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PRESS RELEASE

2015年9月10日
国立大学法人九州大学
福岡空港ビルディング株式会社
株式会社富士通研究所

九州大学と福岡空港ビルディング、富士通研究所が旅客満足度向上にむけた実証実験を開始

人の集まる場の課題を九州大学の富士通ソーシャル数理共同研究部門の数理技術で解決

国立大学法人九州大学(注1)(以下、九州大学) マス・フォア・インダストリ研究所(注2)富士通ソーシャル数理共同研究部門(注3)と福岡空港ビルディング株式会社(注4)(以下、福岡空港ビルディング)、株式会社富士通研究所(注5)は、福岡空港にて9月より混雑に伴う旅客の快適性や安全性の低下といった人間の心理に関わる課題に数理技術を適用し、旅客満足度の向上を目指す実証実験を開始しました。

ここ数年、福岡空港は訪日外国人の急増を背景に旅客数が増加し、特に国際線ターミナルは一段と活況を呈していますが、その反面、施設が狭隘化し旅客の待ち時間が増えているため、旅客に不快や不安を感じさせないための新たな施策設計が急務となっています。しかし、旅客の満足感には施設や機器だけでなく、空港スタッフや旅客の複雑な人間的要素が関わっているため、効果的な施策を立案するには現場での経験を基にした試行錯誤が必要でした。こうした状況を改善するため、シミュレーションなどの数理技術の利用が期待されていますが、数理研究者と現場の意思決定者の間では解決すべき課題や数理技術を使用する意義について認識の共有が難しく、人間が関わる多くの社会課題において数理技術を適用することは困難でした。

今回、九州大学富士通ソーシャル数理共同研究部門の研究者が福岡空港ビルディングのスタッフとともに現場課題発見の取組を実施し、お互いの認識を揃えながら福岡空港の課題解決を目指します。最初の取組として、喫緊の課題となっている国際線の手続施設における混雑シミュレーションを実施し、現場の詳細なデータを取得し、施策効果の実証を行っていきます。

この取組の詳細は、9月10日より九州工業大学戸畑キャンパスで開催の「日本オぺレーションズ・リサーチ学会 2015年秋季研究発表会」にて九州大学から発表します。

背景

円安や東南アジア諸国へのビザ発給要件の緩和、LCCの新規就航などによる訪日外国人旅客の増加を背景に、福岡空港の旅客数はここ数年増加しており、空港内の手続施設やショップでの混雑が発生しています。この混雑によって旅客の満足度が低下する可能性があり、旅客の行動やスタッフのオペレーションを考慮した新たな施策の検討が急務となっています。

図1 福岡空港 旅客数の推移(出典:国土交通省「空港管理状況調書」)
図1 福岡空港 旅客数の推移(出典:国土交通省「空港管理状況調書」)

課題

旅客満足度に関わる課題には、旅客やスタッフなどの人間の心理が関わっているため、施策の効果を検討することは非常に難しく、現場の経験を基にした試行錯誤が必要でした。こうした状況を改善するため、数理技術の利用が期待されていますが、数理研究者と現場の意思決定者との間には課題や技術に対する認識に差があり、高度な技術を開発してもなかなか現場に受入れられないという新たな課題があります。数理研究者が現場に貢献するためには、現場の関係者と協働し、互いに認識を共有しながら技術開発することが必要です。

実証実験の概要

  1. 目的

    九州大学の富士通ソーシャル数理共同研究部門と福岡空港ビルディングが共同で福岡空港においてフィールドワークを実施し、解決すべき人間の心理が関わる快適性や安全性に関わる課題を明らかにします。また、その課題を解決するための施策を立案するための数理技術を開発し、その技術の効果を現場の実データを用いて検証します。

  2. 期間と場所

    期間:2015年9月~2017年8月(予定)

    場所:福岡空港国内線および国際線ターミナルビル

  3. 実証概要
    • 理想の姿と課題の構造分析

      社会科学的手法を用いて、数理研究者が福岡空港ビルディングのスタッフとの対話を実施し、福岡空港の理想の姿と課題の構造を分析します。事前にトライアルで実施した対話では、「快適性」「安全・安心」「売上」「活気」に関わる理想像が抽出され、それぞれに対して、理想の姿の実現を妨げる要因が明らかになりました。

