PRESS RELEASE (技術)
2014年10月29日
株式会社富士通研究所
世界初!デジタル制御電源向けの高効率・高信頼な開発プロセスを実現
開発期間の従来比約3分の1以下への短縮化と、コーディングにおける人為ミス混入の完全排除を実現
株式会社富士通研究所(注1)は、サーバなどICT機器用のデジタル制御電源向けに開発プロセスを効率化・高信頼化する開発環境構築を世界で初めて実現しました。
電源の高性能化・機能高度化に伴う制御の複雑さに対応するため、ソフトウェアによる電源制御が有望視されていますが、設計時のシミュレーションと実機動作とのギャップや、コーディング量の増大と、それに伴う人為ミスによるバグ混入のためデバッグ・試験工数が増大し、開発の効率化が課題となっていました。
今回、電源制御に必要な最大150キロヘルツ(kHz)超の速い動作の制御信号を、150ピコ秒の高い分解能でモデルどおりに生成できる高速高分解能IOボードを開発しました。さらに、組み込みコード自動生成技術と組み合わせる事でコーディング作業を不要にし、電源実機に対するソフト制御動作の妥当性検証とマイコンへの実装を実現する開発環境を構築しました。これにより、開発工数を従来手法の約3分の1にできる見込みです。
今後、本技術を適用し開発工数を削減することで、高性能ICT機器向けだけでなく、自動車の高度な電源制御など多様な電源のニーズにもタイムリーに応えることが可能になります。
開発の背景
ICT機器の高機能化や自動車の電装化が進んでおり、それらの機器へ安定したエネルギーを供給するための電源は重要なインフラです。
近年、電源に対しては、高いエネルギー変換効率や、サーバなどICT機器との密な連携といった機能高度化が要請されるようになってきたため、電源にマイコンを搭載しソフトウェアで制御するデジタル制御電源による対応が始まっています(図1)。しかし、機能の高度化に伴いシステムが複雑になり、設計時シミュレーションと実機動作のギャップの形で現れる多くの問題の所在が、制御対象の回路にあるのか、制御ロジックにあるのか、あるいはコーディング時の人為ミスにあるのか、の切り分けが困難になり、開発工数が増加し続けています。
今後、ICT機器をはじめとする多様な電源への高度なニーズにタイムリーに応えてゆくためには、電源開発プロセスを抜本的に効率化・高信頼化するための技術開発が不可欠です。
図1 デジタル制御電源
課題
電源などの組み込み制御システムの開発プロセスを効率化・高信頼化するための手法の1つとして、制御ロジックの仕様を実行可能な要素モデルの組み合わせで表現し、計算機上の設計・シミュレーションから実機テストまで段階的に検証を行いながら開発を進めるモデルベース開発手法が有望視されています。デジタル制御電源の開発に、モデルベース開発手法を導入するためには、制御モデルを計算機上で動作させて実電源回路を動作させるプロセスを実現する必要があります(図2)。
モデルベース開発手法は、自動車分野や航空宇宙分野などにおける組み込み制御システムの開発現場で有効性が実証され、普及が進みつつあります。サーバなどICT機器の電源に要求される制御周波数は、自動車分野や航空宇宙分野の制御システムが約10kHz以下であるのに対して、100kHz~150kHz程度と短いため10倍以上の速さで制御信号を処理する必要があります。
このため、電源開発用のモデルベース開発環境の構築は困難でした。
図2 従来の開発手法とモデルベース開発
開発した技術
今回、高速な計算機上で制御モデルを動かし、電源制御信号を発生させ、実電源での回路動作を可能とする、高速・高分解能なIOボードと、組み込みコード自動生成によるICT機器用デジタル制御電源開発向けのモデルベース開発環境を実現しました(図3)。これによりシミュレーションで検証された制御モデルの電源実機に対する妥当性の検証までの過程でコーディング作業が不要となり、さらに、妥当性の検証された制御モデルをマイコン上で高速に実行するコードを自動生成できるようになりました。
開発した技術の特長は以下のとおりです。
- 高速高分解能IOボード
自動車分野向けに構築されたモデル制御動作環境を電源向けに適用するため、不足する能力を補い電源の制御信号を生成する高速高分解能IOボードを独自開発しました。
電源の出力を安定させるには、現在出力している電圧値を取得し、その値から次の制御量を決定し、なおかつ一定周期で制御することが必要です。毎回一定周期内に電圧値取得から制御信号出力までを完了させるため、制御量の計算処理と制御信号の出力をオーバーラップさせる処理方式を新たに開発し、電源制御信号を最大150kHz超の速さ(制御周期)と150ピコ秒の細かさ(時間分解能)で生成する機能を世界で初めて実現しました。
- 組み込みコード自動生成
自動コード生成されたコードの実行時間はモデル制御における動作確認後の実電源回路の制御マイコン上でも一定周期時間内で処理を完了する必要があります。
制御モデルは要素モデルの組み合わせで構成されていますが、処理時間が長い要素モデルをマイコン制御に適したコードを出力する独自要素モデルに置き換え、処理時間を短縮しています。
図3 ICT機器用デジタル制御電源の開発環境
効果
高速高分解能IOボードによって制御対象を実電源回路とし、コントローラーの方は仮想的な制御モデルをもとに高性能計算機に生成させた制御信号を加えるテストを行うことで、問題発生時に回路モデルと実電源回路のギャップだけに切り分けることができます。さらに、問題解決後はチューニングにより、制御ロジックの性能追求が可能となります。また、組み込みコード自動生成により、IOボードにより実電源回路に対し性能が確認できた制御ロジックをもとに、組み込みコードを作成する際の人為ミス混入を完全排除できます。今回の開発技術を製品開発に適用することで、高性能、高機能な電源を、信頼性を維持しながら従来手法の約3分の1の短期間で開発が可能となり、タイムリーな電源ニーズに応えることができます。
今後
今後は、2015年度中を目標に本技術の実用化を進め、社内製品の開発へ適用していきます。また、高性能ICT機器向けだけでなく、無線基地局や自動車の高度な電源制御など多様な電源のニーズにもタイムリーに応えられるように、検討を進めていきます。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ICTシステム研究所 サーバテクノロジ研究部
044-754-2931(直通)
mbd-staff@ml.labs.fujitsu.com
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