PRESS RELEASE (技術)
2008-0134
2008年6月19日
富士通株式会社
株式会社富士通研究所
~世界初!インパルス無線伝送方式で70~100 GHz帯パルス送信を実現~
本研究は総務省委託研究「電波資源拡大のための研究開発」の一環として実施したものです。
なお、この技術の詳細は、6月15日~20日、米国アトランタで開催されているマイクロ波の国際学会「2008 IEEE MTT-S International Microwave Symposium(IMS2008)」にて発表しました。
近年、携帯電話やインターネット利用者の激増と、動画像など送受信データの大容量化にともない、光ファイバー伝送システムを中心とした基幹系情報ネットワークが整備されています。しかし、山岳地や海峡、河川、鉄道・道路の横断などを含む光ファイバーの敷設は、工事などが難しく、ネットワーク整備の障害となっています。そのような地域では、光ファイバーの代替として大容量伝送能力(10 Gbps)を持つ無線システムを整備することが望まれています。また、事故や災害などの緊急時における非常回線としても、大容量無線システムの必要性が高まっています。
図1 インパルス無線伝送システム |
伝送容量が10 Gbpsを超える無線伝送には、商用無線局が少なく広い周波数帯域を確保しやすいミリ波帯(30~300 GHz)が有効です。なかでも70~100 GHz帯は、「電波の窓」(注4)とよばれ、大気吸収による電波の減衰が少ない領域であり、数キロメートル以上の伝送が可能です。
しかし、70~100 GHz帯で動作する電子部品は単機能品が多く、小型化が進みませんでした。そこで、発振器が不要で、短パルス(注5)発生器と送信増幅器のわずか2部品で送信部(ミリ波帯パルス通信用送信器)を構成できるインパルス無線伝送技術(図1)の開発が求められてきました。しかし、70~100 GHz帯の無線伝送では、エネルギーの高いパルス信号の生成と、エネルギー損失の低いフィルターの開発が課題となっていました。
10 Gbps超の伝送が可能なミリ波帯通信の実現に向け、以下のようなインパルス無線伝送技術を開発しました。
インパルス無線伝送技術を70~100 GHzミリ波帯に適用するには、100 GHzまで十分なエネルギーを有する短パルスを生成する必要があります。半値幅(注6)の小さいパルスほど高周波まで高いエネルギーを有するため、具体的には、10ピコ秒以下の半値幅が必要となります。そこで、富士通研究所が開発し、高速性能に優れたインジウムリン系高電子移動度トランジスタ(注7)技術を用いて、デジタル回路をベースとする短パルス発生器を開発しました。その結果、世界最高性能となる半値幅7.6 ピコ秒の極短パルスの生成に成功し、100 GHz以上のエネルギーが分布することを確認しました。
ミリ波帯パルス通信用送信器では、短パルスのもつ非常に広帯域なエネルギーから、伝送に必要な周波数帯のみを抽出するためのフィルターが不可欠です。ミリ波帯で影響の大きい表皮効果(注8)と呼ばれる損失を考慮し、高周波性能にすぐれ入手性が良いアルミナ基板上に多段結合線路型フィルターを形成しました。その結果、フィルターを通過することのできる信号の周波数範囲(通過帯域)78~93 GHz、通過帯域内の信号がフィルターを通過する際の損失量(通過損失)1.5±0.1デシベルと、ミリ波帯インパルス無線に必要な性能を得ることに成功しました。
上記2つの技術を適用し、ミリ波帯パルス通信用送信器を構成しました(図2)。その結果、ミリ波帯(今回は、78~93 GHz)において、インパルス無線伝送方式としては世界初となる、10 Gbpsを超えるパルス信号の生成を確認しました(図3は10 Gbps相当パルス信号の実測結果)。従来の送信器で不可欠であったミリ波帯発振器とミキサーなどが不要となり、装置容量を約30%にまで小型化することができます。
今回の成果により、光ファイバーの代替として、デジタルデバイド解消に向けた基幹回線、河川・道路横断用回線、離島通信、災害時通信などへの適用を目的とするミリ波帯無線伝送装置を実現するための基盤技術を確立することができました。さらに本技術は、屋内超高速無線LAN、高分解能レーダーなど幅広い応用が可能です。
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今後、受信装置との組み合わせにより固定通信をターゲットとした送受伝送試験を実施します。2012年ごろの実用システム開発に向け、フィールドでの試験を重ねてまいります。
以上
株式会社富士通研究所
基盤技術研究所 先端デバイス研究部
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E-mail : kikan-press@ml.labs.fujitsu.com
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