      図2 快適性の欠如に関わる問題構造
      図2 快適性の欠如に関わる問題構造

    • テーマと施策の設定

      最初の取組では、国際線ターミナルのチェックインなどの出発手続における混雑緩和をテーマとしました。通常、国際線においては、旅客は受託手荷物検査、チェックイン、保安検査、出国審査の4つの手続を経て航空機に搭乗しますが、最初の受託手荷物検査において待たされることは旅客にとって大きな不安となります。また、4つの手続で繰り返し待たされると旅客満足度は大きく低下します。こういった旅客の心理を踏まえて効果的な施策案を考える必要があります。現状の施策案では、各手続におけるカウンターやレーン数の変更、受託手荷物検査を自動化するインライン・スクリーニング・システムの導入などが想定されます。

      図3 国際線ターミナルの搭乗手続きエリア
      図3 国際線ターミナルの搭乗手続きエリア

    • 開発技術:数理モデルの構築

      混雑緩和のテーマでは、4つの手続のフローを待ち行列システムとして数理モデルを構築します。モデルの入力データとしては主として「旅客」と「手続」に関わる2種類があり、「旅客」に関するデータは、空港到着時間や利用する航空会社、座席クラスなど、「手続」に関するデータは、レーンやカウンターの数、一人当たりのサービス時間などが挙げられます。これらのデータを入力して本モデルによるシミュレーションを実施すると、旅客の各手続での待ち時間や、各手続における待ち時間、そして、旅客満足度の指標が出力されます。

      また、数理モデルの研究開発では、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「都市・社会システム最適化のための離散的数学理論の深化」の一部助成を受けています。

    • 施策効果の検証

      インプットデータを現場で取得し、カウンターやレーン数の変更、インライン・スクリーニング・システムの導入などの効果を数理的に分析します。その結果に基づいて、実施する施策を決定します。施策実施時には、施策の効果確認に加えて数理モデルの良し悪しを検討するためのデータ取得を行い、そのデータを用いて数理モデルの改善へと役立てます。

期待される効果

数理モデルを用いることで、施策効果の数値から定量的に理解できるようになるため、航空会社や警備会社を含めた多数の現場関係者間で納得のいく施策の議論ができるようになります。また、本取組によって、数理研究者が現場に根付く数理技術を作るための方法論に関する示唆を得ることができます。

今後の展開

下記のテーマについて、九州大学富士通ソーシャル数理共同研究部門と富士通研究所は人の心理と行動に基づく数理技術の開発と検証を実施し、福岡空港ビルディングは旅客満足度向上にむけた施策の立案と検証を行います。

  • 受託手荷物検査やチェックインなどの手続における混雑緩和施策
  • 空港内の多様な状況変化に対応可能な警備施策

以上

注釈

注1 国立大学法人 九州大学:
所在地 福岡市西区元岡744番地、総長 久保千春。
注2 マス・フォア・インダストリ研究所:
所在地 福岡市西区元岡744番地、所長 福本康秀。アジアで初めての産業技術に関わる数学研究の拠点で、産業のための数学理論研究を行う研究部門に加え、理論のソフトウェアとしての実装・公開を行う「数学理論先進ソフトウェア開発室」を設置。
注3 富士通ソーシャル数理共同研究部門:
2014 年9 月に、九州大学、富士通株式会社、株式会社富士通研究所の三者でマス・フォア・インダストリ研究所内に設置した社会課題の解決に向けた数理技術の研究開発部門。
注4 福岡空港ビルディング株式会社:
所在地 福岡市博多区大字下臼井782番地1、代表取締役社長 麻生 渡。
注5 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐相秀幸。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

国立大学法人九州大学
マス・フォア・インダストリ研究所
電話 092-802-4402
メール jimu@math.kyushu-u.ac.jp

株式会社富士通研究所
知識情報処理研究所
電話 044-754-2652(直通)
メール fsmjru@ml.labs.fujitsu.com


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