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PRESS RELEASE (技術)

2012年4月3日
株式会社富士通研究所

映像中継の高画質化技術が世界の放送機器技術規格
を制定するSMPTEの推奨指針として採用決定

映像の多段中継時の映像劣化を抑止し、高品位な映像伝送システムの実現に貢献

株式会社富士通研究所(以下、富士通研究所)(注1)は、世界で初めて映像中継時の映像品質劣化を抑止する技術を開発し、その技術が世界の放送機器の技術規格を制定しているSMPTE(映画テレビ技術者協会) (注2)の推奨指針として採用されることが決まりました。今後、本推奨指針を適用した映像伝送システムが普及するに従い、更なる高品質な映像を視聴することが可能となります。

従来、ニュースやスポーツ、イベント、天気などの現場中継では、複数の中継地点を経由して映像が伝送されます。その際に、各中継地点に配備された映像伝送装置を経由するたびに、画像の色成分に僅かな劣化が生じ、それが累積されることで目に見える『色にじみ』が発生することが知られていました。

本技術は、従来の機器との互換性を保持したまま『色にじみ』の発生を抑制するもので、2010年度のSMPTE Motion Imaging Journal Certificate of Merit賞を受賞するとともに、今回、推奨指針SMPTE RP 2050-1: 2012として採用されることが決まりました。

背景

富士通研究所は30年にわたって映像符号化技術の研究開発を行い、その成果はMPEG-2、MPEG-4、H.264/AVCなどの映像符号化国際標準に採用され、性能品質の向上に貢献してきました。また、業界トップレベルの高品位な映像符号化の実用化技術も開発し、デバイス、映像伝送装置、ソフトウェアなどの幅広い映像関連製品の品質向上に適用されてきました。特に富士通株式会社(以下、富士通) (注3)が製品化した業務用映像伝送装置「IPシリーズ」は高い映像品質が評価され、さまざまな映像素材を伝送するために世界中の放送局に採用されています。

SMPTEでの推奨指針採用

1916年に設立され100年近くの歴史をもつSMPTEは、世界の放送機器の技術規格を制定する最も権威ある機関の一つです。富士通研究所が開発した、世界で初めて多段中継において発生する映像品質劣化を抑止する技術(図1)は、2010年度のSMPTE Motion Imaging Journal Certificate of Merit賞を受賞するとともに、今回、SMPTEの推奨指針RP2050として採用されることが決まりました。


図1 従来技術と開発技術の多段中継時における伝送画像

従来技術の課題

ニュースやスポーツ、イベント、天気などの映像中継は、一般に通信衛星、および地上の無線回線やインターネットなどの回線が用いられ、かつ、さまざまな番組やメディアで繰り返し再利用される頻度が高いことから、毎秒10メガビット程度の比較的低レートで高い品質の映像を伝送されることが要求されます。ここで、映像伝送の現場では、5地点程度の中継地点を設けることが多く、これらの中継地点の間で繰り返し伝送を行うと、最終的に目に見える『色にじみ』が発生してしまうことが課題となっていました(図2)。


図2 多段の映像中継時における『色にじみ』の課題

一般に、映像は明るさ成分と色成分に分解することができ、かつ、人間の視覚は明るさ成分に比べ色成分の解像度の認識能力が低いことが広く知られています。このことから、低レートで映像を伝送する際には、映像送信装置で映像の色成分のみ縦方向の解像度を半分に縮小してH.264/AVC(注4)などの映像符号化技術を用いて伝送し、映像受信装置では色成分を元の解像度に拡大し、明るさ成分と再合成して映像を再生する技術が広く使われてきました。入力画像と出力画像の間では、縮小・拡大処理により映像伝送後の色成分が僅かに劣化します。一回の映像伝送では、この色成分の劣化は非常に僅かであり、映像品質には殆ど影響がありませんが、複数の中継地点を介して多段で伝送を行うことで色成分の劣化が累積し、最終的に目に見える『色にじみ』が発生します。(図3)。


図3 従来の映像伝送装置

開発した技術

映像の多段中継伝送における『色にじみ』の映像劣化の抑止を可能とする『色にじみ抑止技術』を世界で初めて開発しました。

開発した技術は、業界全体が本技術のメリットを早期に享受できるよう普及のハードルを下げるために、以下の二つの特長を持っています。

  1. 従来機器との相互接続を重視した設計

    従来機器との相互接続を重視した設計とすることで、段階的に従来技術から開発技術への置き換えが可能となりました。映像の色成分の縮小・拡大処理により生じる劣化は、精細度の劣化により生じる『色にじみ』と、明るさ成分と色成分の映像がずれてしまう『色ずれ』に大別されます。従来の映像伝送装置で使われている色成分の縮小・拡大技術では、『色にじみ』が生じます。また、画像を縮小・拡大しても劣化しない『完全再構成技術』も知られていましたが、従来の映像伝送装置と接続した際に『色ずれ』が不可避なため実用化されていませんでした。

    富士通研究所は、数学的な考察により必要条件を定式化し最適解を求めることで、『色にじみ』と『色ずれ』を同時に抑制することが可能な色成分の縮小・拡大技術を世界で初めて開発しました。開発技術を用いた映像機器のみで映像中継を繰り返し行った場合でも『色にじみ』の発生を抑制でき、かつ従来機器と接続した場合でも『色ずれ』が発生しません。(図4)。


    図4 従来技術と開発技術の比較

    図1は、従来技術と開発技術で映像の色成分の縮小・拡大処理を1回、5回、10回行った場合の処理画像の例です。従来技術では、5回、10回で文字に『色にじみ』が発生してしまいますが、開発技術を用いた際には、縮小・拡大処理を10回行っても、劣化が生じないことが分かります。

  2. 低コストでの映像伝送装置への実装

    開発した技術は映像伝送装置の縮小・拡大処理の一部の改良のみで低コストで実装できます。

効果

SMTPTEの推奨指針RP2050に採用された『色にじみ抑止技術』を映像伝送装置に適用することで、映像中継を繰り返し行っても『色にじみ』の発生を抑え高品位な伝送システムが低コストで構築できます(図5)。今後適用が広がることで、一般視聴者も更なる高品質な映像を視聴することが可能となります。

また中継の途中で映像が正しく受信しているかどうか確認するモニタリング用途など、僅かな色成分の不一致を許容できる場合は、『色にじみ抑止技術』を実装した映像伝送装置と従来装置を混在して運用することが可能です。このことから、多段中継システム構築の際に従来装置の有効活用が可能となります。


図5 RP2050対応映像伝送装置による受信映像品質向上

今後

『色にじみ抑止技術』は、すでに多くのお客様にご使用いただいている富士通の映像伝送装置IPシリーズ(IP-900, IP-9500, IP-9610)に適用済みであり、今回、SMPTEの推奨指針に採用されたことで、本技術のさらなる普及を目指します。


図6 映像伝送装置IP-9610

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市
注2 SMPTE:
Society of Motion Picture and Television Engineers(映画テレビ技術者協会)
注3 富士通株式会社:
代表取締役社長 山本正已、本社 神奈川県川崎市
注4 H.264/AVC:
ITU-TとISO/IECが共同で標準化した最新の動画像符号化標準方式

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
メディア処理システム研究所 イメージシステム研究部
電話 044-754-2639(直通)
メール video_tech@ml.labs.fujitsu.com


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