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PRESS RELEASE (技術)

2013年3月21日
株式会社富士通研究所
富士通株式会社
富士通クオリティ・ラボ株式会社

世界的に規制が強まっているフタル酸エステルの含有を判別できる簡易手法を開発

新しい前処理手法の確立により、安価な分析装置を用いて10倍以上の感度で判別を実現

株式会社富士通研究所(注1)と富士通株式会社、富士通クオリティ・ラボ株式会社(注2)は、有害性が懸念されるフタル酸ビス(2-エチルヘキシル) (以下、DEHP)などのフタル酸エステル類の、塩化ビニル(以下、PVC)中の含有を従来に比べ10倍以上の高感度で判別できる手法を開発しました。

従来、フタル酸エステル類の含有量を高精度に測定するには高価な分析装置や専門技術が必要でした。また比較的安価で簡易的な測定方法も知られていますが、その場合には感度が低いという問題がありました。今回、試料を加熱して発生するフタル酸エステル類の蒸気をPVC膜に捕集する「蒸気捕集法」により、従来に比べ10倍以上の高感度での判別を実現しました。

本手法により、ケーブル被覆材などへのフタル酸エステル類の含有の有無を、工場の受入検査の現場で、操作が簡単で安価な分析装置を用いて、10分以下の速さで、かつ高感度に判別することが可能になり、より安心で安全な製品の提供に貢献することができます。

本技術の詳細は、3月27日(水曜日)~30日(土曜日)に厚木市で開催される「第60回応用物理学会春季学術講演会」にて発表します。

開発の背景

富士通グループは、「社会に貢献し地球環境を守ります」との企業指針に基づき、環境保全を経営の最重要事項の一つと位置づけ、「富士通グループ環境方針」を定め、この方針を基本に環境保全活動に取り組んでいます。

こうした考えのもと、富士通グループにおける調達については、グリーン調達の考え方を「富士通グループグリーン調達基準」にまとめ、法規制に関わる物質、業界団体のガイドラインの指定物質を富士通グループ指定化学物質とし、納入品に適用する化学物質とその対応を定め、お取引先に遵守をお願いしています。

富士通グループでは、納入品そのものを実際に検査して、規制対象である有害物質の確実な排除を目指しています。特に、大量の納入品を受け入れて製品を製造する工場では、有害物質の納入品への含有を、迅速、より確実に、効率よく検査する必要があるため、これまでもいくつかの独自技術を開発し運用してきました。

近年PVCを柔らかくする可塑剤として使用されるフタル酸エステル類のうち最も生産量が多いDEHPなどは、有害性が懸念されており、日本・米国・EUにおいて、玩具や育児用品への使用が規制されています。EUでは、発がん性物質・変異原性物質・生殖毒性物質に分類され、リスクが懸念される物質として、2011年2月17日にREACH規則(注3)の認可対象物質リストに掲載されました。また、電子電機産業への影響が大きなEU RoHS指令(注4)においても、次期規制候補物質として検討されています。


図1 納入品の受入検査における規制物質の含有検証

課題

従来のフタル酸エステル類の分析法としては、物質の種類と濃度を正確に測定できる方法と、種類までは特定できませんが、フタル酸エステル類を検出できるスクリーニングの方法があります。前者の方法は、高精度ですが有機溶剤を用いた試料の前処理や数千万円もする高価な分析装置、さらには専門技術も必要で、時間もかかるという課題があり、多種多数の納入品への含有を判別する必要がある工場の受入検査の現場で実施するのは困難です。一方、後者の方法として、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)の全反射(ATR)法(注5)が使用されます。この方法は、前者の高価な装置よりも安価な(1/5程度)装置で実施することができ、試料を前処理する必要がなく、操作も簡単で誰にでも測定できる方法ですが、含有濃度が10重量濃度(wt%)以上でないと検出できず、規制値の0.1wt%に対して、感度が2ケタも低いという課題がありました。

