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PRESS RELEASE (技術)

2017年12月7日
富士通株式会社
株式会社富士通研究所

世界初、単結晶ダイヤモンドと炭化シリコンを常温で接合する技術を開発

効率的に冷却し、GaN-HEMT送信用パワーアンプの高出力化によりレーダーの観測範囲を約1.5倍に拡大

富士通株式会社(以下、富士通)と株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、炭化シリコン(SiC)(注2)基板に単結晶ダイヤモンドを常温で接合する技術を世界で初めて開発しました。本技術を高出力窒化ガリウム(GaN)(注3)高電子移動度トランジスタ(HEMT)(注4)の放熱に活用することで、高出力での安定動作を可能にします。

レーダーや無線通信の長距離化・高出力化に伴い、デバイスの発熱量が増大し性能や信頼性に影響を及ぼすため、デバイスの熱を効率的に冷却装置に伝え冷却する必要があります。単結晶ダイヤモンドは高い熱伝導率を持つことが知られているものの、従来技術では、製造プロセスで不純物除去に利用されるアルゴン(Ar)ビームにより表面に低密度なダメージ層が形成されるため接合強度が弱く、また、シリコン窒化膜(SiN)などの絶縁膜によって接合する場合はSiNの熱抵抗が熱伝導のボトルネックになっていました。

今回、ダイヤモンドの表面を非常に薄い金属膜で保護することによって、ダメージ層の形成を抑制し、SiC基板に単結晶ダイヤモンドを常温で接合すること(常温接合)(注5)に成功しました。実測した熱パラメーターを用いたシミュレーションにより、本技術を用いたデバイスの熱抵抗が従来の61%に低減することを確認しました。

本技術により、さらに高出力なGaN-HEMT送信用パワーアンプを実現し、気象レーダーなどのシステムへ応用した場合、レーダーの観測範囲を約1.5倍に拡大することが可能となります。

なお、本研究の一部は、防衛装備庁が実施する安全保障技術研究推進制度の支援を受けて実施されました。

本技術の詳細は、12月6日(水曜日)から9日(土曜日)まで米国のサンディエゴで開催されている半導体界面に関する国際会議「48th IEEE Semiconductor Interface Specialists Conference (SISC2017)」にて発表します。

開発の背景

近年、高周波GaN-HEMTパワーアンプはレーダーや無線通信などの長距離電波用途に広く利用されています。例えば、局所的な集中豪雨を観測する気象レーダーや、今後は第5世代移動通信方式(5G)向けミリ波帯無線通信にも利用されると予想されています。このようなレーダーや無線通信で用いられるマイクロ波からミリ波帯の電波到達距離は、送信用の高周波GaN-HEMTパワーアンプを高出力化することにより、観測範囲の拡大や長距離・大容量化が可能になります。このため、GaN-HEMTパワーアンプのさらなる高出力化が期待されています。

図1 GaN-HEMTパワーアンプの従来構造
図1 GaN-HEMTパワーアンプの従来構造

課題

GaN-HEMTパワーアンプでは、投入された電力の一部は熱に代わります(図1)。発生した熱はSiC基板に拡散され、冷却装置(ヒートシンク)から放出されます。SiC基板は比較的高い熱伝導率を持つ材料ですが、さらなる高出力化に伴い増大するデバイスの熱を効率的に冷却装置に伝えるには、より熱伝導率の高い材料が必要でした。

単結晶ダイヤモンドはSiC基板に比べ5倍近くと極めて高い熱伝導率を持っており、熱を効率良く広げる材料として知られています。この単結晶ダイヤモンドをデバイスの冷却材料として接合するため、これまでの製造プロセスでは不純物除去に利用されるArビームによりダイヤモンド表面に低密度なダメージ層が形成されるため接合強度が弱く、また、SiNなどの絶縁膜を用いて接合する場合はSiNの熱抵抗が熱伝導の妨げになっていました。

開発した技術

今回、GaN-HEMTパワーアンプを高効率に冷却する単結晶ダイヤモンドとSiC基板という熱膨張係数の異なる硬い材料同士を常温で接合する技術の開発に世界で初めて成功しました(図2)。

Arビームによるダイヤモンド表面のダメージ層の形成を防止するために、Arビーム照射前にダイヤモンド表面を非常に薄い金属膜で保護する技術を開発しました。常温で接合可能となる表面の平坦さを保持するために、金属膜の厚さを10ナノメートル以下にしています。本技術により、Arビーム照射後もダイヤモンド表面にダメージ層が形成されないことを確認でき(図3)、接合強度が改善し、単結晶ダイヤモンドとGaN-HEMTのSiC基板を常温で接合することに成功しました(図4)。

図2 GaN-HEMTパワーアンプのダイヤモンド接合構造
図2 GaN-HEMTパワーアンプのダイヤモンド接合構造
拡大イメージ

図3 Arビーム照射後のダイヤモンド断面
図3 Arビーム照射後のダイヤモンド断面

図4 本技術により接合したGaN-HEMTのSiC基板とダイヤモンド
図4 本技術により接合したGaN-HEMTの
SiC基板とダイヤモンド

効果

今回常温接合したサンプルにおいて、熱の伝わりにくさを表す熱抵抗値で評価した結果、6.7 x 10-8平方メートルケルビン毎ワット(m2K/W)と非常に低いSiC-ダイヤモンド界面熱抵抗が得られました。この実測した熱パラメーターを用いたシミュレーションにより、本技術を用いた200W級のデバイスの熱抵抗が従来の61%と大幅に低減(注6)することを確認しました(図5)。本技術を適用することにより、さらに高出力なGaN-HEMT送信用パワーアンプの実現を可能にします。このGaN-HEMT送信用パワーアンプを気象レーダーなどのシステムへ応用した場合、レーダーの観測範囲を従来の約1.5倍に拡大できる見込みです。これによりゲリラ豪雨に発展する積乱雲を早期に発見するなど、防災面で安心・安全な社会を実現できます。

図5 200W級GaN-HEMTパワーアンプの熱シミュレーション比較
図5 200W級GaN-HEMTパワーアンプの熱シミュレーション比較

今後

本技術を適用したGaN-HEMTパワーアンプの熱抵抗や出力性能の評価を行い、2020年度に、気象レーダーなどのシステムや5G無線通信システムなどへの適用に向けた、高出力な高周波GaN-HEMTパワーアンプの実用化を目指します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐々木繁。
注2 炭化シリコン(SiC):
420 ワット毎メートル毎ケルビン(W/mK)程度の比較的高い熱伝導率を持つ材料で、GaN-HEMT結晶を成長する基板に用いられる。
注3 窒化ガリウム(GaN):
ワイドバンドギャップ半導体で、シリコン(Si)やガリウムひ素(GaAs)など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長がある。
注4 高電子移動度トランジスタ:
バンドギャップの異なる半導体の接合部にある電子が、通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通株式会社が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されている。
注5 常温接合:
真空中で異種材料の表面をアルゴンビームなどで清浄化し、室温で接合する技術。表面活性化接合ともいう。熱膨張係数の異なる材料などを接合できる。
注6 従来の61%と大幅に低減:
200W級デバイスで表面温度80℃低減相当。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
デバイス&マテリアル研究所
電話 046-250-8242(直通)
メール next-press@ml.labs.fujitsu.com


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