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PRESS RELEASE (技術)

2011年7月25日
株式会社富士通研究所
富士通クオリティ・ラボ株式会社

大気中の腐食性物質を高感度で検出できる環境モニタリング装置を開発

電子機器の腐食による障害を事前に防ぐことで安全な社会システムを作る

株式会社富士通研究所(注1)は、大気中の腐食性物質を高感度で検出できる環境モニタリング装置を開発し、さまざまな場所で使用される電子機器とともに設置することで、大気中の腐食性物質による電子機器の劣化を予想することを可能にしました。本装置は、水晶振動子(注2)の表面に物質が吸着すると発振周波数が変化するQCM(Quartz Crystal Microbalance)(注3)センサーを利用し、小型で、電池による単独動作が可能なうえ、測定したデータを無線で送信することができます。

これにより、従来は電源確保やケーブル敷設が問題で測定が困難であった屋外や狭い空間、自動車や乗り物の中などに本装置のセンサー・ユニットを置くだけで、リアルタイムに大気環境を遠隔で把握することができます。この技術を通じて、高度化した社会システムの基盤を支え、常に適切な環境で動作させる必要がある電子機器の高信頼化に寄与し、快適に暮らせる社会の実現に貢献します。


図1 ノートパソコンに接続した環境モニタリング装置
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図2 環境モニタリング装置による環境サービス(イメージ)
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開発の背景

大気中にはさまざまな物質が含まれていますが、たとえば硫化水素は金属を腐食させます。微小な部品が高密度に集積された情報通信機器などでは、とくに微細な端子や配線の腐食は短期間で動作の安定性に悪影響を及ぼします。このような悪影響は、機器が完全に動作不良を起こすまで気が付かないことも多く、さまざまな障害を引き起こす原因となります。高度化した社会システムでは、ひとつの機器の障害がシステム全体の障害を招き、社会全体の活動を麻痺させてしまうこともあります。腐食による障害を未然に防止するには、大気環境中の腐食性物質の常時監視が有効です。しかし、さまざまな場所に設置された膨大な数の機器の大気環境を常時測定するには工数や費用がかかるため、限られた場所やタイミングでの測定しか行われないのが実状です。

課題

従来、大気中の腐食性物質の測定には高額で大きな装置が必要であり、測定場所によっては電源の確保や測定データを収集するためのケーブル敷設が困難でした。そのため、どこにでも置けるぐらい小型で、さらに電源や通信ケーブルが不要、測定データを無線で遠隔に送信できる環境モニタリング装置が期待されていました。

開発した技術

今回開発した小型の環境モニタリング装置は、大気環境中の腐食性物質を高感度で測定できるQCMセンサーを内蔵するセンサー・ユニットを、パソコンに接続した通信ユニットから無線通信で制御するものです。環境を測定したい場所にセンサー・ユニットを置くだけで、遠隔から環境データを常時測定できます。通信ユニット1台につき、センサー・ユニットは10台まで設置できます。

センサー・ユニットは、以下の特徴を有しています。

  1. 小型・軽量

    高感度のQCMセンサーの発振回路や測定回路、制御回路などを高集積化するだけでなく、腐食環境の測定に必要な機能に着目して最適設計した回路構成とすることで、測定データのメモリ機能、無線通信機能を有しながら小型(幅50x奥行き65x高さ14mm)、軽量化(22g)を実現しました。

  2. 電池駆動

    QCMセンサーでの測定に必要な精度を見極めることにより、測定回数や測定データの入出力のタイミングの最適化を実現しました。これにより、測定動作の省電力化を図り、センサー・ユニットに内蔵した電池だけで、数か月間の連続モニタリング動作を可能にしました。

  3. 移動中の測定も可能

    精密な電子機器の輸送中の周囲環境も、センサー・ユニットを機器に同梱するだけで、無線通信機能によりリアルタイムに測定してデータを読み取ることができます。もし、電波状況が悪くなって通信が途切れた場合でも、その間の測定データはセンサー・ユニットが記憶し、電波状況が回復したときに読み取ることができます。

  4. 温度・湿度の測定も可能

    温度センサーと湿度センサーを内蔵しているので、同時に温湿度も測定できます。QCMセンサーの測定データと比較・検討すれば、腐食原因の特定に役立てるなどして、よりきめの細かい環境測定ができます。

センサー・ユニットのスペック

  • 単体動作型(CPU, フラッシュ・メモリ内蔵)
  • QCM センサーを 3 個内蔵
  • 小型(50 かける 65 かける 14 mm)・軽量(22 g) (いずれも電池を含み、ケースを含まず)
  • Li+二次電池内蔵(数ヶ月間の測定が可能)
  • 測定の時間間隔などは遠隔から設定可能
  • 標準通信可能距離 100 m(アドホック化を行えば、さらに遠距離でのネットワークが可能)
  • 温度・湿度も同時にモニタリング

効果

今回開発した環境モニタリング装置を利用することにより、電子機器の筐体内や屋外の移動体といった、電源や通信ケーブルが確保できない場所でも、設置場所の大気環境を遠隔地で常時監視できるようになります。たとえば、化学物質の漏洩や焼却炉からのガスの発生、火山の噴火などにより、大気環境が変化すると、リアルタイムでその影響を発振周波数の変化として測定できます。その影響が一過性か継続性かを判断することも可能なため、継続している場合は、その発生源を特定して適切に対策することができます。

電子機器が置かれる大気環境を常時モニターすることで、大気環境に起因する機器の障害を未然に防止することができます。これにより、社会システムの基盤を支えるさまざまな電子機器の高信頼化に寄与し、安全で安心して快適に暮らせる社会の実現に貢献します。

今後について

富士通クオリティ・ラボ(注4)では、金属試験片を用いた腐食環境診断キット(商品名:エコチェッカ XRF)を販売してい ますが、診断に1ケ月以上を要するという問題がありました。今後は、今回開発したモニタリング装置による迅速な診断サービスをラインナップに加え、環境診断サービスの充実を図ってまいります。

また、富士通研究所は、新しいサービスビジネスの創出に向けて、環境モニタリングサービスへの展開も検討します。たとえば、異常発熱や火災に伴う燃焼ガス、河川や湖・池での腐敗ガスの発生などの環境変化を適切かつ効率的に測定し、迅速に対応できるような情報を提供することで、よりいっそう安心で安全に生活できる社会の実現に貢献します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市
注2 水晶振動子:
電子機器の中で、決まった周波数の信号を発振し続ける素子。クオーツ時計やパソコンなど、電子機器には欠かせない部品。
注3 QCM(Quartz Crystal Microbalance):
水晶発振子に物質が吸着すると発振周波数が変化することを利用して、吸着したものの質量を非常に高い感度で測定する装置。
注4 富士通クオリティ・ラボ株式会社:
代表取締役社長 高橋淳久、本社 神奈川県川崎市。

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本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
環境・エネルギー研究センター
電話 046-250-8361
メール pr-env@ml.labs.fujitsu.com


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