PRESS RELEASE

2023年2月21日
富士通株式会社
Atmonia ehf.

HPCとAIを活用した量子化学シミュレーション高速化技術を開発し、クリーンなアンモニア合成に向けた触媒候補探索期間の大幅な削減に成功

富士通株式会社(注1、以下 富士通)とアンモニアの合成手法を開発するアイスランドのベンチャー企業Atmonia ehf.(注2、アトモニア、以下 Atmonia社)は、CO2排出量の削減につながるアンモニアをクリーンに合成するための触媒探索の共同研究において、量子化学シミュレーション高速化技術を開発し、本技術と富士通のAIである因果発見技術を組み合わせることで、常温常圧で水と空気と電気からアンモニアを効率良く合成する触媒材料候補を探索する期間を従来の半分以下に削減することに成功しました。

両社は、富士通のHPCでAtmonia社のアンモニア合成シミュレーションデータを基に様々な量子化学シミュレーションを行い、そこから得られた触媒材料を組成する原子配置の構造、化学元素の種類や比率などの膨大な教師データをAIに学習させ、触媒候補を短期間で絞り込むシミュレーションモデルを開発しました。さらに、富士通の因果発見技術により、探索した1万ケース以上のアンモニアの合成触媒候補データにおける触媒原子の種類や位置関係および反応エネルギー量などの項目間の因果関係から触媒に適した材料の性質の傾向を導き出し、触媒候補データの絞り込みに活用することができました。

今後両社は、今回開発した技術により、具体的なアンモニア合成触媒候補の選定とそれらの有効性検証を行い、発電や水素エネルギーの原料となるアンモニアのクリーンな合成手法を確立し、ゼロエミッションの実現に向けた新材料探索の効率化と普及に貢献していきます。

本取り組みは、2月22日(水曜日)に米国シリコンバレーで開催する「Fujitsu ActivateNow: Technology Summit」に出展します。

背景と課題

富士通とAtmonia社は、燃焼してもCO2を排出しない次世代クリーンエネルギーとして注目を集めるアンモニアについて、合成の過程でCO2を排出せず、常温常圧で水と空気と電気から安定的に合成可能な触媒材料を効率的に発見する新たな合成手法の確立を目的に、2022年4月よりアンモニア合成触媒の探索効率化技術を共同で研究しています。

しかし、アンモニアの効率的かつ安定的な合成に必要な触媒材料の発見は、様々な原子配置の構造、化学元素の種類やその比率などの膨大な組成の組み合わせがあり、これまでの量子化学シミュレーションでは十分な探索が行えないことが課題となっていました。

今回開発・適用した技術と成果

1. HPCとAIシミュレーションモデルを組み合わせた量子化学シミュレーション高速化技術

両社は、HPCによる量子化学シミュレーションを高速化するシミュレーションデータ生成と、そのデータをAIに学習させて未知のデータを予測するAIシミュレーションモデルを組み合わせることで、触媒探索の効率を大幅に高める技術を開発しました。

HPCにより得られた量子化学シミュレーションデータの入力と出力の関係を教師データとして、対象の材料探索に特化した学習を効率良く行うことで新たなAIシミュレーションモデルを構築し、本モデルに求めたい触媒の構造データなどを入力することで、従来の量子化学シミュレーションと比較して100倍以上高速に新たな触媒材料候補を予測できます。

2. 量子化学シミュレーション高速化技術と因果発見技術の連携によるアンモニア合成に適した化合物の性質推定

今回開発したHPCとAIにより高速化された量子化学シミュレーションで1万ケース以上のアンモニア合成触媒候補のシミュレーションデータを生成し、富士通独自のAIである因果発見技術を適用することで、それらのデータにおける触媒原子の種類や位置関係および反応エネルギー量などの項目間の因果関係から、触媒候補の合金のベースとなる金属は族番号が小さいものが適しているなど、触媒として適した材料の性質の傾向を発見することにも成功し、その傾向を用いて効率的に材料候補の絞り込みの方向性を決定することができました。

これにより、従来専門家が多くの時間と労力を要していた触媒材料候補の探索範囲の絞り込みを因果発見技術により自動で行うことができ、触媒候補の探索期間を半分以下に削減することに成功しました。

図. 開発・適用した技術の概要 図. 開発・適用した技術の概要

今後について

両社は、今回開発した技術により、具体的なアンモニア合成触媒候補の選定と有効性を実験で検証し、触媒物質を早期に発見してクリーンなアンモニア合成を実現することで、カーボンニュートラルへの貢献を目指します。

また、富士通は、トロント大学と共同研究で開発した、量子インスパイアード技術「Fujitsu Computing as a Service Digital Annealer」を活用した触媒に適した材料の元素配置の最適な組み合わせを発見する技術により、材料探索のさらなる効率化に取り組みます。さらに、材料開発を行う企業の効率化を支援するため、サステナブルな世界の実現を目指す「Fujitsu Uvance」のもと、コネクテッドな社会を実現するデジタルインフラ「Hybrid IT」領域の高度なコンピューティング技術とソフトウェア技術を誰もが容易に利用できるサービス群「Fujitsu Computing as a Service(CaaS)」に今回開発した量子化学シミュレーション高速化技術を搭載し、提供していくことを目指します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

注釈

  • 注1
    富士通株式会社:
    本社 東京都港区、代表取締役社長 時田 隆仁。
  • 注2
    Atmonia ehf.:
    本社 アイスランド レイキャビク、CEO グズビョルグ リスト。アンモニア生成を効率よく行うための触媒開発を、コンピュータシミュレーションを用いて行うベンチャー企業。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

富士通株式会社
研究本部 コンピューティング研究所
E-mail:fj-labs-inov-mi@dl.jp.fujitsu.com
Atmonia ehf.



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