開発した技術

今回開発した手法(図2(a))は、試料を加熱することで、含有しているフタル酸エステル類などの可塑剤成分を蒸発させ、添加物を含まない金属板上のPVC膜に捕集する手法です。これにより、PVC膜に可塑剤成分を濃縮するとともに、試料中の着色剤などの添加物の影響をなくすことができます。また、金属板上の薄いPVC膜を測定するため、ATR法よりもさらに安価な装置である、金属反射法のFT-IRを適用することが可能になりました。その結果、フタル酸エステル類を1wt%程度含有する試料でも、蒸気捕集法を適用することで検出でき、従来よりも10倍以上の高感度でフタル酸エステル類の含有を判別することを可能にしました。

蒸気捕集法のポイントは、以下の3点です。

  1. 可塑剤成分などの添加物の中から、対象とするDEHPをできるだけ効率良く蒸発させること
  2. 発生した蒸気を、できるだけ多く、捕集膜に吸着させること
  3. 捕集膜中のフタル酸エステル類を、金属反射法で高感度に検出すること

これらを実現するには、試料の加熱温度、時間、さらに、捕集膜の温度、輻射熱に関わる加熱面と捕集面の間隔の設定などが必要となります。また、工場の受入検査に適用するには、作業効率を高くし、工数の削減も必要です。

そこで、蒸気捕集装置(図2(b))を開発して、試料の加熱、捕集板の冷却のなどの条件設定を容易にするとともに、カートリッジに試料をセットすることで作業効率を向上し、だれにでも短時間で安定した蒸気捕集を可能にし、良質な分析用のサンプルを簡単に作製できるようにしました。

また、今回開発した蒸気捕集装置により、捕集の各種条件を精度よく調整することができるようになったことから、フタル酸エステル類の規制値0.1wt%の検出判断を目指して、捕集条件の詳細調査による一層の高感度への取り組みも可能になります。


図2 開発したフタル酸エステル類の含有判別の簡易手法

効果

蒸気捕集法の開発により、FT-IRを用いたスクリーニング法でフタル酸エステル類の含有の判別感度を従来の10倍に向上できるため、これまで含有の判別ができなかった1wt%濃度の試料でも判別を可能にしました。また、蒸気捕集法の条件を調整し、安定かつ効率的にフタル酸エステル類の蒸気を捕集することで、良好な捕集サンプルを容易に作製できるようになるため、受入検査の現場でより高感度の含有判別を可能にしました。これにより、有害性が懸念されるフタル酸エステル類の製品への含有のリスクを低減し、より安心安全な製品の提供を可能にします。

今後

今後RoHSの規制動向も踏まえながら2013年度を目途に蒸気捕集膜や捕集装置の供給体制を整え、規制時には速やかに本開発手法を富士通グループの受入検査に展開できるように準備していきます。同時に、フタル酸エステル類のスクリーニング分析法として国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)の国際規格IEC62321に反映すべく、提案活動に取り組むとともに、蒸気捕集膜や捕集装置のグループ外への提供についても検討を進める予定です。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
注2 富士通クオリティ・ラボ株式会社:
代表取締役社長 高橋淳久、本社 神奈川県川崎市。
注3 REACH規則:
Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals規則。欧州連合における全ての化学物質の登録(届出)・評価・認可・制限をするための統合的制度を定めた規則。
注4 RoHS指令:
the restriction of the use of certain hazardous substances in electrical and electronic equipment指令。電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用を制限する欧州連合の指令。同様の規制が世界各国で施行。
注5 フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)の全反射(ATR)法:
米国CONSUMER PRODUCT SAFETY COMMISSIONの試験方法の基準CPSC-CH-C1001-09 3. Standard Operating Procedure for Determination of Phthalatesに、スクリーニング法として記載。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
環境・エネルギー研究センター
電話 046-250-8361(直通)
メール pr-env@ml.labs.fujitsu.com


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