[ PRESS RELEASE ](技術) |
2005年4月6日
国立大学法人東京工業大学 株式会社富士通研究所 |
世界初!シリコン基板上に高品位な強誘電体光学単結晶膜の形成に成功
〜光デバイスとLSIの1チップ化に道〜
本技術は、将来の超小型光通信システムに向けて開発したもので、文部科学省の科学技術振興調整費「産学官共同研究の効果的推進(マッチングファンド)」を利用して達成されたものです。
なお、本技術の詳細は、6月に中国杭州で開催される第4回アジア電子セラミックス会議(AMEC-4)で発表する予定です。
【開発の背景】
インターネット上でのデータ通信量が増大しており、大容量で高速な光通信システムの家庭への普及に向け、装置の小型化が求められています。従来の光通信システムは、光変調器など光信号を処理するデバイスと電気信号を処理するシリコンLSIの異なるデバイスが組み合わされて用いられており、システムの小型化にはこれらを1チップ化することが有効です。
【課題】
光デバイスとシリコンLSIの1チップ化を実現するためには、透明で光の伝播損失が小さく、しかも電界で屈折率を変化させることのできる材料をシリコン基板上に形成させる技術が必要となります。
電圧を加えると屈折率が変化する電気光学材料として強誘電体(注3)があります。これまでもシリコン基板上へ強誘電体膜を形成させる試みはありましたが、光が伝播するのに必要な1マイクロメートル以上の厚みまで規則正しい原子配列を保ったまま形成させることが難しく、シリコン基板上で高い電気光学効果をもつ材料が存在しないという課題がありました。
【開発した技術】
今回開発したのは、シリコン基板上へ強誘電体光学単結晶膜を形成させる技術です。シリコン基板と強誘電体結晶との間に複数の層を導入することで、原子配列の乱れをおさえ規則正しく配列した強誘電体単結晶膜(エピタキシャル膜(注4))を、シリコン基板上に形成する技術を実現しました。
開発した技術の特長は、以下のとおりです。
シリコン基板上へのエピタキシャル形成技術:高品位の強誘電体単結晶膜を実現
シリコン基板と電気光学効果を有する強誘電体結晶との間に、複数の層を導入しました。この複数の層自身もエピタキシャル形成しており、強誘電体結晶とシリコン基板の反応や原子配列の乱れをおさえ、原子を規則正しく配列した強誘電体エピタキシャル膜をシリコン基板上に形成できます。本技術により膜内部における光の散乱が抑えられ、光が膜内部を伝播することができるようになりました。
強誘電体材料技術:強誘電体新材料を開発
電気光学効果を有する材料として、鉛・マグネシウム・ニオブ・チタン系酸化物の新材料を開発しました。本技術で2マイクロメートル以上の厚みを有するエピタキシャル膜をシリコン基板上に形成することに成功し、シリコン基板上の膜で初めて電気光学効果を確認しました。新材料の電気光学特性は、現在実用されている材料(ニオブ酸リチウム)より大きいことを確認しています。
【効果】
今回開発した技術は、光デバイスとシリコンLSIとを1チップ化した新しい小型の光通信用デバイスの実現に道を開くものです。電気光学特性は、光通信に用いられている波長(1.55マイクロメートル)の光で、ニオブ酸リチウムの1.5倍となる1ボルト当たり27ピコメートル(27pm/V)の電気光学定数(注5)を確認しています。また伝播損失は1センチメートル当たり3デシベル(3dB/cm)以下(注6)で、実用可能なレベルであることを確認しています。
【今後】
今後、本技術を元に、更なる電気光学特性の向上と、大面積のシリコン基板上により均質で高品質な電気光学結晶を形成可能なプロセス技術の確立を図ります。
以上
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図1 開発したシリコン基板上の強誘電体単結晶膜の断面構造と結晶構造 |
注釈
- (注1)国立大学法人東京工業大学:
- 学長 相澤益男、所在地 東京都目黒区。
- (注2)株式会社富士通研究所:
- 社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
- (注3)強誘電体:
- 電圧を加えることで分極を反転させることのできる材料で、分極反転を利用したメモリや、圧電性を利用したアクチュエータ等に利用されている。
- (注4)エピタキシャル膜:
- 基板面垂直方向、基板面内(水平)方向ともに揃って成長した結晶膜。
- (注5)電気光学定数:
- 電圧印加量に対する屈折率の変化量を示す定数。数値が大きい程単位電圧当たりの屈折率変化が大きくなる。今回は(r33)を用いた。
- (注6)伝播損失3dB/cm以下:
- 光学材料の屈折率を測定するプリズムカップリング法による測定データ。
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