PRESS RELEASE (技術)
2013年8月5日
株式会社富士通研究所
世界初!手のひら静脈画像から2048ビットの特徴コードを抽出して照合する認証技術を開発
1つの生体情報からサービスごとに異なる特徴コードを生成し利用可能に
株式会社富士通研究所(注1)は、生体情報(手のひら静脈画像)からその特徴を2048ビットの特徴コードとして抽出して照合する技術を世界で初めて開発しました。
従来適用していた静脈特徴パターンを比較する照合処理の代わりに、静脈画像から抽出した’0’と’1’で表される特徴コードを用いることで、単純な比較計算による高速な照合を実現します。また、1つの生体情報から複数の特徴コードを生成できるため、生体認証サービスごとに異なる特徴コードを登録することが可能です。これにより、登録した情報が漏えいした場合でも、新しい特徴コードを生成して再登録することで、安心してサービスを使い続けることが可能です。
本技術により、手のひら静脈認証の活用の範囲が広がるとともに、多くのお客さまがより安心・安全に生体認証を利用することができます。
図1 生体情報からの特徴コードの抽出
開発の背景
近年、手軽に本人を確認する技術として、生体認証技術の普及が進んでいます。中でも、富士通研究所が世界で初めて開発した手のひら静脈認証技術は、高い認証性能から金融機関のATMでの本人確認や企業のPCアクセス管理、入退室管理など、国内外を問わず幅広く活用されています。生体認証は、身一つで本人認証が行える一方で、認証に用いる生体情報は生体部位に依存し、自由に変更することができないため、より慎重に取り扱う必要があります。そのため生体認証の利用が拡大するにつれて、認証システムの中で生体情報をより簡単に取り扱いたいというニーズが高まっています。
課題
1つの生体情報から複数の生体特徴情報を生成することが実現できれば、サービスごとに異なる情報を登録することができます。また、登録した情報が漏えいした場合でも、変換条件を変えて新しい生体特徴情報を生成して登録することで安心してサービスを使い続けることが可能です。このような1つの生体情報から複数の生体特徴情報を生成する技術は、「キャンセラブルバイオメトリクス」あるいは「リニューアブルバイオメトリクス」と言われています。
元の静脈画像や抽出された静脈特徴パターンを変換条件に基づいて変形し、システムに登録して利用することで「キャンセラブルバイオメトリクス」を実現できますが、照合の際には、従来の静脈認証と同等のパターン照合処理が必要となり、これらの処理に時間がかかるという課題がありました。そのため、静脈画像からそのパターンの特徴を数値化した特徴コードを抽出し、その特徴コードを用いて単純な数値計算で照合を行うことで処理時間を短縮する方法が研究されています。しかし、その実現には、静脈画像パターンを取得するたびに変化する手の傾きや形などに影響されない安定した特徴コードを生成する高度な技術が必要でした。
図2 変換条件を変えることによる複数の特徴コードの抽出
開発した技術
手のひら静脈画像から2048ビットの’0’と’1’で表される特徴コードを抽出して照合する技術を世界で初めて開発しました。従来のパターン照合処理の代わりに、特徴コードの単純な比較計算による照合を実現しています。一般的なPCを使用し、1対1で認証、照合処理を行った場合、従来技術の数ミリ秒から約1/1000となる約1マイクロ秒に短縮可能です。また、データ量も従来に比べて約1/10に削減できます。さらに、この特徴コードは他人受入率10万分の1レベルの識別性能を持っています。開発した技術の特長は以下の通りです。
- 手のひら静脈画像を正規化する技術
手のひら静脈画像の手の輪郭情報を用いて、手のひら静脈画像の位置補正や形状補正を行うための画像正規化技術を開発しました。この画像正規化技術により、センサーから取得された手のひら静脈画像を、一定の位置と形に置かれた静脈画像のように変換し、大まかな位置合わせを行うとともに、大きな変形を取り除きます。この技術により、特徴コードの抽出再現性を向上させています。
- 特徴コードの抽出技術
手のひら静脈画像から2048ビットの特徴コードを抽出する技術を開発しました。手のひら静脈画像の各部分での情報量に応じて画像領域を分割し、分割した領域から静脈パターンの特徴成分を抽出し、情報量削減の技術を用いて最終的に2048ビットの特徴コードを抽出します。画像領域を適応的に分割することで、多少の位置ずれや変形があっても影響を受けにくい特徴抽出方式を実現しています。また、抽出された特徴コードから元の画像を類推することは困難です。
特徴コードは完全なデジタル情報であり、各種の秘匿技術、暗号技術との連携も容易であり、連携時のデータ変換による認証性能の劣化もありません。また本技術を用いることにより、1つの生体情報から複数の特徴コードを作成できるため、盗難・漏えい時にも新しい特徴コードを生成できます。さらに、手のひら静脈認証だけではなく指紋認証への適用も可能です。
図3 開発した特徴コードによる手のひら静脈認証技術の概要
効果
これらの技術を用いることにより、1つの手のひら静脈画像から複数の特徴コードを生成できるため、生体認証サービスごとに異なる特徴コードを登録することが可能です。また万が一登録した情報が盗難・漏えいした時にも、新しい特徴コードを生成して再登録することで、安心してサービスを使い続けることが可能です。例えば署名(サイン)やパスワードを変えるように、利用するサービスごとに別々の特徴コードを登録することが可能です。
今後、生体認証の利用拡大に伴い、インターネットアクセス、店舗決済など様々なサービスや場所での利用が想定されます。本技術により、多くのお客さまがより安心・安全に生体認証を利用することができるようになります。
図4 本技術を利用した生体認証サービスの適用イメージ
今後
富士通研究所では、2015年の実用化を目指して、入力時の手の傾きや形状などの制限を極力減らすための画像正規化技術の強化と、特徴コード抽出技術の高精度化を進めます。また、本技術を利用した生体認証基盤の設計・構築を進め、様々な生体認証の利用シーンへの適用を検討していきます。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
関連リンク
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ソフトウェア技術研究所 セキュアコンピューティング研究部
044-754-2670
biometric-code@ml.labs.fujitsu.com
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