2025年3月6日
富士通株式会社

複数データを統合することで、少量データでも高精度に因果関係を導出するAI技術を開発

青森県弘前市の住民の20年にわたる健診結果のビッグデータを利用し、健康経営を支援


当社はこのほど、国立大学法人京都大学注1(以下、京都大学)、国立大学法人弘前大学注2(以下、弘前大学)が開発した、青森県弘前市岩木地区の住民の20年にわたる約3,000項目もの健診結果のビッグデータを統合管理する弘前健診因果ネットワーク注3を、当社がAIサービス「Fujitsu Kozuchi」のコア技術として開発した因果意思決定支援技術(以下、本技術)と組み合わせることで、限られたデータでも健康医療領域の因果関係を導出することを可能にしました。当社は、因果意思決定支援技術を弘前健診因果ネットワークと組み合わせて試すことができるトライアル環境を、2025年3月6日より健康関連の法人向けに提供開始します。

弘前健診因果ネットワークは、弘前大学COI-NEXTが岩木健康増進プロジェクト健診で取得した超多項目健康ビッグデータに対して、弘前大学を含む京都大学の研究グループが独自のベイジアンネットワーク技術注4を適用して項目間の因果関係をネットワークとして推定したものであり、信頼性の高い因果グラフです。また、当社が開発した因果意思決定支援技術の新たな機能である因果知識転用技術は、既存の因果関係の知識を転用することができます。これらを組み合わせることで、例えば健康医療の分野において、信頼性の高いデータを十分集めることができない場合でも、弘前健診因果ネットワークの知識を転用して因果関係を導出することが可能になりました。

当社は今後も、お客様の健康経営を支援することで、当社のマテリアリティの一つである人々のウェルビーイングの向上に貢献する価値をお客様や社会に提供していきます。

背景

データに基づく意思決定が経営、医療、スポーツ、製造業などの分野で浸透する一方で、データが十分集められないケースも多くあります。例えば、近年、健康経営への関心が高まる中、従業員の健康状態を把握し、効果的な施策を講じるためのデータ分析が重要となっていますが、従業員数の少ない企業では、十分なデータ量を確保することが難しく、健康課題の特定や対策の立案に課題を抱えています。

当社は、国内外の大学の中に研究拠点を設け、当社の研究員が大学内に常駐または長期的に滞在しながら産学連携の活動を行う「富士通スモールリサーチラボ」の取り組みを推進しており、京都大学と当社の共同研究講座「大規模医学AI講座(富士通リサーチラボ)」では、健康医療の分野の課題を解決する新たなAI技術の研究開発を行ってきました。

因果意思決定支援技術の概要

本技術は、複数のデータセットを用いて推定された因果関係に基づき、最適な施策を提案し意思決定を支援する技術です。このたび新たな機能として開発した因果知識転用技術は、まず、既存のデータによって得られた因果関係の知識を因果ナレッジグラフ注5に変換します。そして、因果ナレッジグラフから転用可能な因果構造をデータ分布に従い細粒度で同定することにより、項目や抽象度が異なる場合でも知識を転用可能になりました。これにより、データが不足している場合でも、既存のデータから導いた因果関係の知識を転用することで、信頼性の高い因果関係の導出が可能になりました。

本技術と、既存の様々な地域や年齢層の健診データから得られた、信頼性の高い因果グラフである弘前健診因果ネットワークを組み合わせることで、十分なデータがない場合でも、健康医療分野の因果関係を推測することが可能になります。

例えば、睡眠とライフスタイルに関するオープンデータである「Sleep Health and Lifestyle Dataset」注6における因果関係を推定する際に、弘前健診因果ネットワークを用いた因果知識転用を活用したところ、弘前健診因果ネットワークを活用しなかった場合と比較して、より妥当性の高い因果関係を導き出すことができました。例えば、弘前健診因果ネットワークを活用しない場合には年齢や性別が不眠症の原因であるという不自然な因果グラフが導かれてしまいますが、弘前健診因果ネットワークを活用することでこのような不自然な関係は取り除かれ、睡眠時間や睡眠の質が不眠症に直接影響しているという妥当な結果を導くことができました。

今後について

当社は、トライアル環境の提供を通じて得られた知見を活かして、今後も継続的に本技術の精度向上と機能拡充を進め、健康医療分野におけるAI技術の更なる発展とより多くの企業の健康経営に貢献していきます。また、因果意思決定支援技術は様々な領域で活用できる汎用的な技術です。例えば、財務および非財務情報にも適用し、幅広い企業の意思決定支援に貢献していきます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

注釈

  • 注1
    国立大学法人京都大学:
    所在地 京都府京都市、総長 湊 長博
  • 注2
    国立大学法人弘前大学:
    所在地 青森県弘前市、大学長 福田 眞作
  • 注3
    弘前健診因果ネットワーク:
    弘前大学COI-NEXTが岩木健康増進プロジェクト健診で取得した超多項目健康ビッグデータに対して、京都大学の研究グループが独自のベイジアンネットワーク技術を適用して構築した、信頼性の高い因果ネットワーク https://coi.hirosaki-u.ac.jp/social/
  • 注4
    ベイジアンネットワーク技術:
    スーパーコンピュータによる並列計算を活用し、複雑で非線形な超多項目間の因果関係をネットワークとして分析・予測する技術
  • 注5
    因果ナレッジグラフ:
    データに含まれる因果関係とそれに関連した知識が統合されて格納されており、これを用いることでデータに基づいた効率的な意思決定が実現可能となる富士通独自技術。
  • 注6

関連リンク

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