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PRESS RELEASE

2017年8月30日
株式会社富士通研究所
国立大学法人九州大学
富士通株式会社

最適な保育所入所選考を実現するAIを用いたマッチング技術を開発

さいたま市における約8,000人のきめ細かな保育所割り当てをわずか数秒で算出

株式会社富士通研究所(注1、以下 富士通研究所)、国立大学法人九州大学マス・フォア・インダストリ研究所富士通ソーシャル数理共同研究部門(注2)と富士通株式会社(注3、以下 富士通)は、人手によって数日かけて実施されてきた複雑な保育所入所選考において、最適な入所割り当てをわずか数秒で自動的に算出するAIを用いたマッチング技術を開発しました。

保育所入所の選考業務では、自治体ごとに決めている申請者の優先順位や、きょうだいの同一保育所入所希望などの複雑な条件をもとに申請者の希望ができる限りかなう最適な割り当てを行いますが、申請者全員が不満を持たない割り当てとして自動化することは困難でした。そのため、これまで各自治体では、人手による試行錯誤により、全申請者の希望を調整していますが、自治体によってはきょうだい同一入所の希望を可能な限り調整することにより選考に数週間かかり、入所申請者への結果通知に時間を要したり、申請者の希望が通らずにきょうだいが別々の保育所に入所することになるなどが問題となっています。

今回開発した技術では、「きょうだいが同じ保育所になることを優先してほしい」「別々の保育所でも良いが、きょうだいの片方しか入れないのなら辞退する」といった複雑な希望条件の依存関係を、ゲーム理論と呼ばれる、利害が一致しない人々の関係を合理的に解決する数理手法によりモデル化(注4)することで、優先順位に沿って全員が可能な限り高い希望をかなえられる割り当て方を見つけることが可能となりました。本技術を、埼玉県さいたま市の申請者約8,000人の匿名化データを用いて検証したところ、わずか数秒で最適な選考結果を算出することに成功しました。

富士通では本技術を、自治体向け保育業務支援システム「MICJET MISALIO(ミックジェット ミサリオ) 子ども・子育て支援」のオプションサービスとして、2017年度中に提供すると共に、富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」の1つとして様々なマッチング問題への適用を目指します。

背景

昨今では少子化が進み、「子ども子育て支援法」の施行など少子化対策が行われている一方で、地域によっては待機児童問題など保育をとりまく状況には依然として課題が残っています。中でも、保育所入所業務は公平性を保つために複雑になっており、各家庭の様々な事情を考慮しながら、限られた入所枠に割り当てる入所選考業務は、困難であり多くの人手と時間を要しています。自治体によっては、検討を重ねた結果であってもきょうだいが別々の保育所に入る調整結果が発生してしまうことも多くみられます。政府の重点施策である「働く女性の支援」の観点からもこうした入所選考業務を「迅速に」「きめ細かに」「正確に」行うことが、社会的にも急務になっています。

課題

「きょうだいが同じ保育所になることを優先してほしい」や「別々の保育所でも良いが、きょうだいの片方しか入れないのなら辞退する」といった複雑な希望を入所選考ルールに組み込むと、すべてのルールを満たす割り当てパターンが複数見つかる場合や、どの割り当てパターンも何らかのルールに違反してしまう場合があり、それらの中からすべての申請者の希望を最大限満たす割り当てを自動的に選び出すことは困難でした。

そのため各自治体では、申請者の割り当てを、人間の試行錯誤により行っています。例えば、さいたま市では、きめ細かい入所選考を行うべく、きょうだい入所への配慮はもちろんのこと、さいたま市独自の「きょうだい入所時の入所タイミング・入所施設・年齢・希望順位」を考慮した入所選考を行ってきましたが、7,959人の児童に対し、こうした複雑な条件を考慮して311施設に割り当てるために、20名から30名の職員が非常に多くの日数をかけて慎重に選考を行っているのが現状です。

開発した技術

今回、人間の試行錯誤により判断している複雑なルールについて、複数の申請者が各自の希望の達成を望む関係をモデル化することにより、優先順位に沿って全員が可能な限り高い希望をかなえられる割り当て方を自動で判断できるマッチング技術を開発しました。本技術のモデル化に用いられているゲーム理論は、社会における利害が必ずしも一致しない人々の関係を合理的に解決する数理手法で、主に、経済学の分野で研究が進んでいます。この理論を保育所入所選考のマッチング問題に応用することで、すべてのルールを満たす割り当てパターンが複数存在する場合や、1つも存在しない場合にも、優先順位のより高い人の希望が優先されるような唯一の割り当てパターンを見つけ出すことに成功しました。

例として、定員2名の2つの保育所(A、B)に、2組のきょうだい(合計4人)を割り当てることを考えます。保育所の定員を考慮すると、入所割り当てパターンは6通りあります(図1)。ここで、各子どもは保育所Bよりも保育所Aへの入所を希望していますが、きょうだいが別々の保育所に入るよりは二人同時に保育所Bに入ることを希望しているとします。このとき、子どもの優先順位を守りながら、この希望を最大限満たすことが入所判定のルールとなります。

図1 ルールを用いた入所判定(割り当て3が最適解)
図1 ルールを用いた入所判定(割り当て3が最適解)

