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PRESS RELEASE (技術)

2008-0201
2008年11月4日
株式会社富士通研究所

C~X帯超広帯域窒化ガリウムHEMT高出力・高効率増幅器を開発

~帯域5 GHzでハイブリッド型増幅器として世界最高性能を実現~

株式会社富士通研究所(注1)は、窒化ガリウム(GaN)(注2)高電子移動度トランジスタ(HEMT)(注3)を用いてC~X帯(注4)(注5)において5 ギガヘルツ(以下、GHz)を超える帯域で、トランジスタやコンデンサをパッケージ基板上に個々に実装するハイブリッド型増幅器として、世界最高性能を有する高出力・高効率の増幅器を開発しました。

本技術を用いることにより、広帯域通信やレーダーなど通信システムの高性能化・高機能化が期待でき、特に航空機レーダーのような複数の帯域を利用する機器でも一つの増幅器で対応が可能となります。さらに、従来のガリウム砒素(GaAs)を用いた増幅器に比べ高い効率(注6)が得られるため冷却装置も小型化でき、その結果、機器の小型・軽量化が期待できます。

なお、今回の技術の詳細は、米国 カリフォルニア州 モントレーで10月12日から開催された化合物半導体回路の国際学会「2008 IEEE Compound Semiconductor IC Symposium」にて発表しました。

背景

ワイヤレス通信における電波の到達距離やレーダーの探知距離を伸張するためには、送信機の出力電力を大きくする必要があります。また、通信容量の拡大、多目標に対するレーダーの探知能力の向上を実現するためには、送信器の帯域を拡大し、マルチチャンネル化が必要となります。航空機のレーダーでは、降雨に強いC帯と高い解像度で測定できるX帯の2種類の送信機を切り替えて利用していますが、C~X帯にわたる超広帯域の送信機があれば一つの送信機で対応することができ、システムが小型化できます。

従来、広帯域・高出力増幅器にはガリウム砒素トランジスタが用いられてきました。しかし、十分な送信出力を得るには多くのトランジスタの出力合成が必要となり、合成回路での損失により効率が低下していました。そこで近年、ガリウム砒素に比べ絶縁破壊電界(注7)が高く、高出力が見込まれる窒化ガリウムHEMTを用いた増幅器の開発が進んでいます。

課題

C~X帯のような高周波で広帯域の特性を実現するための技術として、トランジスタやコンデンサ、抵抗、配線などを同一の半導体チップ上に形成したモノリシック・マイクロ波集積回路(MMIC: Monolithic Microwave Integrated Circuit)技術が広く知られています。しかし、ガリウム砒素トランジスタを用いたMMICでは、上記の理由により、十分な出力と効率が得られていません。

一方、動作電圧の高い窒化ガリウムHEMTをMMICに適用するには、チップ上のコンデンサの耐圧が実用上不十分でした。これに対して、トランジスタとコンデンサを別々に実装するハイブリッド型回路では、高い耐圧のコンデンサを使用できるため、耐圧の問題はなくなりますが、信号線の接続や接地に用いるワイヤにより高周波信号の増幅率が低下し、周波数変動が増大するため、高い効率を広い帯域にわたって実現することが困難でした。

開発した技術

今回、上記の課題を解決し、窒化ガリウムHEMTを用いたC~X帯に対応したハイブリッド型増幅器を開発しました。特長は以下のとおりです。

  1. C~X帯のような高い周波数では、接地に用いるワイヤにより高周波信号の増幅率が低下します。今回開発したハイブリッド型回路では、窒化ガリウムHEMTチップの表面電極と裏面電極を接続するビアホール構造(図1)の採用により接地ワイヤが不要となり、高周波信号の増幅率の低下を抑制することができました。
  2. 信号線の接続に用いるワイヤに起因する周波数変動を抑制するために、超広帯域整合回路(注8)を開発しました。また、耐圧の高いコンデンサを整合回路に用いることにより、高い動作電圧で大きな出力電力を得ることが可能になりました。

これらの技術により、高い周波数で広い帯域にわたって大きな出力電力および高い効率を得ることが可能となります。さらに、ハイブリッド型にもかかわらず、実用上十分な6.0 mm × 6.6 mmの小型化を実現しました(図2)。


図1 ビアホール付きGaN HEMTチップ模式図

図2 開発したC~X帯増幅器

効果

今回開発した広帯域ハイブリッド型C~X帯増幅器では、帯域5 GHz、低域7 GHzにおいて出力6.5 W、効率40%を、高域12 GHzにおいて出力4.1 W、効率26%を実現しました。これまでに報告されている窒化ガリウムを用いた超広帯域・高出力ハイブリッド型増幅器の値を大きく上回り、世界最高性能を実現しました(図3)。



図3 超広帯域GaNハイブリッド型C~X帯増幅器
の効率比較

本技術を用いることにより、送信機のマルチチャンネル化や複数の異なる性質を持った周波数の使用が可能となり、広帯域通信や複数の帯域を使い分けるレーダーなど通信システムの高性能化・高機能化が期待できます。さらにそれらの広帯域通信やレーダーで用いられる増幅器の性能を測定評価する、高周波で出力が不足しがちな測定機器への応用も拡がります。従来のガリウム砒素を用いた増幅器に比べ高い効率が得られることから増幅器の冷却装置を含めた機器の小型・軽量化も期待できます。

今後

今後、本技術は、高出力・広帯域性能が要求されるワイヤレス通信機器やレーダーなどに幅広く適用する予定です。

以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
  注2 窒化ガリウム(GaN):
ワイドバンドギャップ半導体で、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長がある。
  注3 高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor):
バンドギャップの異なる半導体の接合部にある電子が通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されている。
  注4 C帯:
4 GHzから8 GHzの周波数帯の総称。雨や霧による減衰を受けにくい特長を持つ。衛星通信、固定無線、無線アクセス、航空管制レーダー、気象レーダーなどの用途がある。
  注5 X帯:
8 GHzから12 GHzの周波数帯の総称。混信、干渉が少なく、妨害を受けにくい特長を持つ。衛星通信、航空誘導レーダー、気象レーダーなどの用途がある。
  注6 効率:
投入直流電力が(高周波出力電力―高周波入力電力)に変換される割合を表す指数。
  注7 絶縁破壊電界:
絶縁体が電流を流すようになる電界の強さを表す指標。
  注8 整合回路:
電気信号の伝送路において、得られる電力が最大になるように回路の出力負荷と、受け側回路の入力負荷を等しくする回路。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
基盤技術研究所 先端デバイス研究部
電話: 046-250-8229(直通)
E-mail: gan-hemt-press@ml.labs.fujitsu.com


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