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[ PRESS RELEASE ](技術)
2004-0096
2004年6月7日
株式会社富士通研究所

世界最高速!毎秒144ギガビットで動作する光通信用ICを開発

株式会社富士通研究所(注1)は、インジウム・リン高電子移動度トランジスタ(InP-HEMT)技術(注2)を用い、デジタル回路では世界最高速の毎秒144ギガビットで動作するセレクタ回路(注3)と、毎秒100ギガビットで動作する4対1多重化回路(注4)を開発しました。今回開発した技術により、これまで実現が不可能とされていた毎秒100ギガビットを越える超高速通信用LSIを実現することが可能となります。

今回開発した技術は、毎秒100ギガビット以上の伝送速度に対応した次世代通信用LSIを実現させるためのものです。

本技術の詳細は、6月6日から米国フォートワースで開催されているIMS 2004(International Microwave Symposium)で発表します。

【開発の背景】

将来の回線容量増大に備え、テラビット級(テラは1兆)の光通信システムの実現を目指した研究開発が世界中で行われています。その手段として、複数の光信号を多重化する波長分割多重(WDM)(注5)方式が有効ですが、同時に1波あたりの伝送速度を高めることも検討されています。セレクタ回路や多重化回路(マルチプレクサ)はそのための主要回路技術であり、毎秒100ギガビットを超える超高速回路の実現が世界的に注目されています。

【課題】

マルチプレクサのような大規模回路では、データが最終段の回路ブロックに到達するまでに遅延時間が生じます。データはクロックのタイミングで処理されるため、通常、クロック遅延回路を用いてこの遅延時間を補償しています。しかし、データ速度が毎秒100ギガビット以上になると、データスロット(1データの時間的長さ)が10ピコ秒以下(ピコは1兆分の1)と極めて小さくなるため、クロックの遅延時間の制御には高い精度が求められます。

また、回路を構成するトランジスタには高速性と高い歩留まり(注6)が要求されます。高速化は、トランジスタのゲート電極を微細化することで達成できますが、従来、化合物半導体で用いられてきた微細ゲート電極(断面構造がT型)では、ゲート長が0.1マイクロメートル以下になると機械的な強度が下がり、十分な歩留まりが得られなくなるという欠点がありました。

【開発した技術】

今回開発したのは、InP-HEMT回路を高速化する技術です。

  1. クロック遅延回路技術

    回路の種類に依存した遅延時間のばらつきを考慮し、高精度なクロック遅延回路を開発しました。本回路は、データ処理回路とまったく同じ回路構成、回路ブロック数で構成されており、データとクロック信号間のタイミングをデータスロット(10ピコ秒)に対して10%以内の精度で合わせこむことを可能にしています。

  2. YゲートInP-HEMT技術

    ゲート電極の断面構造をY型(図1)にすることで機械的な強度を高め、ゲート長0.1 マイクロメートルという微細トランジスタを高精度、かつ大規模に集積することが可能としました。また、ゲート電極の機械的強度は従来構造(T型)に比べて約10倍向上しています。

Y型ゲート断面写真図1 Y型ゲート断面写真

【効果】

開発した技術を用いて、測定器限界である毎秒144ギガビットで動作するセレクタ回路と、毎秒100ギガビットで動作する4対1マルチプレクサを実現しました(図2)(図3)。今回開発したセレクタ回路はデジタル回路としては世界最高速度で動作しています。本技術によって、次世代光通信など100ギガビット超級の通信システムの実現に目処が立ちました。

セレクタ回路 チップ概観写真 セレクタ回路 144ギガビット/秒出力信号波形
図2 セレクタ回路 チップ概観写真図3 セレクタ回路 144ギガビット/秒出力信号波形

【今後】

今後は、今回開発した技術をもとに、マルチプレクサやデマルチプレクサ(分離回路)をはじめとした高機能・高集積回路の開発とそのさらなる高速化を進め、テラビット級の通信システムの開発へ貢献していきます。

以上

用語説明

(注1)株式会社富士通研究所:
社長 藤崎道雄、本社 川崎市
(注2)InP-HEMT:
HEMT(High Electron Mobility Transistor)は、バンドギャップの異なる半導体材料の接合界面に生じる電子が、通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。基板に化合物半導体であるインジウム・リン(InP)を用いることで、より電子の速度の速い構造を実現できる。
(注3)セレクタ回路:
2つの入力データ信号のどちらか一方を任意のタイミングで選択・出力する回路。マルチプレクサの多重化部分に用いられる回路で、最も高速動作が要求される。
(注4)多重化回路(マルチプレクサ):
複数の低速信号を時分割多重して1つの高速信号を生成する回路。光通信システムの送信部で用いられ、信号の時間的ゆらぎ(ジッタ)の少ない高品質な信号を出力することが要求される。
(注5)波長分割多重(WDM):
信号を搬送する光の波長を複数用いることで、一つの光ファイバーに複数の光信号を多重する方式。波長の異なる光ビームは互いに干渉しないという性質を利用しているため、多重する光の数を増やすことによって光ファイバー上の情報伝送量を飛躍的に増大させることができる。最近では40波以上を多重することができるようになり、高密度WDM(DWDM)と呼ばれている。
(注6)歩留まり:
ウェハー内に作製したトランジスタ全個体数のうち、動作可能な個体数の割合を意味する。マルチプレクサのような大規模集積回路を動かすためには、少なくとも99.9%以上の高歩留まりが必要である。

関連リンク

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