FUJITSU
Worldwide|サイトマップ
THE POSSIBIliTIES ARE INFINITE
Japan
元のページへ戻る
[ PRESS RELEASE ](技術)
2005-0155
2005年10月6日
株式会社富士通研究所
富士通株式会社

生体タンパク質の光物性を予測可能なソフトウェアを開発

株式会社富士通研究所(注1)と富士通株式会社(以下、富士通)は、東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センター櫻井実教授のグループと共同で、生体タンパク質の吸収波長などの光物性を高精度に予測できる分子軌道計算ソフトウェア(注2)を開発いたしました。

今回開発したソフトウェアは、網膜のタンパク質が特定の波長を吸収するメカニズムを分子・電子レベルで解明するために有用なツールで、色素を含む樹脂材料や新たな原理の感光材料の設計にも応用が期待できます。

なお、開発したソフトウェアの詳細は、9月27日から開催された分子構造総合討論会2005(江戸川区総合区民ホール)にて発表しました。

【背景】

近年、計算化学シミュレーションを用いた生体物質の予測技術が注目を集め、生体タンパク質の働きを分子・電子レベルで解明することができるようになってきました。中でも、光を感じるタンパク質のロドプシン(注3)は、Gタンパク質共役受容体(注4)の一種で立体構造も明らかになっていることから、新薬開発におけるシミュレーションなどで幅広く研究されています。

【課題】

分子構造から光物性を予測するには、少なくとも分子サイズの3から4乗に比例する計算時間とメモリサイズが必要となるために、ロドプシンなどの大きい分子サイズのタンパク質全体を直接計算することは困難でした。従来はタンパク質のうち光活性部分のみを中心に計算していましたが、不活性部分の影響を十分に考慮できないため予測精度が低くなるという問題点がありました。

【開発した技術】

今回開発したのは、タンパク質の活性部分の光物性を不活性部分の影響を考慮して計算できるように改良したソフトウェアで、以下の3つの技術からなります。

  1. QM/MM法 (Quantum Mechanics/Molecular Mechanics): タンパク質を光活性部分と不活性部分に分割し、光活性部分の物性を量子力学に基づいて高精度に計算します。この際、不活性部分の及ぼす影響を3次元構造の効果も含めて古典物理学により計算します(図1)。
  2. PMM法 (Polarizable Mosaic Model): 光活性部分が光を吸収することで起こる不活性部分の変化をタンパク質の化学結合の性質から計算します。
  3. RPA法(Random Phase Approximation): 分子が光を吸収した状態を計算する手法で、当社の計算化学ソフト「MOS-F」に実装されています。

【効果】

ロドプシンなどレチナールを活性部位として持つタンパク質10種について、レチナールの吸収波長(λ)のシミュレーションによる計算値と実測値とを比較しました(図2)。その結果、実測値との差が-9ナノメートルから+15ナノメートルと、従来手法(40ナノメートル程度の差)に比べて極めて小さいことが実証できました。

開発したソフトウェアは、レチナールを持つタンパク質の光物性を極めて高精度に予測できるので、網膜のタンパク質が光に反応するメカニズムを分子レベルで理解するための基礎研究のツールとして有用です。また、本ソフトウェアは、樹脂中に分散した色素の波長計算にも原理的に適用可能なため、新たな感光材料や、機能性有機色素の材料開発を支援することが期待できます。

【今後】

今回開発したソフトウェアは、2005年12月以降、分子軌道計算ソフトウェア「MOS-F V7」として製品化し、計算化学ソフトパッケージ「MOPAC(注5)シリーズ」にバンドルする予定です。

富士通はバイオ・ナノテク材料などのシミュレーションに使われる計算化学ソフトウェアを自主開発製品として20年以上継続して開発、提供してきました。これらは、研究開発の現場で生まれたシミュレーション技術をソフトウェアパッケージ提供部門に積極的にフィードバックすることにより得られたものです。本研究開発もその一環であり、今後も引き続き有用な研究開発、製品開発・提供を続けていきます。

図1.QM/MM法による光物性計算 図2.レチナールタンパク質のλ計算結果
図1.QM/MM法による光物性計算 図2.レチナールタンパク質のλ計算結果

【商標について】

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

(注1)株式会社富士通研究所:
社長 村野和雄、本社 川崎市
(注2)分子軌道計算ソフトウェア:
分子軌道を計算することで、分子内にある電子のエネルギー分布から安定した分子の形、光吸収波長などを予測することが可能になる。
(注3)ロドプシン:
網膜に含まれる明暗を感じる物質。オプシンとよばれるタンパク質にビタミンAの誘導体であるレチナールが結合している。
(注4)Gタンパク質共役受容体:
光やにおいなどの刺激を最初に感じるタンパク質。新薬開発における重要なターゲットでもある。
(注5)MOPAC:
富士通のコンサルタントJames Stewart博士および富士通、富士通研究所で開発されている高分子ポリマー対応計算化学プログラム。化学・創薬研究者に広く利用されている。

プレスリリースに記載された製品の価格、仕様、サービス内容、お問い合わせ先などは、発表日現在のものです。その後予告なしに変更されることがあります。あらかじめご了承ください。ご不明な場合は、富士通お客様総合センターにお問い合わせください。

元のページへ戻る ページの先頭へ

All Right Reserved, Copyright (C) FUJITSU