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PRESS RELEASE (研究開発)

2014年4月14日
富士通株式会社

東北大学 災害科学国際研究所と共同で、
波源からの伝播過程を反映した三次元津波シミュレーター開発に成功

津波被害予測を高精度化し、災害に強い街づくりへ貢献

当社は、2012年に開始した、国立大学法人 東北大学(所在地:宮城県仙台市、総長:里見 進、以下、東北大学)との共同研究で、津波が市街地や河川を遡上する様子を精緻に再現できる、三次元津波シミュレーターを開発しました。この共同研究は、東北大学 災害科学国際研究所所長 今村文彦教授(以下、東北大学 今村教授)の開発による、波源から沿岸部までの広域の津波の到達時刻や波高の計算に広く活用されている二次元シミュレーション技術と、当社の三次元流体シミュレーション技術の融合に成功し、沿岸の地形や市街地の建造物によって津波が複雑に変化しながら市街地や河川を遡上する様子を、より正確に再現することが可能となりました。

当社は、今後、巨大地震に伴う津波による複合災害予測への応用に向け、文部科学省が推進しているHPCI戦略プログラム(注1)の課題テーマの一つ「津波の予測精度の高度化に関する研究」の中で本シミュレーターを活用し、津波被害予測を高精度化することで、災害に強い街づくりに貢献することを目指します。

開発の背景

2011年3月11日に発生した東日本大震災による津波は東北地方を中心に甚大な被害をもたらしました。この厳しい経験を踏まえ、将来の巨大地震・津波による被害を最小限にとどめる対策を効果的に実施するために、大規模シミュレーション技術を被災メカニズムの解明や高精度な被害予測に活用することが、強く求められています。

そこで当社は、日本における津波研究の第一人者である東北大学 今村教授と、高精度な三次元津波シミュレーターの共同研究を、2012年2月に開始しました。

共同研究の課題

東北大学の今村教授が開発した津波伝播の二次元シミュレーション技術は、沿岸部への津波の到達時刻や波高の計算に広く活用されていますが、市街地への浸水や河川遡上を精緻に再現するには、津波の威力や遡上速度に影響を与える建物や堤防の形状などの三次元的な情報の取り扱いに課題がありました。

一方、当社の三次元流体シミュレーション技術は、流体を多数の粒(粒子)の集まりとして表現する粒子法(注2)の採用により、砕波(注3)や越流などの三次元挙動の再現が可能であるという特徴がありますが、計算量が多いため、波源から沿岸部までの広域のシミュレーションは難しいという課題がありました。

共同研究の内容

当社と東北大学は、津波伝播の二次元シミュレーション技術で再現した波高・流速などの情報を、三次元流体シミュレーション技術に取り込み、ふたつの技術を融合することで、三次元津波シミュレーターを開発しました。

効果

比較的計算量の少ない二次元シミュレーション技術で波源から沿岸部に至る広域での津波を再現し(図1(a))、沿岸部や市街地などの砕波や越流などの現象が生じる領域内でのみ三次元流体シミュレーション技術を使い、三次元での津波の動きを、実用化可能な時間内で、再現することが可能となりました。

図1(b)は、三次元津波シミュレーターで再現したものであり、二次元シミュレーション技術だけ、あるいは三次元流体シミュレーション技術だけでは再現できなかった、沿岸部の様子を再現しています。白丸で囲んだ部分では、沖からまっすぐに流入する津波と、回り込んで流入する津波が重なり合うとともに、浅瀬の地形の影響を受けて複雑な流れを形成する様子が見られます。

図1:(a)波源から沿岸部までの広域における津波の波高・流速を再現。(b)沿岸部に流入する津波の三次元的な挙動を再現。
図1:(a) 波源から沿岸部までの広域における津波の波高・流速を再現。
(b) 沿岸部に流入する津波の三次元的な挙動を再現。

津波伝播の二次元シミュレーション技術と三次元流体シミュレーション技術を融合していない場合の三次元津波シミュレーション
(再生時間: 2秒 / 音声なし)

津波伝播の二次元シミュレーション技術と三次元流体シミュレーション技術を融合した場合の三次元津波シミュレーション
(再生時間: 2秒 / 音声なし)

三次元津波シミュレーターにより、地震に伴って発生した津波の複雑な流れや沿岸部での砕波や越流などの挙動を再現できます。これにより、防波堤を越えて激しく打ち上がり、落下する津波の衝撃力による被害などを、より正確に見積もれるようになると期待されます。

また、計算量の少ない津波伝播の二次元シミュレーション技術を利用して広域の波高・流速などを再現するため、計算量の多い三次元流体シミュレーション技術のみのシミュレーションよりも、再現に要する時間を短縮できます。

例えば、波源から市街地までの津波のシミュレーションを三次元流体シミュレーション技術だけで行うと、1万ノードのスーパーコンピュータシステム(ノード数でスーパーコンピュータ「京」(注4)の約8分の1に相当)を用いても、200年以上もの時間がかかるため、実用化は不可能でした。しかし、今回開発した三次元津波シミュレーターであれば、1万ノードのスーパーコンピュータシステムによる160時間程度の計算で、港や湾1つ分に相当する約10km四方の領域内の津波の動きを、0.5m径程度の解像度で精緻に再現できるため、沿岸の防波構造物による津波対策の効果予測などにより減災対策を支援するソリューションとしての実用化が可能と考えられます。

※本技術の詳細は、2014年4月13日から16日まで仙台市で開催される国際会議「1st International Conference on Computational Engineering and Science for Safety and Environmental Problems (COMPSAFE 2014)」にて、当社と東北大学 今村教授、菅原大助助教との連名で発表いたします。

今後

今後は、巨大地震とそれに伴う津波の複合災害の被害予測への応用に向け、今回開発した技術を文部科学省が推進するHPCI戦略プログラムの1つである分野3「防災・減災に資する地球変動予測」の課題テーマ「津波の予測精度の高度化に関する研究」の中で活用したいと考えています。この研究では、東北大学をはじめとする研究機関が連携し、様々な津波被害予測手法や避難シミュレーションを統合することで、複合的な要因を考慮した高度な被害予測を実現し、西日本のモデル地域での減災計画の立案へとつなげていくことを目指しています。当社はその中で、三次元津波シミュレーターによって津波の挙動を精緻に予測し、沿岸部や市街地における津波の三次元的な挙動の威力を考慮した高度な津波被害予測の実現を図ります。さらに、この研究の成果を踏まえ、本シミュレーターにより減災対策を支援するソリューションを構築し、政府、自治体などへの提案を通じ、災害に強い街づくりに貢献していきます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 HPCI戦略プログラム:
スーパーコンピュータ「京」の能力を最大限に活用して世界最高水準の研究成果を創出するとともに、その分野において計算科学技術推進体制を構築する取組を支援するために実施されるプロジェクト。詳細は、以下のサイトを参照してください。
計算科学研究機構ホームページ
注2 粒子法:
流体を多数の粒(粒子)の集まりとして表現する手法。水面が複雑に変形する挙動などの解析に適する。
注3 砕波:
沖合から浅海に進入した波は、水深の変化に伴って波高が変化し、水深が波高に近づくと、波の形が不安定になり、前方に飛び出すようにくずれる。この現象を砕波と呼ぶ。
注4 スーパーコンピュータ「京」:
理化学研究所と富士通の共同で開発したスーパーコンピュータです。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

富士通コンタクトライン
電話 0120-933-200
受付時間: 9時~17時30分(土曜日・日曜日・祝日・年末年始を除く)


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