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PRESS RELEASE (技術)

2010年5月27日
株式会社富士通研究所

C~Ku帯で世界最高出力となる窒化ガリウムHEMT増幅器を開発

レーダー機器や通信機器の小型・軽量化を実現

株式会社富士通研究所(注1)は、C帯、X帯、Ku帯(以下、C~Ku帯)(注2)の3帯域である6~18ギガヘルツ(以下、GHz)という広帯域で動作し、従来比2倍となる12.9ワット(以下、W)の世界最高出力を有する窒化ガリウム(GaN)(注3)高電子移動度トランジスタ(HEMT)(注4)増幅器の開発に成功しました。

本増幅器を用いることにより、たとえば航空機レーダーのように、従来は周波数帯域ごとに複数の通信装置を利用していた場合でも、1つの増幅器で対応できるようになります。このように、レーダー機器やワイヤレス通信システムの小型・軽量化と広いエリアのカバーを実現できます。

なお、今回の技術の詳細は、5月23日から米国アナハイムで開催されるマイクロ波の国際学会「IEEE MTT 2010 International Microwave Symposium(IMS2010)」にて発表いたします。

窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(窒化ガリウムHEMT)とは

窒化ガリウム(GaN)は、青色LEDとして信号機に使われており、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)といった従来の半導体材料と比較して、電子の移動速度が高速で、かつ、電圧による破壊に強いという特長を持っています。

このため、窒化ガリウムを用いたトランジスタである窒化ガリウムHEMTは、高出力・高効率の動作が期待されています。

背景


C~Ku帯の多機能レーダーのイメージ図

たとえば、航空機のレーダーでは、降雨に強いC帯と、物体を高い精度で測定できるX帯、Ku帯の複数を切り替えて利用していますが、C~Ku帯にわたる広帯域の増幅器があれば1つで対応することができ、システムを小型化、省エネルギー化することができます。そのため、通信システムや複数のレーダーを1つに統合した多機能レーダーが注目されています。

課題

広帯域増幅器には、複数のシステムが使用する周波数で動作する広帯域特性と、広いエリアをカバーするための高出力特性が求められています。

C~Ku帯のような広帯域で高出力を実現するために、従来は複数のガリウム砒素(GaAs)トランジスタを並列に接続した増幅回路が用いられていました。トランジスタの数を増やせば出力を増やすことができますが、同時に回路が長くなるため配線損失が大きくなり、18 GHzまでの帯域を確保することが困難でした。

開発した技術

今回窒化ガリウムHEMTを用いて、C~Ku帯(6~18GHz)の超広帯域で高出力の増幅器を実現しました。

開発した技術の特長は以下のとおりです。

  1. 帯域を拡大する回路技術

    高周波での配線損失を低減する超広帯域整合回路(注5)を考案し、初めて増幅器に適用しました(図1)。この整合回路は、増幅器から出力される高周波の信号の損失を低減することで帯域を拡大します。

  2. 広帯域での電力分配と電力合成を行う回路技術

    超広帯域で電力分配と電力合成をおこなう回路を開発し、半導体基板上に作り込みました(図2)。これにより、広い周波数で出力を2倍に高めることができます。

図1 回路模式図

図2 開発したC~Ku帯増幅器


効果

今回開発した窒化ガリウムHEMTを用いた増幅器により、6~18 GHzという広帯域において出力12.9W、効率18%(注6)を実現しました。これにより、従来の超広帯域・高出力増幅器に比べ出力を2倍に向上し、世界最高の性能を実現しました(図3)。

本技術を用いることにより、単一の増幅器で複数の周波数の使用が可能となり、広帯域通信や周波数を使い分けるレーダーなどのシステム統合が進み、機器の小型・軽量化が期待できます。


図3 C~Ku帯超広帯域増幅器の性能比較

今後

今後、本技術は、広い帯域にわたって高い出力が要求されるワイヤレス通信機器やレーダー機器などに幅広く適用する予定です。

商標について

その他、記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
  注2 C帯、X帯、Ku帯:
それぞれの帯域を総称したもの。C帯(4GHzから8GHzの周波数帯の総称。雨や霧による減衰を受けにくい特長を持つ。衛星通信、固定無線、無線アクセス、航空管制レーダー、気象レーダーなどの用途がある)。X帯(8 GHzから12 GHzの周波数帯の総称。混信、干渉が少なく、妨害を受けにくい特長を持つ。衛星通信、航空誘導レーダー、気象レーダーなどの用途がある)。Ku帯(12GHzから18GHzの周波数帯の総称。混信、干渉が少なく、妨害を受けにくい特長を持つ。衛星通信、各種レーダーなどの用途がある)。
  注3 窒化ガリウム(GaN):
ワイドバンドギャップ半導体で、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長がある。
  注4 高電子移動度トランジスタ(HEMT):
High Electron Mobility Transistor。バンドギャップの異なる半導体の接合部にある電子が、通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されている。
  注5 整合回路:
電気信号の伝送路において、得られる電力が最大になるように回路の出力負荷と、受け側回路の入力負荷を等しくする回路。
  注6 効率18%:
効率とは、投入直流電力が、高周波出力電力-高周波入力電力に変換される割合を表す指数。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
基盤技術研究所 先端デバイス研究部
電話: 046-250-8229(直通)
E-mail: gan-hemt-press@ml.labs.fujitsu.com


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