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PRESS RELEASE (技術)

2015年2月10日
株式会社富士通研究所

異なる日時に撮影されたCT画像間の腫瘍を高精度に位置合わせする技術を開発

医師の画像診断業務を効率化

株式会社富士通研究所(注1)は、異なる日時に撮影された同じ患者のCT画像に対して、高精度に腫瘍の位置合わせをする技術を開発しました。

CT画像では一般的に呼吸や心拍の影響で腫瘍の位置が変動します。従来、腫瘍の周辺にある血管などを手掛かりに位置を合わせる方法がありましたが、腫瘍の周辺に血管が少ない場合は位置合わせの精度が低下するという課題がありました。

今回、腫瘍の周辺だけでなく、より広範囲にある血管も手掛かりにすることで、腫瘍の周辺に血管が少ない場合でも高精度に位置合わせをする技術を開発しました。これにより実用化の目安となる誤差2.5ミリメートル未満(注2)で位置合わせ可能な割合が、従来の約3割から約8割へ向上することを確認しました。本技術を適用することで、画像診断業務の位置合わせに掛かる時間を低減でき、医師の負荷軽減に貢献できます。

本技術の詳細は、2月19日(木曜日)から東北大学(宮城県仙台市)で開催される「電子情報通信学会 パターン認識・メディア理解研究会(PRMU)」にて発表いたします。

開発の背景

医師は、がん検診や病気の経過観察において腫瘍の変化を観察するため、異なる日時に撮影された同じ患者のCT画像を比較しています。詳しく観察するために拡大表示したい腫瘍の位置を手動で指定し、比較対象の画像上でも対応する腫瘍を拡大表示します。この際、呼吸・心拍の影響によって前回の撮影時から腫瘍の位置ずれが発生するため、医師は複数枚の断面画像から該当する断面を見つけ、その断面上においても腫瘍の位置を手動で合わせるといった煩雑な作業が必要になります(図1)。

図1 画像比較による腫瘍の経時変化の観察
図1 画像比較による腫瘍の経時変化の観察
拡大イメージ

課題

従来、異なる日時に撮影された同じ患者のCT画像に対して、一方の画像上で医師が指定した腫瘍に対して、周辺にある血管や臓器の境界など、比較的特徴のある部位の点(以下、特徴点)を自動的に複数求め、もう一方の画像上でも同様にして求めた特徴点との対応関係を手掛かりにして、腫瘍の位置を自動で合わせる技術がありました(図2)。しかし、腫瘍の周辺に特徴点が少ない場合に位置合わせの精度が低下するといった課題がありました。特徴点の抽出範囲を広げる場合、場所によって呼吸などに起因する変形の際の特徴点のずれ方が異なるため、離れた場所にある特徴点のズレから腫瘍位置を推定することが難しいという新たな課題が発生します。

図2 自動位置合わせの基本的な考え方
図2 自動位置合わせの基本的な考え方

開発した技術

今回、腫瘍の周辺に血管などの特徴点が少ない場合に、広範囲の特徴点を手掛かりにして、腫瘍の位置を自動で高精度に合わせる技術を開発しました(図3)。

本技術では、腫瘍周辺に特徴点が少ない場合に対応するため、従来に比べ広い範囲から特徴点を探します。しかし、腫瘍から遠く離れた特徴点におけるズレが、腫瘍位置におけるズレと必ずしも一致するとは限りません。そこで、腫瘍位置におけるズレと一致する傾向がなるべく高くなるように、腫瘍からの距離に応じて重みづけをして腫瘍位置のズレを算出します。腫瘍の位置合わせの手順は以下のとおりです。

  1. 腫瘍位置を中心に広範囲にわたって特徴点を抽出
  2. 2枚の画像の特徴点を対応させ、特徴点におけるズレを算出
  3. 腫瘍位置を中心に扇形に領域を分割し、全方位にわたって腫瘍位置に最も近いズレを探索
  4. 腫瘍位置と特徴点との距離で、近いほど重みが増すように重みづけを設定
  5. 重みづけを加味して腫瘍位置のズレの方向と距離を算出
  6. 算出した腫瘍位置のズレの方向と距離を打ち消す向きに画像を移動

腫瘍から近い位置の特徴点は、体の連続性から動きが類似し、ズレも類似する傾向にあるため、腫瘍に近い特徴点のズレを重視し、これを腫瘍位置のズレの計算に反映しています。

また、特徴点を対応させる際に比較する特徴点数が増えることで処理量が増えますが、比較に用いる画像特徴量(周辺画素情報)を簡素化することで処理を高速化しています。これにより、複数枚の断面にわたる位置合わせを高速に行えます。

図3 開発技術による腫瘍位置の位置合わせ
図3 開発技術による腫瘍位置の位置合わせ

効果

肺疾患症例の実験では、実用化の目安となる誤差2.5ミリメートル(mm)未満で位置合わせ可能な割合が、従来の33%から83%へ向上することを確認しました。1件当たり数百枚の断面画像の中から、腫瘍が存在する可能性が高い約20枚の断面画像を対象に腫瘍の位置を合わせる場合、約1.5秒で処理可能です。これにより、画像診断業務の位置合わせに掛かる時間を低減でき、医師の負荷軽減に貢献できます。

今後

富士通研究所は、様々な画像による実証実験を重ね、2015年度中に富士通製品への搭載を目指します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 佐相秀幸、本社 神奈川県川崎市。
注2 誤差2.5ミリメートル未満:
日本CT検診学会が定める「低線量CT による肺がん検診の肺結節の判定基準と経過観察の考え方第3 版」(2012年2月改訂)にて、精密検査対象となる最小の腫瘍サイズは直径5mmであるため、その半分の2.5mmを許容可能な誤差の上限値に設定。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
メディア処理システム研究所 イメージコンピューティング研究部
電話 044-754-2577(直通)
メール multimedia@ml.labs.fujitsu.com


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