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PRESS RELEASE (技術)

2014年9月16日
株式会社富士通研究所

特性の異なる通信網に適用可能なWAN高速化技術を開発

従来の2倍の高速化を実現し、ユーザの体感速度を向上

株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、モバイル網と国際網といったデータ欠落や遅延などの特性が異なる通信網を含む広域網(WAN)に適用可能な高速化技術を開発し、こうしたWANにおいて従来の2倍の速度向上を実現しました。

従来のWAN高速化技術は、WANの両端に一対の高速化装置を設置することが多く、WAN内に特性の異なる通信網が含まれることが考慮されていませんでした。このため、WANによっては最大の性能が引き出せない場合がありました。

本技術は、WANの中に高速化装置を分散配置し、各装置間のネットワーク特性に応じて、コントローラーが最も適した通信プロトコル、およびその適用区間を自動選択し、WANの中にある端末・アプリケーションサーバ間の高速化効果を最大化します。今回、開発した技術をソフトウェアに実装して国立情報学研究所(注2)(以下、NII)と評価検証を行い、モバイル端末を利用して国内から海外のクラウドサービスを利用した場合に、従来のWAN高速化技術に比べ約2倍の通信性能を確認しました。

本技術により、リアルタイム性への対応や高画質化などで、今後ますます増加が見込まれる通信トラフィックに対して、効率的にネットワーク帯域を利用できる通信インフラが構築可能となります。特に、本技術をNFV(注3)に適用することで、ファイアーウォール、ロードバランサーなどの様々な通信機能と連携したきめ細かい通信サービスが提供可能になります。

本技術の詳細は、9月17日にクロアチアで開催する国際学会「SoftCOM2014」にて発表します。

開発の背景

今日、通信アプリケーションの多くは、TCP(Transport Control Protocol)と呼ばれる通信プロトコルを標準的に用いています。ところが、WANを介した、例えば海外拠点とのTCP通信などは、データ欠落(パケットロス)や大きな往復遅延時間(Round Trip Time; RTT)などが原因で性能が出にくいという問題がありました。そのため、WAN高速化装置と呼ばれる機器をWANの両端に配置し、TCPプロトコルを高速プロトコルに置き換えることで性能低下を改善する手法が用いられてきました。

従来の装置では、遅延環境用の高速プロトコル1、データ欠落用の高速プロトコル2、および近距離用の高速プロトコル3を用意し、ネットワークやアプリケーションの特性に合わせて最も性能の高い通信プロトコルを自動で選択しています(図1)。

図1 従来のWAN高速化技術
図1 従来のWAN高速化技術

課題

近年、クラウド技術の普及とともに、LTEなどの高速無線通信が普及し、様々な場所からモバイルデバイスを用いてクラウドサービスを利用する形態が増加しています。WAN高速化装置は、モバイル網や都市内・都市間網、さらには国際網といった特性の異なるネットワークから構成されるWANに適用されることが増えてきました(図2)。

図2 従来の構成
図2 従来の構成

単純に従来のWAN高速化装置を各ネットワークの境界に分散配置し、各装置間でその特性に合った高速プロトコルを選択した場合を考えると、大規模ファイル転送を行うアプリケーションではスループットが向上する一方で、比較的小さなデータをやり取りする仮想デスクトップなどの対話型通信アプリケーションでは、一回にやり取りするデータの転送時間が極端に短いため、各装置における中継遅延によりデータ転送時間が逆に長くなってしまうという問題が発生します。

開発した技術

今回、WANの中に多数のWAN高速化装置を分散配置し、通信アプリケーションの特性や各装置間のネットワーク特性に応じ、最適な高速プロトコル、およびそれを適用する区間を自動で変更する技術を開発しました。

以下の手順で、分散したWAN高速化装置を制御します(図3)。

  1. 特性の異なるネットワークごとに高速プロトコルを選択できるように、WAN高速化装置をネットワークの境界上に分散配置。
  2. 各WAN高速化装置では、プロトコルを変換するのに要する中継遅延時間、各装置間のネットワーク特性、および、通信先のアプリケーションを示すポート番号や中継するデータのモニタリングにより推定した、通信アプリケーションが転送するデータサイズをコントローラーに送付。
  3. コントローラーは、装置間のネットワーク特性から推定される各高速プロトコルの通信性能を算出する。中継遅延時間、および算出した通信性能から、推定データサイズを転送するのに要する時間が最小となるような最適な論理区間と、その区間に適用する高速プロトコルを決定。

これにより、例えば図3の(A)大規模ファイル転送では各装置における中継遅延はファイルを転送する時間に比べ無視できる程度なので各装置間のスループットを上げるように区間数を多くします。一方、(B)対話型通信では各装置における中継遅延の和が小さくなるように、一部のWAN高速化装置を無効にして区間数を減らします。

図3 分散型WAN高速化技術
図3 分散型WAN高速化技術

効果

今回開発した技術をソフトウェアに実装し、学術情報ネットワークであるSINET4(注4)や無線LANサービスであるeduroam(注5)を利用しNIIと評価検証を行いました(図4)。日本-北米間の通信において、通信アプリケーションや各装置間の通信環境の品質に応じ、最適な高速プロトコル、およびそれを適用する区間が動的に決定することが確認できました。これにより、ファイル転送においては複数の区間分けになるよう選択し約2倍の高速化を、対話型通信でデータ欠落がない場合は従来技術と同じ区間分けが選択され性能劣化しないデータ転送を実現しました。対話型通信でデータ欠落が多い場合は複数の区間分けになるよう選択し、クライアント端末になるべく近いWAN高速化装置から再送できるようにすることにより従来技術より短い時間でのデータ転送を実現しました(図5)。

本技術を導入することにより、例えば、日本と海外の拠点との間で同じ3D CAD画像を見ながら共同で開発するといった作業のさらなる効率化が期待できます。

図4 SINET4を利用した評価検証
図4 SINET4を利用した評価検証

図5 高速化の効果
図5 高速化の効果

今後

富士通研究所では、開発した分散型のWAN高速化技術の2015年度中の実用化を目指します。また、通信機器の機能を仮想化する技術であるNFV(Network Functions Virtualization)に本技術を適用することにより、ファイアーウォール、キャッシュ、ロードバランサーといった様々な通信機能と連携しよりきめ細かい通信サービスが提供可能になります。そのため、NFV上での実現方式の検討を進めていきます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 佐相 秀幸、本社 神奈川県川崎市。
注2 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所:
所長 喜連川 優。
注3 NFV:
ネットワーク機器の機能を汎用サーバ上のソフトとして実現し、クラウドなどでネットワーク機器を代替する枠組み。
注4 SINET4:
NIIが運用している学術情報ネットワーク。802以上の大学、研究機関などが利用。
注5 eduroam:
NIIが提供している無線LANサービス。大学などのキャンパス無線LANの相互利用を実現。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
ネットワークシステム研究所 ネットワーク方式研究部
電話 044-754-2637(直通)
メール dwa@ml.labs.fujitsu.com


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