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PRESS RELEASE (技術)

2008-0189
2008年10月10日
富士通株式会社
株式会社富士通研究所

世界初! 待機時通電の遮断と高出力を実現する新構造窒化ガリウムHEMTを開発

~省電力化と100ワット以上の高出力化を両立~

富士通株式会社と株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、今後の利用拡大が予想されるマイクロ波帯(注2)~ミリ波帯(注3)の送信用増幅器に適した新構造の窒化ガリウム(注4)高電子移動度トランジスタ(HEMT)(注5)の開発に成功しました。今回開発した技術は、待機時の通電の遮断と100ワット(以下、W)を超える高出力性能を両立する素子の新構造を、世界で初めて開発したものです。マイクロ波帯~ミリ波帯の高速無線通信における、送信用増幅器の大幅な省電力化と高出力化に貢献します。

本技術の詳細は、9月21日からドイツ ルストで開催された国際会議「International Symposium on Compound Semiconductors (ISCS) 」で発表しました。なお、本研究の一部は総務省委託研究「電波資源拡大のための研究開発」の一環として実施したものです。

開発の背景

次世代無線通信では通信速度の高速化に伴い、数ギガヘルツ(以下、GHz)のマイクロ波帯を使用する無線通信の利用が増大しています。また、30 GHz以上のミリ波帯は未使用の広い周波数帯域があることに加え、高速性・直進性といった特長があるため、高速通信を支える帯域として期待されています。

しかし、ミリ波帯は従来の無線通信よりも高い周波数のため、小型の増幅器の実用化は困難で、まだ一般に広く利用されていません。シリコン半導体を利用した増幅器は材料の耐圧(注6)が低く、高い動作周波数と高出力化の両立が困難です。このため、耐圧の高い化合物半導体の利用が期待されています。例えば窒化ガリウム半導体は材料自身の耐圧が高く、高出力向けの用途に適しています。高出力化が可能な増幅器が実現できれば、マイクロ波からミリ波帯において安定した送信が可能になるため、高速な無線データ通信が可能になります。

課題

従来の化合物半導体を利用した増幅器においては、回路の待機時にもゲート電極にマイナスの電圧(注7)を加える必要があるので、消費電力が高くなるという問題がありました。これは、回路の通電を遮断するスイッチ部分に、図1(a)のような、電流をオフにするためにマイナスの電圧をかけ続ける必要があるトランジスタを使用していたためです。これまで、マイナスの電圧を加えなくても通電が遮断でき、かつ100 W以上の出力が可能な化合物半導体トランジスタは存在しませんでした。また、従来のトランジスタでは制御回路の構成が複雑になるため、消費電力が増加する問題もありました。

開発した技術

今回、回路の通電を遮断するためにマイナスの電圧をかける必要のない、図1(b)に示すような窒化ガリウムHEMTの新規トランジスタ構造を世界で初めて開発しました。

構造の特長は以下の通りです。

  1. n型窒化ガリウム層上に窒化アルミニウム層を設け、通電時のキャリアとなる電子の濃度(注8)を大きくすることで、大きな出力が得られる構造を開発しました。
  2. 窒化アルミニウム層を貫通したゲート構造を採用して、ゲート直下部分のみ通電のキャリアとなる電子の濃度を低下させることにより、マイナスの電圧を加えなくても電流が流れにくくなる構造を開発しました。
  3. 窒化アルミニウム層を最上層とすると図2(a)のように表面状態が荒れて耐圧が下がる課題を解決するため、上層にさらにn型窒化ガリウム層を形成した三層構造とすることで表面状態を改善し、高出力化と信頼性を高めました(図2(b))。

図1 窒化ガリウムHEMT構造(a)従来の構造 (b)今回開発した構造


図2 窒化ガリウムHEM構造の表面凹凸像
(a)最上層のない二層キャップ構造 (b)今回開発した三層キャップ構造

効果

今回開発した三層キャップ構造により、マイナスの電圧をゲート電極に加えなくても、待機時に通電を遮断できる窒化ガリウムHEMTを開発しました。また窒化アルミニウム層の導入により、走行電子の量を60%増加できることを確認しました(図1(b))。この結果、通電時の大電流密度を保持しつつ、待機時に通電を遮断できる特性を得ることができました(図3)。また、窒化アルミニウム層をn型窒化ガリウムで覆う三層構造とすることで、素子表面の荒れを抑制し、耐圧300ボルト(以下、V)以上を示す、従来にない高電流密度と耐圧の両立に成功しました(図4)。このため低抵抗で消費電力の低い高効率電力増幅を行うことが可能となります。今回開発した構造を採用することで、待機時に通電を必要とすることなく100 Wを超える出力性能の実現に世界で初めて成功しました。



図3 今回開発した窒化ガリウムHEMTの電流増幅特性

図4 今回開発した窒化ガリウムHEMTの最大電流密度と耐圧ベンチマーク
(マイナスの電圧を加えなくても通電が遮断できるトランジスタ)

今後

今回開発した高耐圧窒化ガリウムトランジスタ技術の実用化を進め、2010年ごろまでに大容量無線通信システムへの適用を目指します。


以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
  注2 マイクロ波帯:
30 MHz以上30 GHz以下の周波数帯。
  注3 ミリ波帯:
30 GHz以上300 GHz以下の周波数帯。10 GHz以下の周波数帯に比べまだ利用率が低い。
  注4 窒化ガリウム:
ワイドバンドギャップ半導体(半導体結晶中の電子が存在できないエネルギー帯の大きな半導体)の一つで、シリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長がある。
  注5 高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor):
1979年に富士通研究所の三村高志氏(現、富士通研究所フェロー)が発明した、高速・低雑音性にすぐれた化合物半導体によるトランジスタ。現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されている。
  注6 耐圧:
ゲート電極とドレイン電極の間に印加することのできる最大電圧。この耐圧を超える電圧を印加すると半導体は破壊してしまう。
  注7 マイナスの電圧:
従来の窒化ガリウムHEMTでは、ゲート電極にマイナスの電圧をかけることでゲート電極直下の電子の濃度をゼロにすることができ、トランジスタの通電を遮断することができる。
  注8 電子の濃度:
窒化ガリウムとn型窒化アルミニウムガリウムの界面において、窒化ガリウム側に分布する電子の単位体積あたりの数。この電子は二次元電子ガスと呼ばれ、高電子移動度トランジスタにおいて電子の濃度が高いと大きな出力が得られる。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
基盤技術研究所 先端デバイス研究部
電話: 046-250-8243 (直通)
E-mail: gan-hemt-press@ml.labs.fujitsu.com


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