PRESS RELEASE
2011年9月14日
株式会社富士通研究所
早稲田大学
顧客サポート業務の改善策の効果を事前に検証し、ビジネスの意志決定を支援する技法を開発
担当者の知識やスキル獲得度合いなどの見えない要素をモデル化
早稲田大学(注1)理工学術院高橋真吾教授と株式会社富士通研究所(注2)は、顧客サポート業務において、業務改善に向けた施策の効果を事前に検証する技法を開発しました。顧客サポートでは担当者ごとの業務知識に差があるため、熟練者に欠員が生じると業務に支障をきたしてしまうケースが多くみられます。しかし、情報共有や教育などの改善策を取ろうとしても、その効果を事前に検証することができないため、カンと経験に頼らざるをえない改善策しか行えませんでした。
今回、社会科学の現場調査法であるエスノグラフィー(注3)と社会シミュレーション技術(注4)を応用することで、担当者の知識やスキルの習得度合いを現場調査によってモデル化し、改善策の効果やリスクを事前に検証することを可能にしました。これにより、顧客サポート業務における改善策の候補から効果が高いものを比較検討することができるほか、これまでにない新しい施策アイデアが創出される可能性もあり、現場の業務改善につなげることが期待されます。
本技法の詳細は、9月19日(月曜日)からフランスのモンペリエで開催される国際会議「ESSA 2011 (European Social Simulation Association Conference)」にて発表いたします。
図1 サービス業務の改善
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開発の背景
サービスは、「生産すると同時に消費される」「顧客によって要求が異なる」といった特性を持ち、アウトプットは実体化しません。担当者の知識やスキル、コミュニケーション能力などの人間的要素が強く影響する顧客サポート業務において、サービス向上の施策を取り入れることは、企業の生産性向上の取り組みの中でも大変重要になっています。
課題
顧客サポート業務においては、業務が担当者の知識やスキルに強く依存しているため、欠員時のリスクが大きいという問題があります。しかし、知識やスキルと生産性の関係が見えないため、改善策を事前に検証することができず、施策はカンと経験で実施するしかないという問題も抱えています。たとえば、ジョブローテーションや業務マニュアル作成などの施策を実施したが、一向に生産性が上がらないという組織も見受けられます。このため、担当者の知識やスキルを考慮し、生産性を向上させることができる”納得性の高い施策”の発見が課題となっていました。
開発した技法
今回、顧客サポート業務組織の潜在課題の抽出と顧客要求や業務員の知識習得度合いをモデル化し、施策を事前に検証することを可能にしました。これにより、複数ある施策それぞれの効果を提示することができ、高い効果を生むと想定される施策を選択することが可能になります(図2)。
図2 施策の検証実施プロセス
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開発した技法の特徴は以下の通りです。
- 現場調査により課題を抽出
顧客サポート業務のアウトプットは目に見えないため、課題や工夫が見える化されていないケースが大半です。このため、社会科学の現場調査法であるエスノグラフィーを利用して、普段あたりまえで見過ごしている日常的な出来事の観察やインタビュー(フィールドワーク)から重要な気づきを抽出し、担当者の知識やスキルにかかわる事象を詳細に分析します。
- 組織、知識習得度合いをモデル化
分析対象となる組織の業務知識がベテランから初心者にどのように伝わるのか、また、担当者がどのくらいの期間で業務知識をマスターするのかといった、目に見えない要素を表現します。新しい施策の効果を評価するためには欠かすことができない情報であり、モデル化にあたっては現場調査の結果を利用します。
- さまざまな可能性を社会シミュレーションで検証
ジョブローテーションやノウハウ情報データベースの導入などの施策の効果を、生産性だけではなく、担当者の知識やスキル、顧客満足度の変化などの多様な観点から分析することができます。シミュレーションを繰り返すことで、組織変化のさまざまな可能性を提示し、施策決定の議論を支援できます。
効果
今回開発した技法を利用して、富士通のSupportDeskコンタクトセンターで業務改善施策の検証をおこないました。コンタクトセンターでは業務改善の一環として、担当者が顧客の個別要求に対応するためのノウハウ情報をデータベースとして整備することを検討していました。しかし、一度にすべてのノウハウ情報を整備することは不可能であるため、要求のカテゴリごとに優先度をつけて情報を整備する施策を考え、事前に検証をおこないました。
図3 解決情報掲載施策(優先順序)
図4の検証結果は、4つの施策ごとに担当者がノウハウ情報の中から顧客の個別要求に対応する情報が得られた割合を100個ずつプロットしてあります。点線グラフは各施策の100回の結果の平均値を結んだものです。検証前の組織の認識では、図4のように、施策2「問い合わせ多」が良いという認識でしたが、このシミュレーション結果から施策4が施策2よりも良い(平均値の差で15%以上)と予想されることがわかりました。現場からは「現場の業務改善に、このような検証結果がとても役立つと思う。」という評価が得られました。
図4 検証結果
今回開発した技法を用いて、改善施策の効果を事前に検証することが可能になりました。顧客サポート業務における改善策の候補から効果が高いと想定されるものを選択することで、現場の業務の改善につなげることが期待されます。
今後
今後は、フィールド調査からモデル化までのスピードアップをするため、さまざまな顧客サポート業務のモデルのテンプレート化を図っていきます。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 早稲田大学理工学術院:
- 総長 鎌田 薫、所在地 東京都新宿区。
- 注2 株式会社富士通研究所:
- 代表取締役社長 富田 達夫、本社 神奈川県川崎市。
- 注3 エスノグラフィー:
- 文化人類学における現場調査法。生活や仕事の場に入り、生活者や働く人の視点から日常の姿を調査する。マーケティングやプロダクトデザイン、組織変革への示唆の導出に応用されている。
- 注4 社会シミュレーション:
- 社会における人と人との相互の影響を扱うシミュレーション技法。社会における施策決定者に対して、施策が社会に与える影響を可視化し、意思決定を支援する。
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ソフトウェアシステム研究所 インテリジェントテクノロジ研究部
044-754-2652
simsoo@ml.labs.fujitsu.com
早稲田大学
創造理工学部経営システム工学科 教授 高橋真吾
03-5272-4544
shingo@waseda.jp
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