合が可能となるシリコンフォトニクス(注5)技術を用いた光送受信器の開発が注目を集めています。


図1 シリコン集積光送受信器による大容量データ伝送技術

課題

光送受信器内の送信器は、光を出す光源とその光に情報を乗せる光変調器で構成されます。光変調器は、低消費電力化および小型化に有利なリング共振器(注6)を用いた構成が望まれます。一方、光送受信器はCPUの近くに配置されるため、CPUからの発熱の影響などにより、光源の発振波長と光変調器内のリング共振器の波長が一致しなくなると、光に情報が乗らなくなるという問題がありました。これを一致させるためには温度制御機構が必要となり、光送受信器の小型化・低消費電力化を妨げる要因となっていました。

課題解決のアプローチ

光源の波長制御部に光変調器と同一のリング共振器を用いることで、温度制御機構なしで光源と光変調器の波長を一致させる構造を考案しました。また、本構造を採用した光源と光変調器をそれぞれ個別に試作し、それぞれの温度特性が一致することをこれまで実証してきました。

開発した技術

今回新たに、本構造を採用した光源と光変調器を同一シリコン上に集積した光送信器を試作し、温度制御機構なしで光源と光変調器の波長を一致させて、25℃から60℃の範囲で毎秒10ギガビットの光変調信号が得られることを実証しました。

図2は光源と光変調器を集積して試作したシリコン光送信器です。温度の変動による波長のシフトに対応するため光源の波長制御部と光変調器には同一のリング共振器を用いています。さらに、光源の波長と光変調器の波長が多少ずれても動作を保障するために、光変調器はリング共振器を複数並べた構成とすることで動作波長範囲を拡大しています。本構造とすることで、温度制御機構が不要となり、光送信器全体の消費電力を従来に比べ約50%削減しました。また、半導体光増幅器を除いた光送信器の長さは約2 mmと小型化を実現しています。シリコン細線光導波路構造(注7)の最適化により、将来的には1mm以下の小型化が期待できます。


図2 試作した光源と光変調器を集積したシリコン光送信器

図3に温度を変化させながら測定した毎秒10ギガビットの光変調信号を示します。温度が25℃から60℃まで変化させた時、スペクトルのピーク波長は長波長側に移動しますが、波長の制御無しで安定した変調信号が得られていることが分かります。


図3 25℃から60℃における光送信器の毎秒10ギガビット高速変調動作

この光送信器の高速化をさらに進め、波長多重技術を利用して1チップに多数集積することにより、CPUモジュールに搭載可能なサイズで、毎秒テラビット級の大容量光データ伝送を実現することが可能になります。

効果

開発した技術を用いることで、将来のエクサフロップス級スパコンやハイエンドサーバに必要なCPU間の大容量データ伝送を低消費電力で実現することが可能となり、超高速コンピュータの実現が期待されます。

今後

今後は、シリコンフォトニクス技術を用いた受信器を開発し、本発表の送信器と集積することで小型の光送受信器を実現していきます。さらに波長多重技術の適用や大規模集積を進めて、毎秒10テラビット級の大容量集積光インタコネクトの開発を進めていきます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
注2 光送受信器:
電気信号を光信号に変換して送信する光送信器と、受信した光信号を電気信号に変換する光受信器の両者を備えた部品。
注3 光変調器:
強度一定の入力光に電気信号に対応する強度変調を加えることで、電気信号を光信号に変換する光部品。光の強度ではなく、位相を変調するものもある。
注4 エクサフロップス級スパコン:
浮動小数点演算を1秒間に100京回行うことができるスーパーコンピュータ。
注5 シリコンフォトニクス:
シリコン基板上に光素子を形成する技術。シリコンを用いることにより光回路を小型化でき、大規模集積が可能になる。また、光回路と電子回路を一体形成や製造コストの低減が可能になるなどの特長を持つ。
注6 リング共振器:
リング型光導波路で構成される光共振器。シリコンフォトニクスの場合、半径数ミクロンのサイズまで小型化することが可能。共振効果により光変調器の効率を高めることができる。
注7 シリコン細線光導波路:
断面の高さと幅が1ミクロン以下となるような非常に小型なシリコン光導波路。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
次世代ものづくり技術研究センター
電話 046-250-8251(直通)
メール si-photonics-2@ml.labs.fujitsu.com


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