例えば、子ども②にとっては、優先順位の高い子ども①によって自身の希望がかなわない場合は諦めるしかありませんが、優先順位の低い子ども③により希望がかなわない場合はルール違反となります。このように、優先順位と希望を同時に考えて、ルールの違反がないかをチェックする必要があります。また、きょうだいの優先順位が離れているケースでは、ルールを満たす割り当てが複数得られる場合があります。ルールを満たす割り当て3、4のうち、優先順位の最も高い子ども①の希望がかなえられる割り当て3が最適であると考えます。

図1は簡単な例ですが、保育所や子どもの数が増えるとこの表が巨大になります。例えば、8,000人の子供がそれぞれ第5希望まで希望を出すと、5の8,000乗通りの組み合わせが出てきます。計算機を使っても、それらのすべてを一つずつ調べつくす処理を現実的な時間で終わらせることが困難になります。また、調べる順番を工夫することでルールを満たす割り当てを発見できたとしても、その割り当てよりも良い割り当てがないことを保証するのはさらに困難です。

今回、ゲーム理論のモデルを用いることで、入所割り当て先に応じた利得(好ましさ)を点数化し、その点数に基づいて最適な割り当てパターンを見つける技術を開発しました。これにより、優先順位の高い人の点数ができるかぎり高くなる唯一の割り当てパターンを高速に算出することを可能としました。

効果

さいたま市の申請者約8,000人の匿名化データを用いて、本技術の検証を行いました。その結果、さいたま市の独自ルールによる複雑かつきめ細かい割り当てについて、20名から30名の職員が非常に多くの日数をかけて行っていたところを、数秒で算出することができました。本技術が実用化した場合、自治体職員の選考業務負荷が大幅に改善されるだけではなく、入所申請者への決定通知を早期に発信することが可能となり、住民サービスの向上も期待できます。さらに、業務負荷の増加や見落としの心配にとらわれることなく、よりきめ細かいルールで運用できるようになり、入所申請者の満足度向上が期待できます。

さいたま市様のコメント

<実証結果について>

さいたま市の保育施設利用調整(入所選考)については、選考の優先度やきょうだい同時申込時の希望パターンなど複数の複雑な要素が介在する中で、実証結果では、与えられた条件下における本技術の精度は人手による選考と同等であり完璧に近いと考えられることから、結果には大いに納得しており、また信用できる結果であるといえます。

<今後期待される効果>

AIの活用による最大の効果は、時間短縮にあると考えます。現在さいたま市の4月保育所利用申込みに係る1次選考作業には非常に多くの日数と人数を要しておりますが、AIにより数秒で選考結果を導き出すことができれば、職員の劇的な負担軽減が実現できます。また、結果を早期に確定させることにより、申込者への結果通知を現在より早められ、職場復帰計画がスムーズに進むことに繋がります。

あわせて、世帯の状況や保護者の希望などについて、様々な条件をモデル化しAIに移植することにより、現在よりさらに詳細な保護者の希望を入所選考に反映させることが可能となり、待機児童問題の解消など市民の満足度向上に寄与することが期待されます。本技術の本格的な導入を、心待ちにしております。

今後の展開

本技術を、富士通の提供する自治体向け保育業務支援システム「MICJET MISALIO 子ども・子育て支援」のオプションサービスとして、2017年度中にサービス化予定です。

さらに、本技術を、富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」の1つとして、保育所入所選考業務のみならず、組織内の均質な人材配置を行うマッチング、作業員のスケジュールマッチングなど、様々なマッチングへの適用を目指します。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐々木 繁。
注2 国立大学法人九州大学マス・フォア・インダストリ研究所富士通ソーシャル数理共同研究部門:
国立大学法人九州大学:所在地 福岡県福岡市、総長 久保千春。
マス・フォア・インダストリ研究所:所在地 福岡県福岡市、所長 福本康秀。アジアで初めての産業技術に関 わる数学研究の拠点で、産業のための数学理論研究を行う研究部門に加え、理論のソフトウェアとしての実装・公開を行う「数学理論先進ソフトウェア開発室」を設置。
富士通ソーシャル数理共同研究部門:2014 年9 月に、国立大学法人九州大学、富士通、富士通研究所の三者でマス・フォア・インダストリ研究所内に設置した社会課題の解決に向けた数理技術の研究開発部門。
注3 富士通株式会社:
本社 東京都港区、代表取締役社長 田中 達也。
注4 数理手法によりモデル化:
本モデルの構築では、国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) 戦略的創造研究推進事業さきがけ「都市・社会システム最適化のための離散的数学理論の深化」(グラントナンバー JPMJPR14E1)の一部助成を受けている。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

富士通株式会社
公共・地域営業グループ 行政ビジネス推進統括部
行政第三ビジネス推進部
電話 03-6252-2513

株式会社富士通研究所
人工知能研究所
電話 044-754-2674(直通)
メール fsmjru@ml.labs.fujitsu.com

国立大学法人九州大学
マス・フォア・インダストリ研究所
電話 092-802-4402
メール jimu@math.kyushu-u.ac.jp


本件に関するお問い合わせの一部を訂正しました。(2018年4月24日)

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