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PRESS RELEASE (技術)

2012年5月15日
株式会社富士通研究所

操作応答を10倍高速化することで動画やグラフィックスをスムーズに活用できる
高速シンクライアント技術を開発

グローバル展開を進める企業のクラウド利用を効率化

株式会社富士通研究所(注1)は、品質が悪いネットワーク環境でも、操作応答を最大10倍高速化する高速シンクライアント技術を開発しました。

従来、クラウド内にデスクトップ環境を仮想的に配置して、クライアント端末から利用する仮想デスクトップ環境では、動画やグラフィックスを多用するアプリケーションでの操作応答性能が悪くその利用が困難でした。特に海外に仮想デスクトップの端末がある場合やモバイル環境では、データ送受信の遅延やデータ損失(パケットロス)のために、この問題が顕著化しており、グローバルに展開する企業にとってクラウド利用の課題となっていました。

今回、このような品質が悪いネットワーク環境でも、操作応答を最大10倍高速化する高速シンクライアント技術を開発しました。本技術により、海外展開を進める企業にとって、国内だけでなく海外からも仮想デスクトップ環境でアプリケーションを効率良く操作できるようになります。特に、グローバル化が急速に進む設計業務において、海外や国内の各拠点間で連携してセキュアな共同作業が実現できます。また、動画コンテンツを利用したグローバルな遠隔社員教育や、タブレット端末でモバイル環境から社内アプリケーションを遠隔操作し、顧客先で対話的な商品説明が可能になるなど、シンクライアントの新しい用途を拡大することが可能となります(図1)。

本技術は、5月17日(木曜日)、18日(金曜日)の2日間、東京国際フォーラムにて開催される「富士通フォーラム2012」に出展します(2012年4月2日 プレスリリース)。


図1 本技術を用いたシンクライアントのさまざまな利用イメージ

開発の背景

昨今の製造業の事業継続計画(BCP:注2)、セキュリティに関する意識の向上や、PCなどの端末運用管理コストの観点から、クラウド環境にPCなどのデスクトップ環境を仮想化して設置し、リモートからシンクライアントとして利用する形態の仮想デスクトップサービス(DaaS:Desktop as a Service)が注目されています。国内企業がグローバル展開を進めていく中で、国内だけでなく海外拠点とも連携したものづくりが急速に進みつつあり、情報漏洩リスク低減のため海外に設計データを持ち出さずに遠隔で作業が行えるシンクライアントへの期待が大きくなっています。さらに、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末の高機能化にともない、さまざまなモバイル環境から仮想デスクトップサービスを利用するニーズも増えています。

課題

現状の仮想デスクトップ環境では、サーバ側で実行される仮想デスクトップ環境の画面データを、更新があるごとにクライアント端末に送信することで、リモートからのデスクトップ利用を可能としています。しかし従来、以下の課題がありました。

  1. データ送受信の遅延の問題

    国内とアジアなど海外を結ぶネットワークは、データ送受信時に通常100ミリ秒(msec)以上の往復遅延があり、海外拠点から国内拠点に設置した仮想デスクトップ環境上の3D-CADなどのグラフィックスアプリケーションを利用する場合に、操作応答が悪くなる問題がありました。たとえば、日本とシンガポール間の往復遅延は100msec程度、日本と北米間の往復遅延は200msec程度になります。

  2. データ損失(パケットロス)の問題

    たとえば複雑なグラフィックスや高精細な画像を多用する3D-CADや動画再生アプリケーションなどを仮想デスクトップ環境で利用すると、1クライアントあたり毎秒数十メガビット(Mbps)程度のデータ転送速度が必要になります。しかし、海外と通信を行う場合やモバイル環境で利用する場合、データ損失(パケットロス)が頻繁に発生し、データ転送速度が数Mbps程度しか出ないという課題がありました。

  3. 描画処理の問題

    動画やグラフィックスを仮想デスクトップ環境で利用するには、描画処理を専用に処理するGPU(注3)が必要となります。しかし、仮想マシンごとに1つのGPUを割り当てる必要があるため、サーバの集約度を高めることができずに設置スペースがかさばり、運用コストが高くなるという課題がありました。

