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PRESS RELEASE

2007年9月19日
国立大学法人東京大学 ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構
株式会社富士通研究所

電流駆動で初めて1.55マイクロメートル帯単一光子発生に成功

量子暗号通信の実用化に大きく近づく


国立大学法人東京大学 ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構(注1)の荒川泰彦教授らと株式会社富士通研究所(注2)はこのほど共同で、世界で初めて電流注入による波長1.55マイクロメートル(以下 μm)の単一光子(注3)発生に成功しました。電流注入による単一光子発生は、電気信号による直接変調によって単一光子パルスを生成できるため、通常の単一光子発生で用いられる光励起方法と比較して、励起光源の複雑な生成・制御回路などが不要となり、単一光子発生システムのデバイス集積化、コンパクト化、低消費電力化につながります。また波長1.55μm帯は、光ファイバーの伝送損失がもっとも小さく、既存の長距離通信で広く用いられている波長帯であるため、今回の成果は、単一光子の応用分野となる量子暗号通信(注4)の長距離化や、より高い伝送速度の実現につながる、実用上の重要な前進といえます。

この成果は9月19日から21日まで茨城県つくば市で開催される国際固体素子・材料コンファレンス(SSDM2007)にて、19日に発表の予定であり、同会議の「注目講演」に指定されています。なお、本技術の研究開発の一部は、科学技術振興調整費「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成」プログラムによるものです。


開発の背景

インターネット上での電子商取引の普及に伴い、より安全性の高い通信に対する需要が高まっています。その中でも量子暗号通信は、盗聴の可能性をゼロにできる極めて安全性の高い究極の暗号通信として、世界中で活発に研究開発が進められています。これまで主にその光源にはレーザー光を極限まで減衰して作り出した擬似的な単一光子光源を用いていました。

理想的な量子暗号通信の実現には、1パルスに含まれる光子を1個に制限できる単一光子発生器が必要となります。荒川教授グループと富士通研究所による研究グループは、3次元的に電子とホール(正孔)を非常に狭い空間に閉じ込めることができる量子ドットを用い、光励起によって2004年7月、世界で初めて1.3μm帯での単一光子発生に成功し、さらに2005年5月、最小損失の1.55μm帯で単一光子発生に成功するなど、光通信波長帯における単一光子発生のマイルストーンを築いてきました。

一方、単一光子発生器のデバイス集積化、低消費電力化には、電流注入による直接変調動作が欠かせず、量子暗号通信実用化のうえで大きな鍵となっています。これまで1.3μm帯で電流注入により単一光子発生させた他社の例はありますが、光通信の最小損失波長帯の1.55μmで実現したのは今回が初めてです。


開発した技術と実験結果

電流注入により波長1.55μm帯の単一光子発生を実現するために、量子ドットを発光ダイオード(LED)構造の中に埋め込み、電流注入により単一の量子ドット発光を実現するデバイス構造(図1)を新たに設計し、同時に、設計どおりの構造を実現するためのプロセス技術を開発しました。とくに不純物ドーピング構造、単一量子ドットからの発光を取り出す光学構造やコンタクト電極の新たな形状を考慮するなどで、課題を克服しました。

今回開発した単一光子発生素子を用いて、光子相関法(注5)による単一光子発生検証実験を実施した結果(図2)、同時(τ = 0)に2つの光子を検出する割合が1よりも大きく下がり、光子が1個か0個の状態であるアンチバンチング現象(注6)を観測しました。これから波長1.551μmの単一光子発生を確認することができました。



図1 電流注入による単一光子発生を実現する量子ドットLED(単一光子発生器)。
(a) デバイス構造概略図、(b) デバイス構造SEM(走査電子顕微鏡)像。


図2 電流注入による1.551μmの単一光子発生

以上

注釈

  注1 東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構:
機構長 荒川泰彦、所在地 東京都目黒区。略称:東大ナノ量子機構
  注2 株式会社富士通研究所:
社長 村野和雄、本社 川崎市中原区。
  注3 単一光子:
光は粒子性を持っており、単一光子は光の粒子1個を意味する。これ以上分割して光子の持つ情報をコピーすることができない。
  注4 量子暗号通信:
量子力学を利用して、解読に必要な秘密鍵を通信者間で安全に共有できる通信技術。実用化に最も近い方式がBB84と呼ばれる方式で、単一光子に鍵情報をのせて伝送する。
  注5 光子相関法:
光子数のばらつきを測定する技術。一つの光子を観測したその後に別の光子を観測する確率を測定することによって、ばらつきを推測できる。
  注6 アンチバンチング現象:
光を粒子と考えると、全体として同じエネルギーを持つ集団を形成(バンチング)しやすく、集団の中にばらつきが生じる。しかし光子が1個か0個のいずれかで、2個以上の集団でない状態をアンチバンチングといい、単一光子の確認には、光子相関をとって、アンチバンチング現象の確認が欠かせない。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構
先端科学技術研究センター 生産技術研究所
電話: 03-5452-6245


株式会社富士通研究所
ナノテクノロジー研究センター
電話: 046-250-8234(直通)
E-mail: nano-qc@labs.fujitsu.com


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