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PRESS RELEASE (技術)

2013年10月8日
富士通株式会社
株式会社富士通研究所

車載レーダーなど、ミリ波送受信機用の低雑音な信号生成回路技術を開発

雑音を従来の1/3に低減し、シリコン半導体を用いたミリ波無線通信端末の実用化に目途

富士通株式会社と株式会社富士通研究所(注1)は、車載レーダー(注2)などのミリ波(注3)送受信機へ適用可能な、低雑音な信号生成回路(注4)を開発しました。

近年、レーダーの高解像度化や無線通信の大容量化に向けて、周波数が数十ギガヘルツ(GHz)以上のミリ波を用いた送受信機の開発が進められています。ミリ波送受信機を高機能化・量産化するためには、従来用いられている化合物半導体(注5)に代わりシリコン半導体で実現する必要がありますが、低雑音なミリ波の信号生成が難しいという課題がありました。

今回新たに、複数の比較回路を用いて基準信号と逐次比較する低雑音な信号生成回路を開発することにより、ミリ波信号の不要な雑音を従来の約1/3(-5デシベル)に低減することに成功し、シリコン半導体を用いた集積型ミリ波送受信回路を実現する目途を得ました。

これにより、車載レーダーなどのミリ波送受信機の高機能化・量産化に大きく貢献することが期待されます。なお、本成果の一部は、総務省の「電波資源拡大のための研究開発」による委託研究「79GHz 帯レーダーシステムの高度化に関する研究開発」の一環として実施されています。

本技術の詳細は、10月6日(日曜日)からドイツで開催される国際会議「EuMIC 2013(European Microwave Integrated Circuits Conference 2013)」にて発表します。

開発の背景

近年、レーダーの高解像度化や無線通信の大容量化に向けて、周波数が数十GHz以上のミリ波を用いた送受信機の開発が進められています。ミリ波信号を送受信するための高周波ICには、高周波特性に優れた化合物半導体が用いられていますが(図1)、信号処理回路などの一体化・高機能化(図2)や量産化にはシリコン半導体が適しています。そのためシリコン半導体でミリ波送受信ICを実現するための研究が進められています。

図1 化合物半導体を用いたミリ波送受信ICの構成
図1 化合物半導体を用いたミリ波送受信ICの構成

図2 シリコン半導体を用いた高機能なミリ波送受信ICの構成
図2 シリコン半導体を用いた高機能なミリ波送受信ICの構成

課題

ミリ波送受信用ICでは、ミリ波の信号を生成するための信号生成回路が必要になります。従来のミリ波信号生成回路は、ミリ波発振器信号を分周した低周波の比較信号と、基準発振器からの低雑音・高安定な基準信号とを比較し同期させることで、低雑音・高安定なミリ波信号を生成していました(図3)。基準信号と比較信号を同じ周波数にして基準信号の1周期あたり1回の比較を行っているため、位相差検出回路が発生する雑音に対して、比較結果の差信号を相対的に大きくすることができず、雑音が大きくなる問題がありました。特に、シリコン半導体は化合物半導体に比べてトランジスタが発生する雑音が大きいため、より低雑音・高安定なミリ波信号を生成する回路技術が求められていました。

図3 従来の信号生成回路とタイミング図
図3 従来の信号生成回路とタイミング図

開発した技術

今回、複数の位相差検出回路と遅延回路を直列に接続し、複数回比較処理を行う新しいアーキテクチャーを開発しました。新規回路では比較信号の周波数を高くし、さらに基準信号を分配して複数にすることにより、1周期あたりの比較回数を増やすことができます。比較して生成する差信号の数が多くなるため、位相差検出回路が発生する雑音に対して、比較結果の差信号を相対的に大きくできます。これにより、位相差検出回路が発生する雑音の影響を少なくすることが可能となり、信号における雑音を従来回路に比べ約1/3(-5デシベル)に低減することに成功しました。

図4 開発した信号生成回路とタイミング図
図4 開発した信号生成回路とタイミング図

効果

本回路技術を用いることにより、従来困難であったシリコン半導体を用いたミリ波送受信ICを実現できる目途を得ました。これにより、車載レーダーなどのミリ波送受信機の高機能化・量産化に大きく貢献することが期待されます。また、低雑音化による電力削減とレーダー部品点数の削減などにより環境負荷低減に貢献します。

今後

今回開発した技術を適用し、一体型のミリ波送受信ICモジュールを開発していきます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田 達夫、本社 神奈川県川崎市。
注2 車載レーダー:
電波の送受信により自車周辺の車との距離と角度、相対速度を計測するシステム。
注3 ミリ波:
周波数が30GHzから300GHzの電波。
注4 信号生成回路:
フェーズドロックループと呼ばれる、基準信号に発振器信号を同期させことによって低雑音・高安定な信号を発生する回路。
注5 化合物半導体:
2種類以上の元素からなる半導体で、GaAs(ガリウムヒ素)、InP(インジウムリン)などがある。シリコンに比べて電子の移動度が高いため、高速動作が可能。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
基盤技術研究所
電話 046-250-8244(直通)
メール amr@ml.labs.fujitsu.com


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