PRESS RELEASE

2023年5月18日
富士通株式会社

ペプチド創薬の研究プロセスを管理するプラットフォーム「Biodrug Design Accelerator」を提供開始

プロセスの可視化とデータの一元管理により創薬開発の加速と効率化に貢献

当社は、サステナブルな世界の実現を目指す「Fujitsu Uvance」のもと、あらゆる人のライフエクスペリエンスを最大化する「Healthy Living」の取り組みを進めており、次世代の創薬モダリティ注1として注目されている中分子創薬領域において、ペプチド注2創薬の研究プロセスを管理するプラットフォーム「Biodrug Design Accelerator(バイオドラッグデザインアクセラレーター)」を開発し、2023年5月18日より製薬企業向けに日本国内で提供を開始します。2023年度第3四半期よりグローバルにも順次展開予定です。

本プラットフォームは、ペプチド医薬品の候補として抽出された数千種類の化合物を、数十種類にまで絞り込む過程において、研究プロセスの可視化やデータの一元管理、研究者間のコラボレーションを可能にすることで、DMTAサイクル注3を加速し、候補化合物選定の飛躍的な効率化を実現します。

今後、本プラットフォームは、ペプチドだけでなく核酸医薬品注4や抗体医薬品注5などのモダリティの拡大、および当社の創薬研究開発支援の知見を活かし、AIやコンピューティング技術を活用したシミュレーション機能の追加を予定しており、これまで見つけ出せなかった医薬品候補化合物発見の可能性を高めます。

なお、本プラットフォームの開発にあたっては、ペプチドリーム株式会社注6(以下、ペプチドリーム)様より創薬の研究開発での実践および機能や操作性の評価などの協力を得ています。

背景

当社は、創薬における研究開発・臨床開発・品質管理など上市注7までをトータルで支援する製薬企業のキーパートナーとなることを目指し、研究開発領域においては低分子医薬品向けに化合物デザインを支援するプラットフォームなどを提供しています。

ペプチドを含む中分子医薬品は、分子量が低分子医薬品と抗体医薬品(高分子医薬品)の中間に位置し、比較的低コストで開発および製造できる上、薬効が高く副作用のリスクが少ないという両者のメリットを併せ持つ安全で有効な新薬として期待が高まっています。しかし、長年研究されてきた低分子創薬と比較し、複数のアミノ酸が結合したペプチドの膨大で複雑なシミュレーション結果と手作業での実験結果を管理するツールや環境の整備が進んでいませんでした。そのため、プロジェクト進捗の可視化やデータと紐づけた管理、研究者間での情報共有が進んでいないことが課題となっていました。

これらの課題を解決するため、当社は研究プロセスの可視化やデータ連携を可能にし、創薬プロジェクト全体を管理し推進する統合型創薬プラットフォーム「Biodrug Design Accelerator」を提供開始します。

「Biodrug Design Accelerator」の特長

1. 研究の工程ごとに様々なデータと紐づけて一元管理が可能

研究の工程ごとに進捗を可視化し、候補となるペプチドやアッセイデータ注8、リード化合物など様々なデータを一元的に管理し、各工程と紐づけることで、DMTAサイクルを視覚的にわかりやすく確認でき、開発の効率化につながります。本プラットフォームは、5から50個程度のアミノ酸が結合した複雑なペプチドを表現するためのHELM注9に準拠しており、シミュレーション結果や実際の実験結果などをHELMと紐付けて管理することができます。

統合型創薬プラットフォーム「Biodrug Design Accelerator」活用イメージ 統合型創薬プラットフォーム「Biodrug Design Accelerator」活用イメージ

2. 簡単な操作でシミュレーションと連携したペプチド化合物の設計が可能

ペプチド化合物を構成するアミノ酸の配列を一覧から選択し、化合物の配列追加や変更などをマウス操作で簡単に行うことができ、実験から導いた活性値や物性値注10、化学構造など複数のシミュレーションを確認しながら設計することができます。そこで設計されたヒット化合物を、合成する実験につなげていき、その結果をフィードバックするサイクルを回していきます。

統合型創薬プラットフォーム「Biodrug Design Accelerator」画面イメージ 統合型創薬プラットフォーム「Biodrug Design Accelerator」画面イメージ

3. チャット機能により、複数のメンバーによる議論や知識共有を促進

チャット機能を使用して、データを示しながら複数の研究者での共有や、議論、情報交換などがリアルタイムで行えます。情報の連携、ノウハウの継承を記録として残すことができます。

今後の展開

本プラットフォームを2023年度第3四半期よりグローバルに展開するとともに、ペプチド医薬品だけでなく、核酸医薬品や抗体医薬品などモダリティの拡大を目指します。量子現象に着想を得たコンピューティング技術「デジタルアニーラ」、AI、HPCを組み合わせて活用できるクラウドサービス群「Fujitsu Computing as a Service」との連携によるデータ解析やシミュレーション機能も本プラットフォーム上に実装し、製薬企業の業務効率の向上と革新的な医薬品の早期市場投入へ貢献していきます。

当社は、Virtual Pharmaというコンセプトを掲げ、製薬企業の持つ研究機能の一部を担い、革新的な新薬創出に貢献することを目指します。

ペプチドリーム株式会社 取締役副社長 舛屋圭一様のコメント

富士通が開発してきたプラットフォームが幅広く利用可能になることを喜ばしく思います。本開発においては、実際の創薬プロジェクトを推進する当社研究者からのフィードバックを多く取り込み、創薬現場において真に有用なツールになっていると確信しています。多くの製薬企業で本プラットフォームが導入され、ペプチド創薬の可能性が拡大することを願っています。

今後はAIやHPCなど先端IT技術による解析を組み合わせ、革新的な新薬創出へさらなる貢献がなされることを期待します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

注釈

  • 注1
    創薬モダリティ:
    低分子薬、抗体医薬、核酸医薬、細胞治療、遺伝子細胞治療、遺伝子治療といった治療手段の種別のこと。
  • 注2
    ペプチド:
    2個以上のアミノ酸分子が化学結合によって鎖状あるいは環状につながった化合物。
  • 注3
    DMTAサイクル:
    医薬品候補化合物を最適化するプロセス。化合物の設計(Design)、合成(Make)、評価(Test)、 分析(Analyze)から成るサイクル。
  • 注4
    核酸医薬品:
    遺伝情報をつかさどる核酸を用いた医薬品。
  • 注5
    抗体医薬品:
    病気の原因となっている物質に対する抗体を人工的に作成した医薬品。
  • 注6
    ペプチドリーム株式会社:
    本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 リード・パトリック。
  • 注7
    上市:
    承認された医薬品等が市販されること。
  • 注8
    アッセイデータ:
    候補ペプチドなどの検体の量や機能的な活性、反応などを定性的、定量的に測定した結果のデータ。
  • 注9
    HELM:
    Hierarchical Editing Language for Macromoleculesの略で、ペプチドや核酸などの創薬モダリティを表現するための表記方法。
  • 注10
    活性値や物性値:
    活性値は創薬標的に対して作用する性質を示す値、物性値は溶解性や膜透過性などの化合物の物理化学的性質を示す値。

関連リンク

当社のSDGsへの貢献について

2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)は、世界全体が2030年までに達成すべき共通の目標です。当社のパーパス(存在意義)である「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」は、SDGsへの貢献を約束するものです。

本件が貢献を目指す主なSDGs

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