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PRESS RELEASE (技術)

2010年9月1日
株式会社富士通研究所

プロジェクトメンバーの共有ビジョンの形成を支援する新手法を開発

社会科学の現場調査法エスノグラフィーを応用し、プロジェクトメンバーの思いをつなぐ

株式会社富士通研究所(注1)は、プロジェクトメンバーの共有ビジョンの形成を支援するフィールドリサーチの手法(Group Vision Analysis)を開発しました。本手法は、社会科学の現場調査法であるエスノグラフィー(注2)を応用することによって、同じプロジェクトに関わる異なる立場のメンバーの思いを引き出して可視化し、一人一人が納得して取り組める共有ビジョンを形成するものです。これにより、メンバーのモチベーションを高め、自発的な行動を促します。

本技術の詳細は、8月29日(日曜日)から東京で開催されるエスノグラフィーのビジネス応用を議論する国際会議「EPIC 2010」(注3)にて発表いたします。

開発の背景

プロジェクトを成功に導くためには、メンバー全員が「われわれは何を何のためにやるのか」という問いに対して、共通の答えとなる共有ビジョンを持つことが重要になります。共有ビジョンについては、これまでも重要性は述べられてきましたが、メンバーの暗黙的な思いを引き出し、共有ビジョンを導く方法論は確立されていませんでした。

消費者の暗黙的な視点を引き出す方法として、マーケティングやプロダクトデザインなどの分野では、社会科学の現場調査法法であるエスノグラフィーが着目されています。富士通研究所では2004年よりエスノグラフィーを応用することによって、組織の潜在課題や暗黙知を分析し、業務改善策を導出する研究に取り組んできました。人が中心となるICT利活用の世界を実現するには、人の視点を効果的に取り入れるための方法論の確立が重要になります。

課題

プロジェクトのメンバーは、プロジェクトの目的に対して、通常それぞれ異なった思いを持っています。プロジェクトの共有ビジョンは、メンバーの思いを反映し、メンバーが納得して取り組めるものであることが重要です。しかし、会議のように、メンバーが集まって重要課題を洗い出したり、深掘りしたりするやり方では、権限の強い人や、積極的な人の意見が中心となってしまい、少数意見が隠れてしまいがちです。また、人間が自らの思いを説明することはとても難しく、「口に出した説明」と「実際の行動」とが必ずしも一致しないことが知られています。

そのため、メンバー各自の思いを第3者がきちんと引き出し、それをプロジェクトの共有ビジョンに反映する手法が求められていました。


図1 目的を共有するイメージ

開発手法

社会科学の現場調査法であるエスノグラフィーを応用し、メンバーそれぞれの視点からプロジェクトの共有ビジョン形成を支援する手法(Group Vision Analysis)を開発しました。本手法は、メンバーの思いを調査者が聞き出すインタビュー技法と、聞き出した思いを可視化する技法から構成されています。

  1. 思いを聞き出すインタビュー技法

    エスノグラフィーのインタビューでは、普段当たり前に実施していることなど日常の行動に着目します。つまり、日常の業務における成功や失敗といった、メンバーが話をしやすいストーリーをきっかけにインタビューを進め、成功したなら何が成功の要因なのか、失敗したなら何が失敗の要因かを聞き出します。これによって、メンバーが持っている成功の基準を明確にして、メンバーの思いを掘り起こしていきます。最終的には、メンバーが「何のために行っているのか(ありたい姿)」、「それを実現するには何をすべきか(実施すべきこと)」を聞き出します。


    図2 インタビュー技法
    拡大イメージ
  2. 聞き出した思いの可視化

    メンバーへのインタビューから得られた「何のために行っているのか(ありたい姿)」と「それを実現するには何をすべきか(実施すべきこと)」を目的や手段の関係として図示します。図では上位にありたい姿、下位に実施すべきことを表記して、内容によっては階層的に表現します。さらに、内容が同じものについては、異なるメンバーのものを重ね合わせます。これにより、分析者が、メンバーの納得できる「ありたい姿」と「実施すべきこと」を容易に見つけることができます。


    図3 思いの関係を可視化
    拡大イメージ

適用事例

今回の手法を適用した2つの大きな組織間での事例を説明します。まず、アウトソーシングを委託した依頼元の会社と、それを請け負ってその業務の効率化を目指していた受注側の会社の間では、作業の進め方についてお互いに相手の主張している目標や主張が十分理解できていない状態でした。

本手法によるワークショップを実施した結果、発注側と受注側がお互いの視点や思いを理解し、皆で目指すべき姿と、皆で取り組む納得感のある課題を選定し、具体的な改善施策の提案に成功しました。


図4 実施例

今後

今後は、本手法を地域連携や、業界を横断する社会的な課題解決に展開していく予定です。また、業務が大きく異なる組織群や、多くの組織が関わるプロジェクトなどへの試行も進めていきます。

以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田 達夫、本社 神奈川県川崎市。
  注2 エスノグラフィー:
文化人類学における現場調査法。生活や仕事の場に入り、生活者や働く人の視点から日常の姿を調査する。マーケティングやプロダクトデザイン、組織変革への示唆の導出に応用されている。
  注3 EPIC 2010:
The Ethnographic Praxis in Industry。米国人類学会主催のエスノグラフィーのビジネス応用を議論する国際会議。2010年度共同開催地委員長 富士通研究所 淺川 和雄。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
ソフトウェア&ソリューション研究所 ナレッジテクノロジ研究部
電話: 044-754-2652 (直通)
E-mail: fkm-gva@ml.labs.fujitsu.com


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