開発した技術

富士通研究所では、国内での利用を想定した仮想デスクトップ環境において、動画や高精細画像を扱うアプリケーションをスムーズに動作させる技術(RVEC:レベック)を開発してきました(2011年5月発表)。今回、新たに上記の課題を解決し、海外からの利用や、より品質が悪いモバイルネットワーク環境にも対応できるようにするために、RVECを技術拡張し、遅延およびパケットロスが多いネットワーク環境でも操作応答を向上させる高速シンクライアント技術を開発しました。その特長を以下に示します。

  1. 画面データ量削減技術

    仮想デスクトップ環境において、アプリケーション操作時に利用可能な通信帯域に応じて画面の画質や描画フレームレートを調整してクライアントに送信することで、データ転送量と操作遅延を抑制する画面データ量削減技術を開発しました(図2)。これにより、操作応答を従来方式であるRDP(注4)に対して最大約10倍高速化しました。


    図2 画面データ量削減技術による画質・フレームレート調整の動作例

  2. ネットワーク遅延対策技術

    海外とのネットワーク接続時や、モバイル環境など、遅延やパケットロスが比較的大きいネットワーク環境でも操作遅延を抑えるために、新プロトコルを開発しました(図3)。本プロトコルを使用することで、画面データ転送を、従来方式のTCP(注5)よりも約6倍高速化しました。


    図3 ネットワーク遅延対策技術による性能評価

  3. GPU仮想化技術

    仮想デスクトップ環境でグラフィックスを多用するアプリケーションを動作させる場合に、3D-CADなどのグラフィックス描画処理を高速化するためのGPUを、同時に複数の仮想マシン(Windows OSなど)上のアプリケーションが共用することで高速なレスポンスを実現するGPU仮想化技術を開発しました(当社試験環境で同時に四つの仮想マシンでの共有を実現)(図4)。このGPU仮想化技術では、CPU・GPU処理切替機構が、CPUやGPUの負荷に応じて画面更新判定や静止画圧縮の各処理をCPUまたはGPU上で実行させ、GPU共有機構が、複数の仮想マシンからの描画命令を並列にGPUに伝達します。 これにより、仮想デスクトップ環境の仮想マシンの集約度を高めるとともに、安定的で高速な操作レスポンスを実現します。


    図4 GPU仮想化(共有)技術

効果

本技術を用いることで、グローバル化が急速に進む設計業務において、海外や国内の各拠点間で連携した作業が効率的に行えるようになります。本技術は、3D-CADだけでなくCAE(注6)などグラフィックスを多用するアプリケーションを利用する場合にも同様の効果があります。また、動画コンテンツを利用したグローバルな遠隔社員教育にも適用可能です。さらに、比較的通信帯域の変動が多い不安定なモバイル環境からでも、社内のアプリケーションを従来よりもスムーズに遠隔操作可能となるため、タブレット端末を用いて顧客先で対話的な商品説明が可能になるなど、シンクライアントの新しい用途を拡大できるようになります。

今後

本技術は、次世代ものづくり環境のエンジニアリングクラウド™(2011年6月発表)として、2012年度中より順次製品化を目指します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
注2 事業継続計画(BCP: Business continuity planning):
企業が被災しても重要事業を中断させず、中断しても可能な限り短期間で再開させる経営戦略。
注3 GPU(Graphics Processing Unit):
グラフィックス描画をする際に必要な計算処理を実行する半導体チップ。
注4 RDP(Remote Desktop Protocol):
Microsoft社が開発したリモートデスクトップ用プロトコル。
注5 TCP(Transmission Control Protocol):
インターネット・プロトコルの一つ。
注6 CAE(Computer Aided Engineering):
コンピュータ技術を活用して製品の設計、製造や工程設計の事前検討の支援を行うツールやその環境。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
ヒューマンセントリックコンピューティング研究所 スマートコミュニケーション研究部
電話 044-754-2667(直通)
メール rvec-2012@ml.labs.fujitsu.com


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