PRESS RELEASE (技術)
2013年10月30日
富士通株式会社
株式会社富士通研究所
車載レーダーなどで使われるミリ波レーダーの干渉シミュレーション技術を開発
シミュレーションによる干渉回避アルゴリズムの開発や検証により、信頼性の高い車載レーダーの実現が可能に
富士通株式会社と株式会社富士通研究所(注1)は、車載レーダー(注2)などで使われるミリ波(注3)レーダーの干渉シミュレーション技術を開発しました。
近年、車載レーダーなどでは76ギガヘルツ(以下、GHz)帯ミリ波が利用されていますが、今後、より高い分解能が得られる79GHz帯ミリ波の普及も見込まれています。レーダーの普及により多くの異なる変調方式が混在して使われるようになり、干渉の問題が起きないかを詳細に検討する技術が求められています。ミリ波レーダーでは広い周波数帯域を使うことから、異なる方式間の干渉の解析を汎用のパソコンで行うには従来の技術では処理能力的に困難でした。今回、異なる変調方式の干渉の数理的モデルを作成し、精度を落とさずに解析を簡略化することで、汎用のパソコンを用いて実用的なメモリ容量と計算量で干渉の解析を実現するシミュレーション技術を開発しました。
本技術により、干渉回避アルゴリズムの開発や検証がシミュレーションで行えるため、物体の認識漏れや誤検出を防止し、信頼性の高い車載レーダーの開発が期待できます。なお本研究開発は、総務省の電波資源拡大のための研究開発の委託研究「79GHzレーダーシステムの高度化に関する研究開発」において実施されたものです。
開発の背景
ミリ波レーダーは、物体にミリ波帯の電波を送信して、その反射波を受信することで、物体の距離や速度などを検知するものです。近年、車載レーダーなどでは76GHz帯ミリ波が利用されており、車の周囲の障害物の検知や、交通状況に応じたクルーズコントロール、踏切や道路などに設置して障害物の検知などに利用されています。また、交通状況を監視するインフラレーダーなども製品化されています。一方で、歩行者などの小さな対象を検知するために分解能の向上が求められており、今後は、広い周波数帯域を使ってより高い分解能が得られる79GHz帯ミリ波の普及も見込まれています。76GHz帯ミリ波は、送受信機の回路構成が簡単にできるという特徴から、FM-CWレーダー(注4)などの連続波を使った変調方式が主に使われてきました。また、79GHz帯ミリ波は、近年の回路技術の向上や、より広帯域な周波数が割り当てられていることから、スペクトル拡散レーダー(注5)などの利用も見込まれています。このように様々な方式のミリ波レーダーが混在して使われるようになるため、干渉の問題が起きないかを詳細に検討することができるシミュレーション技術が望まれていました(図1)。
図1 レーダー間の干渉のイメージ
課題
ミリ波レーダーでは数100メガヘルツ~4GHzという非常に広い周波数帯域を使っています。異なる方式のレーダー間の干渉を計算するには、従来の方法では細かい周波数ステップで広帯域に渡って計算を行う必要があり、大きなメモリ空間と計算スピードが必要となるため、汎用のパソコンで実行するのは困難でした。また実際にレーダーを試作し、実験的に干渉の影響を調べる方法もありますが、レーダー間の周波数や時間的な同期を正確にとりながら実験を行うのは困難であり、ある限定された条件下の実験に限られていました。
開発した技術
今回、FM-CWレーダーとスペクトル拡散レーダーの干渉の数理的モデルを作成し、精度を落とさずに解析を簡略化することで、汎用のパソコンを用いて実用的なメモリ容量と計算量で干渉の解析を実現するシミュレーション技術を開発しました。
異なる方式のレーダー間の干渉を計算するには、従来の方法では細かい周波数ステップで広帯域に渡って計算を行う必要があるため解析時間が増大します。解析周波数や時間ステップを粗くすることで解析時間を早くすることも可能ですが、その場合は解析精度が悪化します。今回、数理モデルにしたがって計算する際に、精度に影響を与えない周波数成分を省き、必要最小限の周波数や時間ステップで計算することで、精度の維持と高速化の両立を実現しました(図2)。
図2 精度の維持と高速化の両立
本技術を用いて、スペクトル拡散レーダーがFM-CWレーダーから受ける影響をシミュレーションした結果を図3に示します。干渉がない場合には、物体が存在する距離にのみ信号を検出できますが、干渉の影響がある場合には、物体が存在しない距離の2か所に信号を検出しており、誤検出が起きていることが分かります。同様にFM-CWレーダーがスペクトル拡散レーダーから受ける影響のシミュレーションも可能です。このような干渉の影響が汎用のパソコンでも簡単に計算できます。また両レーダー方式のパラメーター(周波数・変調符号・変調幅・タイミングなど)を変化させることで、干渉がどのように変化するかも簡単に計算することができます。
図3 干渉のシミュレーション例(スペクトル拡散レーダーがFM-CWレーダーから受ける影響)
効果
本技術により、異なる方式のレーダー間の干渉が、どのような状況でどの程度発生するかを定量的に計算することが可能になります。また、干渉回避アルゴリズムの開発や検証がシミュレーションで行えるため、物体の認識漏れや誤検出を防止し、信頼性の高い車載レーダーの開発が期待できます。
今後
2013年度末に向けて、開発した干渉回避アルゴリズムの実験検証などを進めていきます。またこの干渉回避手法を実装した製品化を順次進めていく予定です。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
- 注2 車載レーダー:
- 電波を送信しその反射波を検知することで自動車の周囲の障害物を検知する装置。
- 注3 ミリ波:
- 波長が1~10mm(周波数30~300GHz)の電磁波。
- 注4 FM-CWレーダー:
- 周波数変調した連続波を送信し、反射波と送信波の周波数差から障害物の距離と相対速度を検知する方式のレーダー。
- 注5 スペクトル拡散レーダー:
- 拡散符号を使って広帯域に拡散した信号を送信し、反射波と送信波の相関が大きくなる遅延時間から障害物の距離を検知する方式のレーダー。
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ネットワークシステム研究所 先端ワイヤレス研究部
044-754-2647(直通)
mm-wave@ml.labs.fujitsu.com
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