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PRESS RELEASE (技術)

2019年3月1日
株式会社富士通研究所
富士通株式会社

船舶自動航行の監視に活用可能な高感度赤外線カメラの小型化技術の開発に成功

昼夜を問わず全周囲を6海里先まで監視でき、AI技術と組み合わせることで自動識別が可能に

株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、夜間および遠方を高精細に撮影する高感度赤外線カメラを8分の1に小型化する受光部のセンサーを開発しました。

現在、人手で監視を行う船舶の航行において、昼夜問わずに6海里(約11km)先を高精細に撮影可能な高感度赤外線カメラの活用が期待されています。しかし、熱雑音に弱い受光部のセンサーを冷却する装置が大きくなり、実用的なサイズにカメラを小型化する必要がありました。

今回、熱雑音の影響を軽減するセンサーの半導体構造を開発したことで、従来よりセンサーの動作温度を50℃以上高めることができます。その結果、強力にセンサーを冷やす必要がなくなり、冷却装置を小型にできるため、手のひらサイズの高感度赤外線カメラを製造することが可能になりました。また、富士通株式会社(注2)(以下、富士通)にて、高感度赤外線カメラで撮影した映像と、画像処理のAI技術を組み合わせたところ、6海里先を航行する船舶を自動識別することに成功しました。

これにより、小型化した高感度赤外線カメラを船舶の全周囲に設置することで、遠方の船舶を誤検知することなく識別でき、船舶の安全航行や自動航行の実現を促進することができます。

開発の背景

国際貿易の活発化に伴う海上輸送量の増加や船舶自動航行化への期待の高まりを受けて、安全航行のための技術確保が求められています。

航行中は、周囲の船舶やブイなどの障害物を正確に把握し、事故を回避することが重要です。そのためには、およそ6海里(約11km)の把握が必要とされており、昼夜を問わずに6海里先までの海上を高精細に撮影可能な高感度なカメラの活用が期待されています。

課題

夜間・遠方を含めて高精細に撮影できるカメラとして、普及型赤外線カメラの約2倍の距離を撮影可能な高感度赤外線カメラが注目されています。しかし、高感度赤外線カメラは、赤外線を吸収する受光部のセンサーが熱雑音に弱いため、動作温度を95 K(-178℃)と非常に低い温度に保つ必要があります。このため、受光部を強力に冷却する装置を搭載する必要からカメラ全体が大きくなり、全周囲監視のために多数のカメラ配備が求められる船上などでの利用には適していませんでした。

カメラ全体を小型化するためには、受光部センサーの動作温度を高温化して冷却器の負荷を低減することが大きな課題でした。

図1 高感度赤外線カメラと受光部センサー
図1 高感度赤外線カメラと受光部センサー
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開発した技術

今回、従来の高感度赤外線カメラの感度を下げることなく、受光部センサーの動作温度を高温化するための半導体構造を開発しました。

高感度赤外線カメラは、受光部のセンサーで赤外線を吸収して電気信号へと直接変換しますが、その際に赤外線のエネルギー吸収だけでなく、熱エネルギーによっても余剰な電子が発生し、不要な電気信号(熱雑音)になります。熱雑音は、センサー周辺部である側壁を覆う保護膜との界面で発生する成分と、センサー内部で発生する成分に分けられます。

開発技術では、低温形成した保護膜で界面の欠陥を減らし、さらに保護膜に含まれる電荷量を制御して界面から不要な電荷を遠ざけることで、欠陥や電荷集中に起因したセンサー周辺部の熱雑音発生を抑制しました。

また、ヒ化インジウム(InAs)層とアンチモン化ガリウム(GaSb)層の半導体薄膜を交互に積層した電子収集層の熱雑音耐性を強化し、さらに熱雑音発生源となる電気的接合領域(注3)の位置を、従来の電子収集層と吸収層の2層の界面から、強化した電子収集層内に移動させることで、センサー内部における熱雑音量を低減しました。

このセンサー周辺部とセンサー内部における開発技術により、受光部センサーの実用的な動作温度を従来より50℃以上高い145 K(-128℃)まで緩和することに成功し、冷却部を含むカメラ全体のサイズを約8分の1に小型化することが可能になりました。

図2 開発前後の受光部センサーの模式図
図2 開発前後の受光部センサーの模式図
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効果

小型化した高感度赤外線カメラの多数配備により、航行を阻害する6海里先の船舶や小型障害物を昼夜を問わず死角ゼロで正確に捉えることができるようになります。また、今回、高感度赤外線カメラで撮影した映像と、富士通のAI技術(深層学習アルゴリズム)を組み合わせ、遠方の船舶を検知する実験を行ったところ、誤検知や見落としが極めて少なく、高い識別性能(2~3海里先においては識別率がほぼ100%)を確認しました。

これにより、小型化した高感度赤外線カメラの高精細な映像から自動で周囲を監視するシステムを実現し、海難事故の回避や自動航行への活用が期待できます。

図3 海上監視を自動化する船舶自動識別のイメージ
図3 海上監視を自動化する船舶自動識別のイメージ
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今後

富士通研究所と富士通は、高感度赤外線カメラと組み合わせた監視システムを、船舶周辺の監視などの実証実験からその有効性を確認したのち、2020年のサービス実用化を目指します。また、自動航行への応用を検討し、安全・安心な船舶の航行の実現を目指します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 古田英範。
注2 富士通株式会社:
本社 東京都港区、代表取締役社長 田中達也。
注3 電気的接合領域:
p型半導体の領域とn型半導体の領域が接している部分のこと。接合部には電子や正孔の不足する空乏層が発生し、この部分から半導体中に存在する結晶欠陥を介して熱雑音が発生しやすくなる。なおp型およびn型の半導体は、本件ではいずれも超格子によって形成されている。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
デバイス&マテリアル研究所
電話 046-250-8255(直通)
メール ir-press@ml.labs.fujitsu.com


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