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PRESS RELEASE (技術)

2006-0095
2006年6月6日
富士通株式会社
株式会社富士通研究所

世界初! ナノ粒子触媒によるカーボンナノチューブ
配線形成技術を開発

~LSIの層間配線へ適用~

富士通株式会社は、株式会社富士通研究所(注1)と共同で、世界で初めて、ナノサイズの金属微粒子(ナノ粒子)触媒による、多層カーボンナノチューブ(注2)配線の形成技術を開発しました。ナノ粒子触媒を用いることで、LSIの層間配線(ビア配線)におけるカーボンナノチューブの密度制御が容易になり、これまでで最高密度のビア形成を実現しました(図1)。次々世代以降の微細で低抵抗のLSI多層配線に貢献します。

今回開発した技術は、32ナノメートル(以下、nm)世代以降のLSI配線の微細化や低抵抗化を目指したものです。

本研究は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)より財団法人ファインセラミックスセンター(注3)に委託された、ナノカーボン応用製品創製プロジェクト(NCTプロジェクト)の一環として実施されました。

本技術の詳細は、6月5日から7日に米国サンフランシスコで開催される配線技術の国際会議IITC2006 (2006 IEEE International Interconnect Technology Conference)で発表します。

図1 今回開発したカーボンナノチューブ配線の走査型電子顕微鏡像
(直径40nmのビアホールからの成長)

開発の背景

多層カーボンナノチューブは、自己組織的に形成されるナノサイズの構造体(直径1から数十nm、長さ1から100マイクロメートル、以下μ)で、将来のLSI配線に適した物理的な性質を持っています。たとえば、多層カーボンナノチューブは銅よりも電流密度を1,000倍以上高くすることが可能で、微細なLSIで高速な回路が実現できます。また銅の約10倍の高い熱伝導率を持つため、将来の微細LSIで発生する熱を配線を通じて逃がすことが可能です。

当社では、多層カーボンナノチューブを、LSI多層配線間を上下に結ぶビア配線に応用することを目指しています。そのためには、カーボンナノチューブを高密度で形成し、低抵抗なビア配線を実現することが必要です。

課題

多層カーボンナノチューブの成長には、一般的には鉄、コバルト、ニッケルなどのナノサイズの粒子が触媒として必要であり、その粒子の直径や密度によって、形成される多層カーボンナノチューブの直径や密度も決まると考えられています。触媒となるナノ粒子を作成するのに、従来はまず基板上に触媒の薄膜を形成し、次に熱処理によって薄膜から微粒子を作成する、という方法をとっていました。

しかし、この方法では、基板の種類や温度などによって、作られる触媒ナノ粒子の直径や密度が異なるという問題がありました。結果として、形成される多層カーボンナノチューブの直径や密度の制御も容易ではなく、ビア配線の低抵抗化の障害となっていました。

開発した技術

今回新たに、直径のばらつきが少ない触媒ナノ粒子を高効率で作成し、それらを微細な配線ビアホールの底に高密度で堆積する技術を開発しました。新技術は、半導体プロセスと整合性の高いドライプロセス(真空装置内での製造工程)を用いています。

開発した技術の特長は、以下のとおりです。

  1. インパクター(注4)を用いたナノ粒子のサイズ選別

    一般に5nm以下のナノ粒子は荷電しづらく、従来のように荷電粒子の電場中での軌跡で粒子サイズを選別することは困難でした。そこで今回、ナノ粒子の大きさによる慣性力の違いを利用してサイズ選別を行うインパクターを新たに開発しました。荷電されていないナノ粒子でも、従来手法に比べて遥かに高い効率で特定サイズのナノ粒子を得ることができます。直径5nm以下のナノ粒子の選別にインパクターを適用するのは世界で初めてです。

  2. 高い指向性を持つナノ粒子ビームの形成

    単にナノ粒子を含むガスを吹き付けるだけでは、微細ビアホールの底部にナノ粒子を一様に堆積させることは困難です。そこで、圧力1,000パスカル(以下、Pa)程度のヘリウムガス中で形成されたナノ粒子を、10-3Pa程度の高真空に段階的に導くことにより、指向性の高いナノ粒子ビームを形成し、微細ビアホール底へのナノ粒子堆積を可能にしました。

図2 配線ビアホール底部に堆積されたコバルトナノ粒子

効果

サイズ選別技術により、直径4nmのナノ粒子において、堆積速度が従来の約1,000倍になり、300mmウェーハへナノ粒子を一様に堆積させることが現実的になりました。また、高指向性の微粒子ビームにより、直径100nm以下のビアホール底へ触媒ナノ粒子を高密度で一様に堆積させることに成功しました(図2)。これらによって作製したカーボンナノチューブビアの抵抗は、直径2μで約0.59オームでした。この値は、現在LSIに使用されているタングステン並みであり、カーボンナノチューブビアとしては現在世界で最も低い抵抗値になります。

さらに、直径40nmのビアにおいて1平方センチあたり9x1011本と現時点で最高密度の多層カーボンナノチューブ成長に成功しました(図1)。

今後

今回開発した技術により、カーボンナノチューブの触媒であるナノ粒子のサイズや密度を制御することが可能になりました。現状ではまだ全てのナノ粒子触媒からのカーボンナノチューブ成長は実現していませんが、今後成長技術の改善によりカーボンナノチューブ密度を向上し、現状より一桁小さい銅ビアに匹敵する抵抗を実現していきたいと考えています。

なお、本技術は今後、「次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト」の新探究配線技術の一環として、株式会社半導体先端テクノロジーズ(注5)において継続していきます。


以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
  注2 多層カーボンナノチューブ:
カーボンナノチューブは、炭素原子が円筒状に結合したナノメートルサイズの直径を持つチューブのこと。多層カーボンナノチューブは、そのチューブが同心円状に複数あるもの。強靭な機械的強度、化学的な安定性、高い熱伝導率、低い抵抗値、高い許容電流密度といった優れた物理的な特長を有している。
  注3 財団法人ファインセラミックスセンター:
会長 瀬谷博道、所在地 愛知県名古屋市。
  注4 インパクター:
ノズルから高速でナノ粒子を含むガスを噴出し、前方に置いた板でガスの流れを急激に変化させ、ナノ粒子のサイズに応じた慣性力の違いを利用して特定のサイズの粒子を選別する装置。
  注5 株式会社半導体先端テクノロジーズ:
代表取締役社長 渡辺久恒、所在地 茨城県つくば市。

技術に関する問い合わせ先

株式会社富士通研究所 ナノテクノロジー研究センター

電話: 046-250-8234(直通)
E-mail: nano-mate@labs.fujitsu.com


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