PRESS RELEASE (技術)
2015年5月15日
株式会社富士通研究所
高信頼な費用対効果算出によりシステムの運用自動化を実現する技術を開発
開発工数の見積り精度を向上し、計画的な導入が可能に
株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、人手で行っている運用作業を自動化する際の開発工数を見積り、その費用対効果を短時間で算出可能な技術を業界で初めて開発しました。
運用自動化では、個々の操作を自動化するためのツール(操作部品)を開発し、その制御のためのワークフローを作成します。従来、運用手順書の操作に関する記述から自動化ツールの開発工数を見積っていましたが、複数の記述で1つのツールを表す場合や、共通手順を含む場合に、開発するツールの数やワークフローの長さを適切に算出することが難しく、開発工数の見積り精度が低下するという課題がありました。
今回、約1,300パターンの操作記述からなる種別判定ルールによりツールの数を推定し、内容に応じた開発工数の見込み値を適用することで、ツールの開発工数を高精度に見積る技術を開発しました。また、サブルーチン化できる部分を自動で抽出し、ワークフローの長さを推定することで開発工数を見積る技術も併せて開発しました。これらにより、自動化候補となる運用作業が1,000以上あるシステム運用において、従来人手で1か月以上要していた開発工数の概算見積りが5日程度で完了します。
本技術で得られた開発工数と、自動化で不要となる運用作業工数から費用対効果を簡単に算出でき、費用対効果の大きい運用作業から順に自動化するなど、全体を俯瞰した効果的な導入計画を素早く立案することが可能になります。
本技術の詳細は、5月15日(金曜日)にカナダ・オタワで開催されるITサービス運用管理に関する国際会議「Workshop on Advanced IT Service Management (BDIM 2015)」にて発表予定です。
開発の背景
各拠点のサーバ集約や災対のための拠点間の二重化、プライベートクラウド上での運用など、業務システムの実行形態は多様化しています。例えば、クラウド上で運用する場合、クラウド特有の資源管理や構築といった運用作業も発生しますが、運用管理業務の全般においてコスト削減が要求される傾向にあると言われています。従来の人手による運用操作を自動実行させると、運用コスト削減と操作ミス低減が両立でき、運用品質が向上するため、富士通研究所では2014年に、運用作業における操作手順が記述された運用手順書を分析して、運用作業の候補から自動化する作業を提示する技術(注2)を開発しています。
課題
運用自動化の導入を検討する際、費用対効果に基づいた計画的な導入判断には、自動化開発工数の事前見積りが必要です。自動化開発工数は、個々の操作を自動化するためのツールの開発工数と、その制御のためのワークフロー作成工数の合計で表されます。
開発工数を運用手順書の操作記述から自動で見積ると、GUI操作のようなパラメーター指定やオプション選択といった複数の記述の対象が1つのツールである場合に、開発するツール数の推定が難しく、部品開発工数の見積り値の誤差を拡大する要因となります。また、運用手順書にワークフローのサブルーチン化を考慮すべき共通手順を含む場合、すべての共通手順を単純にサブルーチン化してしまうと、サブルーチンの呼び出し部分が増え、全体の作成量がかえって増加する可能性があります。こうしたことから、作成するワークフローの長さをうまく推定できず、作成工数の見積り精度が低下するという課題がありました。
開発した技術
今回、ツール開発とワークフロー作成の工数を高精度に見積る技術を開発しました。
開発した技術の特長は以下のとおりです。
(1) ツール開発工数の見積り
運用手順書の操作記述から、同じ種別の操作記述のかたまりを1つのツールにまとめることで、GUI操作のような複数の記述の対象が1つのツールである場合でも開発するツールの数を的確に算出します。このとき、ツールの内容に応じ、これまでの自動化開発実績に基づいた開発工数の見込み値を適用して、開発工数を高精度に見積ります(図1)。
操作記述の種別を判定する際、同じ種別の操作記述は同一もしくは関連する目的語を持つという特徴を反映して作成した種別判定ルールと照合します。種別判定ルールは、これまでに蓄積された50プロジェクトの運用手順書から、約300種類の種別、約1,300パターンの操作記述を抽出して作成しています。これにより、操作記述の種別は全操作の約9割をカバーすることが可能で、ルールに照合しなかった操作記述も、前後で照合済みの操作記述と合わせることで1つのツールとしてまとめて処理できます。
図1 ツール開発工数の見積り
(2) ワークフロー作成工数の見積り
運用手順書に共通の手順が含まれる場合、手順の長さや共通している運用手順書の数から、サブルーチン化による作成量の削減分とサブルーチン化で追加となる呼び出し部の作成分を算出します。それぞれを作成工数に換算して比較し、合計の作成工数がより小さくなるようにサブルーチン化する共通手順を決定します。サブルーチン化する部分に基づいて作成するワークフローの長さを推定し、ワークフロー作成工数を見積ります(図2)。
図2 ワークフロー作成工数の見積り
効果
自動化候補の作業が1,000以上あるような大規模システムの運用に対して社内評価したところ、人手ではサンプリングによる見積りでも1か月以上要していた自動化開発工数の概算見積りが5日程度で行えるようになりました。また、本技術による見積り値と実際にかかった開発工数とを比較した結果、平均誤差率はコマンド操作が主体となる運用作業においては7.0%、GUI操作が主体となる運用作業においては、従来技術で65.7%のところ、19.3%となりました。
ツール開発工数とワークフロー開発工数の合計で求められる自動化開発工数と、従来人手で実施していて自動化によって不要となる運用作業工数から投資回収期間を算出すると、投資回収期間が短いほど費用対効果が高くなります(図3)。本技術により、投資回収期間が短い順に運用自動化を導入するといった計画的な導入判断が可能になります。
図3 自動化における費用対効果
今後
富士通研究所は、特にGUI操作が主体となる運用作業に関してさらに工数見積り精度を向上させ、本技術の2015年度中の実用化を目指します。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐相 秀幸。
- 注2 運用作業の候補から自動化する作業を提示する技術:
- クラウドシステムの適切な運用手順を自動提示する支援技術を開発(2014年3月12日 プレスリリース)
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ソフトウェア研究所
044-754-2575(直通)
om-pj-press@ml.labs.fujitsu.com
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