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PRESS RELEASE (技術)

2010年11月9日
株式会社富士通研究所

光スイッチの消費電力を従来の2分の1に低減

増え続けるネットワーク機器の消費電力問題を解決

株式会社富士通研究所(注1)は、シリコンフォトニクス技術(注2)を適用した導波路型光スイッチについて、世界で初めてシリコンゲルマニウム(以下、SiGe)細線構造を用いることで、従来のシリコン(以下、Si)細線構造に比べて、消費電力を約2分の1に低減することに成功しました。幅広い波長に対応して高速に動作できるタイプの光スイッチ素子としては、世界最小の消費電力を実現しています。

ネットワークの通信量は年々増え続けており、それにつれてネットワーク機器の電力消費も増加する傾向にあるため、将来深刻なエネルギー問題となることが懸念されています。本技術を利用することで、電力消費を抑えつつ、今後の大容量ネットワーク通信にも対応することができます。これにより、複数のクラウドを連携させた高度なサービスや、超高精細映像配信を用いたテレビ会議などのサービスの提供が可能となります。

本技術の詳細は、11月7日から11日まで米国デンバーで開催される国際会議「23rd Annual Meeting of the IEEE Photonics Society (PHO 2010)」にて発表いたします。

なお、本研究の一部は、文科省科学技術振興調整費による先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム「光ネットワーク超低エネルギー化技術拠点」の事業の一環として実施しました。

開発の背景

クラウドコンピューティングや超高精細映像配信など、大容量データ通信を用いるサービスの普及に伴い、ネットワークの通信量の継続的な増加が予測されています。こうした状況の中で、何の対策もとらずにいると、2025年のネットワーク機器の電力消費が2006年時点の13倍になるとの予測(出展:経済産業省資料「グリーンITイニシアチブ」2007年12月)があり、深刻なエネルギー問題となることが懸念されています。

従来はネットワークの経路の切り替えのために、光→電気→光の信号処理を行う必要がありましたが、光信号と電気信号を変換する際に消費電力が大きいことが課題でした。そのため、光信号のまま経路を切り替えることが可能な光スイッチを用いて消費電力を大幅に低減できる次世代ネットワークの研究開発が進められています。


図1. 光スイッチを用いた次世代ネットワーク

シリコンフォトニクス技術を適用した導波路型光スイッチとは

光スイッチは、光通信の経路をつなぎかえる装置です。導波路型光スイッチは、光信号の入力部と出力部の間に多数の光スイッチ素子を並べた構成になっており、それぞれの光スイッチ素子の動作状態の組み合わせによって、任意の光信号の経路をつくることができます(図2)。

シリコンフォトニクス技術を用いた導波路型光スイッチは、すでに普及しているシリコン半導体製造技術を利用するもので、大量生産による低価格化が可能です。また、ナノメートルサイズの導波路からなる小型な光スイッチ素子と制御電子回路を同一基板上に多数並べて作製できるため、大規模な光スイッチを数cmかける数cmと小型で作成することができます。


図2. シリコンフォトニクス技術を適用した導波路型光スイッチ

課題

大規模な導波路型光スイッチでは、多数の光スイッチ素子を同時に動作させます。その際の発熱は装置の特性を劣化させる原因となるため、個々の光スイッチ素子の消費電力をできるだけ小さくすることが必要となります。

光スイッチ素子では、屈折率変調部に電流を印加し、細線導波路に電子を蓄積することで屈折率を変調し、出力するポートを切り替えています(図3)。Si細線で構成されている従来の光スイッチ素子は、Si細線導波路に電子を蓄積する効率が低く、蓄積するためには多量の電流を必要としたため、消費電力が大きいという問題がありました。

開発した技術

今回、世界で初めて屈折率変調部にSiGe細線構造を導入した光スイッチ素子を開発しました(図4)。Si上にSiよりもバンドギャップ(注3)の小さいSiGe細線を形成することで効果的に電子を蓄積することができるようになり、低電力でのスイッチングが可能になります。

試作した光スイッチ素子の消費電力は1.5mWとなり、従来のSi細線構造を導入した光スイッチ素子の消費電力と比較して約2分の1に低減しました。幅広い波長に対応して高速に動作できるタイプの光スイッチ素子としては、世界最小の消費電力を実現しています。


図3. 光スイッチ素子の上面図

図4. 屈折率変調部の断面構造

効果

今回開発した光スイッチ素子の低電力化技術により、次世代ネットワークの実現を大きく前進させることができます。これにより、複数のクラウドを連携させる高度なサービスや、超高精細映像配信を利用したテレビ会議のような新しいサービスの提供が期待されます。

今後

今後は、大規模集積化技術と電子駆動回路の集積技術の開発を進め、次世代ネットワークの実現を可能とする大規模光スイッチの実現を目指します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
  注2 シリコンフォトニクス技術:
電子回路の基板であるシリコン半導体とガラスとの間の大きな屈折率差(シリコンの屈折率はガラスの2倍以上)を利用して、光スイッチなどの光学機能素子を超小型化できる極微小光回路素子技術。シリコン光回路とシリコン電子回路を同じ基板上に集積することも可能。
  注3 バンドギャップ:
半導体で、最も高いエネルギー準位(価電子帯)と最も低いエネルギー準位(伝導帯)の間のエネルギー準位の差。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
基盤技術研究所 デバイスイノベーション研究部
電話: 046-250-8249(直通)
E-mail: si-photonics@ml.labs.fujitsu.com


プレスリリースに記載された製品の価格、仕様、サービス内容、お問い合わせ先などは、発表日現在のものです。その後予告なしに変更されることがあります。あらかじめご了承ください。