PRESS RELEASE (技術)
2014年2月12日
株式会社富士通研究所
imecホルスト・センター
400MHz帯の国際標準に準拠した、医療向け無線送受信技術を開発
従来比10分の1の低消費電力により、センサーを利用する患者の負担軽減を実現
株式会社富士通研究所(本社:神奈川県川崎市、代表取締役社長:富田達夫、以下 富士通研究所)と欧州の研究開発機関であるimecホルスト・センター(所在地:オランダ アイントホーヘン市、センター長:ヤン・ファン・デル・カム)は、医療向けにBAN(ボディー・エリア・ネットワーク)の国際標準に準拠した400MHz帯無線送受信回路を開発しました。
従来、医療で無線化が期待される脳波などの生体モニタリングには数十ミリワット(以下、mW)の電力を要していましたが、アーキテクチャーと回路の最適化によって、受信時で1.6mW、送信時で1.8mWの低消費電力を達成しました。
本技術により、生体情報のモニタリングなどに用いるセンサー機器の電池寿命を従来製品の約10倍に長期化することで、電池交換や充電の頻度を低減し、患者の負担軽減や医療従事者の業務効率を高めることができます。
今後、富士通研究所では、本共同研究で確立した無線送受信回路技術を基盤として、社会インフラ監視など医療以外の分野にも展開し、ネットワークフロント技術をさらに強化していく予定です。
本技術の詳細は、2月9日(日曜日)から米国サンフランシスコで開催される半導体技術に関する国際会議「国際固体素子回路会議ISSCC 2014(IEEE International Solid-State Circuits Conference 2014)」で発表しました(ISSCC発表番号9.7)。
開発の背景
医療・ヘルスケアの分野では、人体の様々な位置に装着されたセンサーが無線ネットワークを経由して生体情報を収集する、BANの適用が注目されています(図1)。BANを構成する各センサー素子(センサーノード)は、電池駆動が必要ですが、患者や医療従事者の利便性を高めるため、電池の交換や充電の頻度を極力少なくし、長時間稼働することが求められています。
図1: BANシステムの構成例
課題
電池で長時間稼働させるためには、センサーノードを構成する部品のうち、もっとも消費電力が高い無線送受信回路の電力を低減させる必要があります。
この際、医療システムに要求される転送レートの変化への対応を、新たな回路の追加を必要とせず、かつ消費電力を最小化して実現することが課題となります。
開発した技術
本研究では、BANの国際標準であるIEEE 802.15.6に準拠した400MHz帯無線仕様に加え、医療分野で必要となる脳波・画像などの通信を可能にする4.5Mbps高速モード、および、センサーノードの動作待機時の低消費電力化を実現する11.7kbps低速・低電力モードの2つの独自モードへの対応を仕様化しました。
開発した技術は以下の2点です(図2)。
- デジタル制御受信技術
送受信回路のアーキテクチャーを、できるだけシンプルにすることで、低消費電力化を実現しました。デジタル回路から制御される送受信回路は、要求される転送レートやBANの国際標準に準拠した位相や周波数の変調方式に対応するため、後から回路特性を変更可能にするプログラマブルな構造を採用しています。受信部は、低雑音増幅器、ミキサ、ローパスフィルター、AD変換器で構成され、受信した無線信号から直接、基底帯域信号(注1)を取り出すダイレクト・コンバージョン方式を採用しました。この方式で、さらに構成する各回路の電力を最小化することによって、大幅な消費電力低減が可能となります。4.5Mbpsの高速モードは、ローパスフィルターとAD変換器の周波数特性をデジタル回路により最適化し、11.7kbpsの低速・低電力モードでは低雑音増幅器の消費電力削減による感度劣化を、デジタル回路の処理で改善しています。
図2: 送受信回路の構成 - 高速デジタル3点変調送信技術
送信部に送信ミキサを使用すると高速モードの実現は容易になりますが、ミキサやその駆動回路における電力増加が大きくなることが知られています。そこで、以下の3点の方式を組み合わせることで低消費電力化を達成しています。
以上の技術により、低速モードと高速モードで300倍以上の転送レートに対応し、最大消費電力を、受信時1.6mW、送信時1.8mWの送受信回路を実現しました。
効果
今回開発した医療向け送受信回路は、生体情報のモニタリング用途だけでなく、医療機器管理用のセンシングフロントにも適用が可能です(図3)。いずれの応用においても、センサーノードに使用される電池の寿命を大幅に長期化し、患者の負担軽減や医療従事者の業務効率の向上に寄与できます。
図3: ボディー・エリア・ネットワークの適用例
今後
富士通研究所では、今回確立した無線送受信回路技術を基盤として、医療・ヘルスケアだけでなく、農場・牧場管理、社会インフラ・構造物監視、工場監視、環境監視などの分野におけるネットワークフロントの基盤技術としての展開していく予定です。
imecホルスト・センターについて
imecホルスト・センターは、自律動作可能な無線センサーネットワークや、有機素材上へのシステム回路形成技術(System in Foil)を研究対象とする、オープンイノベーション型の研究機関です。imecホルスト・センターでは、産業界と大学がロードマップと研究課題を共有するパートナー型の共同研究を推進しており、企業のニーズに合致した研究が実行可能となります。
imecホルスト・センターは、2005年にオランダ政府、ベルギーのフランダース政府の支援を受け、ベルギーの研究機関imecとオランダの研究機関TNO(Netherlands Organization for Applied Scientific Research)が、オランダのアイントホーヘン市に共同で設立した研究開発機関です。ホルストの名は、オランダPhilips研究所の最初の所長に由来しています。
現在、約28か国、合計180人以上の研究者・関連従事者で構成され、45企業が研究プログラムに参加しています。
imecについて
imecは、ナノエレクトロニクスを主導する研究機関で、その科学的な知見を利用し、ICT、ヘルスケア、エネルギーの分野において、企業・大学の連携を進め、事業化に適したソリューションを提供します。imecに所属する研究者によって、持続可能な社会を実現するためのキーテクノロジーが開発されています。
imecには、2,080人以上の研究スタッフが従事しており、そのうちの670人以上が企業からの研究員で占められています。2012年のimecの収入は、3.2億ユーロとなっています。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 基底帯域信号:
- 無線搬送波の変調前、あるいは、復調後の元の信号。
- 注2 PLL:
- Phase Locked Loopの略で、基準信号と比較して種々の無線信号を生成する回路。
- 注3 VCO:
- Voltage Controlled Oscillatorの略で、入力電圧により発信周波数を制御可能な回路。
- 注4 バラクタ:
- 印加する電圧によってその容量が変化する素子。
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ユビキタスプラットフォーム研究所 アンビエントプラットフォーム研究部
044-754-2533(直通)
mban_press_2014@ml.labs.fujitsu.com
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