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[ PRESS RELEASE ](技術)
2004-0229
2004年12月21日
株式会社富士通研究所

窒化ガリウムHEMTを低コストで製造する技術を開発

株式会社富士通研究所(注1)は、第3世代以降の移動通信基地局向け増幅器に使用される、窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(HEMT)(注23)を低コストで製造する技術を開発いたしました。

今回開発した技術により、窒化ガリウムHEMTの製造費用を従来比で3分の1以下にすることも可能となり、窒化ガリウムHEMTを用いた増幅器の低コスト化に貢献します。

今回開発した技術は、窒化ガリウムHEMTを用いた、小型で消費電力が低い移動通信基地局の実用化に向けたものです。

本技術の詳細は、12月13日から米国サンフランシスコで開催された国際電子素子会議(IEDM:International Electron Devices Meeting)で発表しています。

【開発の背景】

次世代の移動通信基地局向けの高出力増幅器として、窒化ガリウムHEMTを用いた増幅器に期待が寄せられています。高い電圧での動作が可能であると同時に、高い出力性能と出力効率を達成できる条件を満たしているためです。

当社はこれまで、独自の窒化ガリウムHEMT構造と歪補償回路(注4)を組み合わせ、第3世代以降の移動通信基地局向け増幅器として、高い出力と高い効率での動作を実証してきましたが、量産・実用化に向けて低コストで製造する技術の開発が必要でした。

【課題】

これまで当社で開発してきた窒化ガリウムHEMTには半絶縁性炭化珪素(SiC)基板を使用していました。SiC基板は他の材料に比べて安定した高効率動作を可能としますが、高価であり窒化ガリウムHEMTのコストを引き上げる要因となっています。当社では、青色LED等で実用化されており、半絶縁性SiC基板より安価な導電性SiC基板(注5)の使用を研究してきましたが、実用に向け、導電性基板に起因した寄生容量成分(注6)による利得(注7)低下と、導電性基板への漏れ電流の発生という課題がありました。

【開発した技術】

今回開発したのは、窒化ガリウムHEMTの低コスト製造技術です。10マイクロメートル(以下、microm)以上の窒化アルミニウム膜を導電性SiC基板上に成膜し、その上に窒化ガリウムHEMTを作製することで実現しました(図1)

窒化アルミニウムの厚みの効果をシミュレーションし、10microm以上の厚みであれば寄生容量成分を十分低減できることを見出し、必要な利得性能を達成しました(図2)。なお、窒化アルミニウム膜を成膜する手法としてハイドライド気相成長法(注8)を、窒化アルミニウム上の窒化ガリウムHEMT構造は有機金属気相成長法(注9)を適用しています。

また、窒化ガリウムよりもバンドギャップ(注10)の広い窒化アルミニウムを使用し、さらに直上の窒化ガリウムの成膜条件を最適化することで、導電性基板への漏れ電流を抑制することに成功しました。

【効果】

今回開発した技術により、半絶縁性SiC基板より安価な導電性SiC基板を使用することで、窒化ガリウムHEMTの製造費用を従来比で3分の1以下にすることが可能となり、窒化ガリウムHEMTを用いた増幅器の低コスト化を実現します。

特性についても最大出力101ワット(以下、W)、 最大電力付加効率50パーセント(注10)、 利得15.5デシベル(以下、dB)と実用レベルの特性を得ています(図3)

【今後】

今後、今回の低コスト製造技術を製造プロセスに適用し、1-2年以内の実用化を目指します。

以上

今回開発した窒化ガリウムHEMTの断面図
図1 今回開発した窒化ガリウムHEMTの断面図

100Wチップ回路シミュレーション結果とデバイス試作結果
図2 100Wチップ回路シミュレーション結果とデバイス試作結果

今回開発した窒化ガリウムHEMT増幅器の出力電力と利得の関係
図3 今回開発した窒化ガリウムHEMT増幅器の出力電力と利得の関係

注釈

(注1)株式会社富士通研究所:
社長 村野和雄、本社 川崎市中原区。
(注2)窒化ガリウム:
ワイドバンドギャップ半導体で、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長がある。
(注3)高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor):
バンドギャップの異なる半導体の接合部にある電子が通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されている。
(注4)歪補償回路:
発生する歪の逆特性をあらかじめ加えておくことで歪補償を行うデジタルプリディストーション(Digital Pre-Distortion: DPD)方式を用いた歪補償LSI。
(注5)導電性SiC基板:
電気的に低抵抗なSiC基板。電気的に高抵抗なSiC基板に比べ製造しやすいため安価である。
(注6)寄生容量成分:
デバイス動作部分に起因していない容量成分。導電性基板を用いる場合、導電性基板と電極部分の間がコンデンサ状態となり、寄生容量成分が発生する。このような寄生容量が存在すると高周波特性を悪化させる要因となるため、低減することが必須である。
(注7)利得:
増幅器に供給された入力信号と出力信号の比率。増幅された割合を示す。
(注8)ハイドライド気相成長法:
アルミニウムの塩化物とアンモニアを原料として高温で成膜させる方法。
(注9)有機金属気相成長法:
アルミニウム原料とガリウム原料として有機金属を使用し、窒素原料としてアンモニアを使用して高温で成膜させる方法。
(注10)バンドギャップ:
半導体結晶中の電子が存在できないエネルギー帯のこと。半導体結晶中では原子同士が隣接しているため、その相互作用により電子は連続的なエネルギー分布をとるようになる。しかしエネルギー分布の中には電子が存在できないエネルギー帯「バンドギャップ」も形成される。このバンドギャップの大きな半導体をワイドバンドギャップ半導体と呼ぶ。
(注11)最大電力付加効率:
増幅器に供給された直流電力が出力信号として高周波電力に変換される効率を表す指数の一つ。

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